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森の中の理想郷~言われなき(前編)~


広い広い大空


その風を掴み、空を自由に飛んでいたユウトは森の僅かに木の少なくなっている場所の周りで何度か旋回を繰り返す


“…なんか通らねぇかな…腹へって仕方ない…”


彼は、餌を求めてこうしてずっとずっと待っていた

木の中に自ら突っ込んでいくのは様々なリスクがある、こうするのが一番楽な方法だった

ただ、一つ良かったことは、自分は一度の狩りで腹を満たせるということだろうか



何度めの旋回か、獲物が見つからないため場所を移そうとしたときだった


「よぉ」

「…」

「無視するんじゃねぇよ」


ユウトの隣、並ぶように一匹のタカがやってきた

だが彼はまるで聞こえていないかの様に、場所を移す

が、相手はぴったりとユウトについて離れない


「…なんだよ」

「いやなぁ?あの時の負け犬さんが何やってんだかと思ってな?」


タカはからかう様に言いながら執拗にユウトを追い掛け続ける


「…ほっとけ、ここは俺の狩場なんだ」

「できないな、俺もココが気に入ったんだ」

「…真っ向勝負で俺に勝てるような奴か?」


そのタカはユウトの知っていた顔なのか彼はそう返した、相手はどうやらこのあたりから彼を追い出したいらしい

が、ユウトはそのタカに負ける気は更々なかった


そのユウトの態度を感じていないかのように相手は楽しそうな声で続けた


「…俺が指定した獲物、どっちが速く取れるか競争しようぜ?なぁ?」

「…勝手にしてろ」


ユウトは興味なさ気に返事をすると、相手は森の中をじっと見つめて獲物を探した


「…よし、アレだ…行くぞ!」


タカは、森の中に何かを見つけ、言った傍から落下していく


「…ちっ」


ユウトとしては、相手のことなどどうでも良いが負けるのはどこか癪に障るし、ここを出て行くというのも困る

…完膚なきまでに叩きのめして諦めさせることに決めたのだった


ユウトは先に出たはずの相手を追い抜く

その瞬間、驚いたような声が聞こえたが気に留めることなく獲物に狙いを定める




だが、彼はその姿に驚き、速度が落ちる



それは見慣れたイタチの…マイの姿だった


「…っ!?」

「どうしたんだよぉ!?」


相手はユウトが戸惑ったと見ると愉快そうに言って、彼を追い越していく


「逃げろ!マイ!」


ユウトが叫ぶ、相手も気づいたのだろう、なるべく木の茂っているほうに走る

が、遅かった…


相手のタカは、その爪で彼女を捕らえた、容赦なくそれは体に深く食い込む



「…お前ェ!!」

「ハハハ!負けたのが悔しいかよ!」


ガッシリと掴んで地面にマイの体を押さえつけて勝ち誇ったように羽を広げる

ユウトは体当たりでもして追い払いたかったが、あの状況では怪我を悪化させかねない


空でただ叫ぶしかできないユウトに、相手は完全に勝利を確信して言う


「…なんでそんなに必死なんだお前?それはどうでもいいか…

