入れ替わり その1
朝
顧問に朝早く呼び出されたのにもかかわらず、その仕事があっさり終わってしまった彼らは
HRまで1時間という時間が余っていたために、暇をもてあましていた
「…なんかね~かな~」
一ノ瀬が腕を頭に回してパイプ椅子を傾けながらつぶやく
その腕が結城の近くスレスレを通っていくのもお構いなしの様子だ
「…あのさ、ナチュラルに攻撃しないでくれる?」
「なんかね~かな」
結城が言うが一ノ瀬は気にしていないようにただその言葉を繰り返す
「…ん~あることにはあるんだけど…」
「ん?どうしたんだ?」
宮内が少し迷いながら口を開く
一ノ瀬は興味深そうに椅子を傾けるのをやめて相手の方を見る
「…これ、興味本位でちょっと買ってみたんだけどね?」
「…魔術大全?」
結城がそのタイトルを見ながら読み上げる
「何そのあからさまに怪しいを全面に押し出してる本」
「だから興味本位だって…で、面白そうなのあるんだけど…コレ!」
言いながら宮内はページをパラパラとめくり、目的の項目についたのかソレを指差して指し示す
「…入れ替わりの魔法?って…体が入れ替わるやつ?」
「みたいだね」
塚本が言うのに、本の文章を読んでいた鳴滝が頷いて肯定する
「いいぜ!面白そうだし、どうせ本当にはならないだろ」
一ノ瀬は興味本位で笑顔で言う
「でもさ、材料どうするの?鏡とかはまだしもさ…
何?この両生類の肝やら怪しげな生き血とかは」
「貸せ」
結城がため息をつきながら言うのに、先ほどまで遠巻きに見ていた海部が突然言う
「えっ…」
「良いから貸せ」
そういって手を出すので、結城が本を持って相手に差し出す
海部はしばらくそれを眺めると、本を閉じて言う
「…30分で戻る」
「えっ…まさか…」
「私の厨二病時代の物が役に立ちそうだからな」
海部がニッと笑って言うのに、全員は内心「厨二病だったんだ」と思いながらも
既に身支度を整えて部室を出て行く支度をしている相手を見ている
「あ、宮内、これ借りるぞ」
「う、うん…」
それだけ言い残すと、本を鞄にに収めてあっという間に出て行ってしまった
―30分後―
「…ただいま」
ゼェゼェと肩で息をする海部の鞄には怪しげな用具が山ほど詰まっている
宮内はそれを受け取って中身を一つ一つ取り出して机に載せる
鏡
何か怪しい赤の液体の入ったビンと緑の液体のビン
真っ黒焦げの爬虫類
杖
黒いマント
「…何でマントまで入ってるの」
「ふ…ふんい…き…ゲッホ…」
結城が冷静に言うのに海部はむせながら返す
「…そ、揃っちゃったんだ…」
塚本は驚きで息を吐きながらつぶやいてじっと材料を見つめる
緑の液体をじっと眺める
「あ、あんま触んなよ?…それ…危ない」
「えっ…何?」
海部が引き止めると、一ノ瀬が本を見て眉間に皺を寄せる
「…これか?…知らないほうが良いな」
「何それ怖い…」
一ノ瀬が項目を見ながら言ったのに塚本は思わず距離を置く
「で、どうするの?これ…」
結城が赤い液体の詰まったビンを持つ
ビンは冷えていて冷蔵庫に入っていたようだ
「まぁ、まずは魔方陣から書かなきゃね~」
宮内はそう言いながら、狭い部室の机を動かしてどうにかソレを描くスペースを確保する
そして、全員で本に書かれた順番に材料を配置していった
「術者はどうする?」
「そりゃ勿論…」
鳴滝が尋ねるのに一ノ瀬は宮内をじっと見つめる
他の四人も彼女に視線をうつす
「…はいはいわかりましたよ」
そういいながら杖とマントを羽織って魔方陣の真ん中に立つ
「でも、皆魔方陣に入らないと意味ないからね?」
「はいはい」
そういって5人は陣の中に足を踏み入れる
「えっと…で、呪文とかは?」
「…『心の中で入れ替えたい人間を思い浮かべて杖で陣を突く
ただし、人数が多い場合入れ替わりを指定できない』…だって」
「ん、わかった…じゃあ行くよ~」
宮内はソレを聞いて目を閉じる
周りの5人もそれをじっと緊張した様子で見つめる
宮内が目を開き魔方陣を突くと同時に陣から溢れた光が全員を包む
全員は驚きの声を上げると、その意識は一瞬だけ失われた…
光が収まり、最初に動き始めたのは一ノ瀬
「…ん?何か…かわっ…!?」
彼は声を発するが違和感を感じたのか喉に手を当てた後その両手を見る
「これ…まさか…悠斗…?」
「…んだよ…お前か…不快だな」
隣にいた結城がイラついた様子で答える
「…ったくどうしたんだ」
不機嫌そうな顔の塚本が一ノ瀬に言う、と彼女の違和感を感じたのか体を見る
「え?え?何で私の声が聞こえるの?」
海部が不思議そうに言いながら辺りを見渡す
「…おい!宮内どういうことだ!」
「え、え?ぼ、僕にそんなこと聞かれても…」
塚本が叫ぶのに、宮内の気弱そうな声が返ってくる
「…アハハハ、まさか成功するとはね~」
そして、鳴滝の楽しそうな軽い調子の声が返ってきたのだった




