表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

二人




あの日、全ては終わった

自分は確かに彼らの前で頭を下げた、謝った、それでも



(どうして僕は、まだ…)










「納得できていないんだろう」





棟をつなぐ渡り廊下で、鳴滝はぼーっと遠くを見ながら一人で声を漏らした

時刻は4時頃であったが、あたりは既に薄暗く太陽はその姿を隠そうとしている



部活はやることが特に無いためだべっているだけの時間になっていた

それを見計らい彼は一人で部室を出て行き一人で以前のことを思い出す



いや、ずっと引きずり続けていると言った方が正しいのだろう



自分は謝った、それは事実で

自分が間違っていたのも、それは事実であるのに



彼は迷っていた、本当に彼らが正しかったのかどうか

完全に飲み込めていなかった、彼らの何が正しいのかを




(いつまで僕は迷うんだろう、いつまで僕は抱えているんだろう

 結城と悠斗が正しいんだって、それは事実で…)




泣きそうな表情になって、誰かに見られるのは嫌だと俯く



(僕は間違っていた、でもどうして?)



いつまでたっても答えのない問い、それをぐるぐると頭の中で回す

答えてくれる人間はこの場にいないであろうし、あの場所にいる人間はおそらく二人の味方なのだろう




「…京くん」




もう戻ろうとため息を吐いた瞬間に聞こえた声に、鳴滝は手すりから離れて声の方を見る

視線の先には驚いた様子の海部が脇の階段から上がってきたのかその方向から歩いてくる




「先客がいるとは思わなかったな」

「先客?」

「考え事があるとここに来てたんだ、あの事件の前から」



海部は彼に近づいて先ほどまで相手のいた隣に立ち、手すりを撫でながら言った

鳴滝は相手から少しだけ距離を置いて両腕を手すりに乗せて遠くを見る



「海部さんも…?いや、僕は初めてここでこうしたけど…」

「いや、今はあいつらの差し金とでも言っておく」



手すりに右腕を乗せて軽くもたれかかると、

どこかの運動部のマネージャーがウォータークーラーの前で水を汲んでいるように見える

見慣れた、何も変わらない光景だ



「…あれから、何も変わってないみたいだよね、皆何もなかったみたいに話してくれる、一緒に過ごしている」

「そうだな…」



海部は一度頷いたが、前に向けていた視線を腕に下げて少し俯いて苦しそうな声で言う



「だけど…私は、なにがよかったのか分からない」

「海部さん?」



その言葉に、鳴滝は意外だと思った

彼女は結城たちの一番の恩恵を受けた人間であるはずなのに

その声はまるで後悔しているかのような声音だった



「なんで…?海部さんは死ななかったんだよ?僕は、海部さんを殺そうと…」

「死ねなかったんだ」



相手の言い方を訂正して笑いながら発した声は、それが本当であるような切実さを含んでいた

その理由を深く追求したかったが、彼の問いの前に海部は続けた



「まぁ、これはこれとして…私は全部に納得したわけじゃない」

「…海部さんも?」

「やっぱり…っていうか多分ほぼ全員気づいてると思うが…

 私もお前も、納得していないことくらい」



鳴滝の言葉に対して海部はため息を吐いて相手を見る




「露骨だからな、私もお前も、アイツらに対する悪意」

「僕はそんな、でも…うん、ごめん…」



否定も肯定もできないまま落ち込んだように語尾を濁す

それをフォローするように宥めるような声が返ってくる



「それは仕方ないだろ、そのあたりは他の奴らもわかってる」

「………僕は」



鳴滝はそれでも自分自信にも納得がいっていないのか俯いたままだった

だが、これまで引きずっていたものを誰かに言いたかったこともあって

耐えていたものはあっさりと崩れて彼は口を開く



「僕は、二人が正しいとは思えない…僕は、まだ海部さんがちゃんと罰を受けたと思っていない」

「…だろうな、私もそうは思ってない、私はもっと苦しむべきなんだと思ってる」



同意は得られた、でも答えは?

自分の納得のできる答えを、鳴滝はただ欲していた



「でも、僕は、二人が絶対正しいってことが証明されれば僕は…」

「…それは、残念ながら不可能なことだな

 あえて言うなら、あの意見を支えている人間が勝った、こちらの意見の人間は負けた、それが証明だ」



あえて突き放すような口調に、鳴滝は迷いながらもそれしかないのだろうかと思った

諦める、その選択肢以外は残されていないのだろうか


「……そう、だよね」


落ち込んだような声音の鳴滝に、海部は次の言葉を選んでいるのか考え込む



「…でも、な、それは逆にあいつらも妥協しなきゃならない点がいつか生まれることって意味だし

 既にあいつらはこっちに何かを譲ったのかもしれない、それが何か分からないんだが」



必死で何か言葉を選ぼうとしたのだが思い浮かばない相手の苦悶する姿に

鳴滝はその気持ちだけで今は良いような気がした



「あの、僕はもう、大丈夫だから…」

「なんか…ごめん」


その言葉に海部は申し訳なさそうに息を吐く

やはり自分は喋るのが下手だと心の中で落ち込みながら



「…とにかく、私はお前の方が正しいと思う、それだけでも互いに喜べばいいだろ

 互いに、孤独じゃないさ」

「…うん」


鳴滝は頷いて笑みを浮かべる

廊下には電気が点いてその明かりで周囲は照らされている


「戻るか、帰る準備しないとな」

「そうだね、心配してるかな?」

「どうだろうな?」


笑いながら返した相手に、鳴滝もつられて笑った








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