 ま、残念だったなぁ!?そこで何もできずに見てろよ雑魚が!」



そう言うと、まだどうにか足掻いている相手にさらに爪を立てて弱らせる


「…やめ…ろ!」


ユウトが言うが相手は無論そんな声を聞くわけが無い

嘴を開き、一口、食らおうとする…



その一瞬



オオカミが突然獲物を捕らえたタカの前に飛び出る

相手のタカは思わず獲物の体を離し空に逃げる


スズカだ


唸り声を上げてマイを庇うように立ち、少しずつ相手に近づく

その気迫に押されたのかタカは忌々しそうな声を出す


「ちっ、横取りかよ…くそっ」


それだけ残すと、タカは空高くへ消えていく

ユウトは地に降りて、マイへ声をかける


「マイ!おい!しっかりしろ!」

「………」


まだどうにか息はあった、それでも返事をする力が無いのか声はしない

スズカはマイの姿を一瞬見ると、ユウトに言う


「…とりあえず祠に運ぶ、背中に乗せたいけど…」

「俺の爪じゃ…」


ユウトは自身の足を見て言う

彼の爪が体に刺されば、おそらく状況は悪化する、

優しく掴むこともできただろうが、そうする自信が今はなんとなくなくなっていた



「……ぼ、僕…いるよ?」



ガサリ、と草むらから音がして、聞き覚えのある声が聞こえた


「…キョウくん」

「僕、さっき通りがかったんだけど、聞いたことある声とか色々して…それで」

「マイが危ないんだけど…頼める?」


スズカがしゃがむとキョウはマイの近くに寄ってその体を見る

悲痛な傷に思わず声が漏れると優しく前の方を掴む

仕留めるためだろう、傷はそちらに集中している


「ユウト、後ろ…どうにか支えられる?引きずるのも…どうかと思うし」

「…わかった」


そういって頭を少し持ち上がった下半身に当て体を支えると、スズカの体に落ちないように気を遣いながら乗せる


「ありがとう…それじゃ、祠に行ってくる…何かあるかもしれないし…」


そういってスズカは森の中を駆け出していった


それを見送ると、ユウトは京に向かって言う


「俺も祠に向かう、キョウくんは?」

「遅くなると思うけど、向かうよ…祠ならオリエがいると思う」

「わかった」


キョウの言葉に頷くように頭を下げて、羽を広げて空に向かった










“……ユウトもまた根性悪いのに絡まれてるっぽかったな、ってかコイツもコイツでこんなときになんで…

 まぁ運が悪かったとしか言いようが無いか”


スズカは空へ開けていない、そして枝の少ない道をできるだけ選んで進む

もちろん、そんな道はほとんど人の通る道であってリスクも高い


道に沿って、人に見つからないように跳ぶように彼女は駆け抜けていた



マイとスズカもまたそのとき、ただ餌を求めてほんの少し遠出をしただけだった

それが一瞬目を離していた隙にこの惨事になった


偶然が重なっただけだろう

ただ、偶然だとしてもどこか責任を感じずには居られなかった


“…妖怪だから…ってそんな都合の良いものでもないのかな…”


一瞬、最悪の事態が頭を過ぎるがそれを振り払い、祠へ向かって一心不乱に駆けていく





祠では流石に空を飛んできただけ早いのか俯いたユウトが切り株に止まっており、それを見てスズカは足を止める


「…ユウト」

「オリエには端的に話した、祠の前で草敷いてると思う」


ユウトが頭で祠のほうを指すと、スズカはそちらを向いて、歩を進めていく

彼も祠の近くの石まで飛んで近くで様子を見る



「スズカちゃん、一応クッションになるかはわからないんだけど…」

「ありがと、ユウト…降ろしてくれる?」


そう言って草で出来たベットの近くにしゃがむと、ユウトは嘴で少しずつ体を動かし優しくその上に落とす



「マイちゃん…」


オリエは心配そうに名をつぶやく



スズカとオリエは暫く様子を見てみるが、彼女に変化は無い

目を閉じて、かすかな呼吸を繰り返している



「…祠に来ても…治るって訳じゃないか…」



スズカが落ち込んだように言うと、ガサガサと草むらから音がして三匹はそちらを見る

そこにはキョウ、そして後ろからカナメも姿を現した


「…ごめんね、遅れて…カナメさんと会ったから…」


草むらの前で言うキョウを待たず、カナメは祠のほうに歩きマイの様子を見る


「…カナメさん」

「…」


スズカが名前を言うのに、カナメは黙ってマイの様子を見て、後ろに下がりその場に座る


「…ねぇ、ボク、詳しく何があったのかわからないから…知りたいな」

「…私も」


キョウが近づきながらユウトに言うと、オリエも同意して彼を見る

ユウトは俯いて考えていたようなそぶりであったが、口を開く


「……俺は、自慢じゃないけど…自分の力…速さだとか、そういうのは他の半端な奴よりは強い自信がある」


その言葉に、スズカは頷いた

彼の言葉は決して過大評価ではない


コレまで数多くの他のタカとの縄張り争いに勝ってきたユウトはおそらく、その能力が高い

このことは他の彼の仲間も感じていたことだった


「けど…それで、アッチの方が因縁つけてくることが多かった…

 負けた腹いせに何匹かでとっかかってくる…そいつらの筆頭みたいな奴が今回俺に絡んできた

 …アイツには、適当に何度か負けたりしたんだけどな?それでも、アイツは満足してないみたいだった」

「勝てないからって情けないことする奴…ね、そういう奴らは大嫌いだわ」


スズカは何かを思い出したのか、特別の憎しみを込めて言う


「…今回は、普通に挑まれただけだったんだ、ただ獲物を捕まえる競争…その標的が…偶然コイツだった…」


ユウトはマイの方を見て辛そうに言う


「…そう…なんだ…」


キョウは相手の気持ちを思ったのか俯いて言う


「…多分、俺は“負けた”ことになってる、でも…アイツはまだあきらめてない

 俺をもっと陥れようとしてる…獲物も…取れなかったからな…」

「そ、それじゃあ…マイちゃん…まだ…」

「…仮に助けるとしても…また狙われる…

 ここに来る途中、また絡まれた…明日、また俺と戦え、正々堂々と…なんて言ってたけどな」


オリエの言葉にユウトは続けて言う


「…それじゃ、色々考えないとダメだよね?

 それが嘘だったとして、マイの近くに見張りも居なきゃダメだけど…」

「私は関わらない」


スズカが皆に言うのに、カナメは冷たく言い放つ

そういって彼女が立ち上がるとユウトが言った


「…どうしてだ?いくらお前が俺のこと嫌いだからって…マイとは…」

「知るか、そもそもアイツが勝手に私に絡んできただけだ」

「…カナメ…さん」


カナメは冷たい口調のまま続ける


「そもそもテメェが勝手に持ち込んだんだろ、お前が片付けろ

 マイのことはあきらめる、そういう決まりの中でずっと生きてただろ…今更何だ」


それだけ言うと、カナメは一匹草むらの向こうに消えていってしまった



スズカとユウトはソレを視線で見送る



「アッチがあそこまでいうならほっといて良いでしょ、ちょっとアレだけど…」

「…そうだな」


彼女は特に気にする様子も無く言うのに、ユウトは頷いて頭を残った三匹に向ける


「…で、どうする?」

「スズカ、俺と来てくれ」

「…いいけど、なんで?」


ユウトが珍しく素直に頼むのを少し以外に思いながらも尋ねる


「多分、アイツの呼び出し先…ココとは違う広場なんだけどな

 なにかしら…ある気がするんだ、でも多分アイツの仲間だ、最悪お前の姿だけでも怯む」

「…私が行くのはいいんだけど…ユウトが律儀に行く必要は?」

「一応な、どういう手段かわからないから…一対多で俺を潰したいのかもしれない…

 アイツ、嫌な奴だから、マイが狙われるにしても、多分俺の目の前だと思うんだ

 だから…多分、俺は行ったほうがいい」


ユウトは相手の性格を思い返すため、考えながら言った


「…でも、どうする?キョウくん、オリエ…大丈夫?」


残る二匹のほうを見て、スズカは尋ねる


「私、木の上で見張ってる!ちっさいから多分ギリギリまで見つからないし!」


オリエが小さな体で腕を上に伸ばしながら言うのを見て、キョウも決心したのか口を開く


「ボク…頑張るよ、ボクだって…戦える!!牙もある!」

「無理、するんじゃねぇぞ…」

「大丈夫、ボクだってやればできる」


強く言いながら頷くのにユウトが心配そうに言うが、キョウは変わらずに強い調子で返した




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