森の中の理想郷~冬篭り~
冷たい冷たい風が、秋の中ごろになっている森に吹く
その冷たさにブルッと身震いをしたのはオリエ
木の上でキョロキョロとあたりを見渡しては何かを考えて別の木へと駆けていく
そこでしばらくキョロキョロとしたが落ち込んだように下を向くと木を降りる
「…見つからないの?」
降りたところにキョウが居て、相手に心配そうに尋ねると、オリエは一度だけうなずく
「そっか…そろそろ場所、決めないと大変だよね?」
「うん…エサもそこに集めないといけないし…」
う~ん、と考える二匹
その二人の近く、ガサガサッと草むらが揺れる音がして二匹はそれを警戒する
「…そんな構えないでよ」
出てきたのは見慣れた狼の…スズカの姿であった
先ほどまでチラチラとオリエの様子を見ていた梟が飛び去っていく音が響く
それを見送りながらスズカは尋ねる
「まぁ仕方ないか、アンタはすぐに狙われちゃうし…で、こんなところで何してるの?」
「眠る準備してるの、冬の間ご飯なくなっちゃうしね」
「あぁ…アレね?確かに場所選ばないと危ないけど…」
「けど?」
何か言いたいことがあるそぶりの相手にキョウは尋ねる
「…マイに頼んで祠の近く、眠らせてもらったら?
うるさくて眠れないかもしれないけど、少なくとも身の危険は無いと思う」
「それは、ちょっと悪いかなって」
「いいじゃん、使えるものは使っちゃえば」
オリエが遠慮がちに言うのに、スズカは軽く答える
「…でも、それが一番いいかもね、安全は安全だし…」
「あそこまで他の奴らを食べる奴の吹き溜まりに突っ込む馬鹿は居ない」
「それじゃ…そうしよう…かな?」
オリエは少し迷ったが、その申し出を受け入れるのが一番いいだろうとうなずく
「それじゃあさっそく祠行ってみようか」
「そうだね」
スズカが言うとオリエはその背中に乗る
カナメも彼女を運ぶことが多かったが、少々乱暴な扱いなのが少し気になってしまう
…気を許している証だ、とマイは言うのだが本当だろうか?
相手が駆け出すと、その速さで浴びる風は冷たかったがどこか心地よくもあった
それでも寒いことは寒いので相手の毛に体を少しうずめて寒さを紛らわせた
祠のある広場に三匹がたどり着く、オリエはスズカの背中から降りてあたりを見る
見慣れている山猫と鼬がひとつの木の根元でこそこそと何かを行っている
「えっと…何してるの?」
キョウが聞くとカナメの方がビクッと体を震わせ振り返る
「…なんでもいいd」
「えっとね、そろそろオリエが困る時期だろうって、寝床二人で作ってたんだよね、あ、言い出したのカナメさんね」
「バラすなマイ!!」
そっけなく返そうとしたがあっさりマイに作業の招待をばらされてしまい相手に牙を見せる
「なんだ、相談するまでもなかったんじゃん」
「そ、そうだね」
「ってことは、そっちは私に頼みに来たってこと?」
マイが首を傾げるのに、オリエがうなずいて答える
「ここが一番安全かなって…マイちゃんがよければだけど」
「いや~断らないって、こっちが作ったから居心地は保障しないけどさ」
「ううん、気がついてくれてありがとう」
オリエがそういうと、マイはいえいえ~と返すがカナメはそっぽを向いて答えなかった
木の根元にできていた穴を覗き込む、入り口は少し広いが中の広さは丁度いい
「大丈夫か?」
「うん、あとはここに木の葉とかを詰めるだけなんだけど…」
カナメが口が開くと、オリエが穴の中から言う
と同時にスズカが誰かと言い争うような声が聞こえる
「…来たか」
「えっと、ユウトくん?」
「あぁ、アイツにも仕事を頼んでおいた」
とカナメは視界を外に向ける
そこには狼と鷹のいつもの取っ組み合いが繰り広げられていた
「なんでいちいち襲撃されなきゃならないの!?」
「俺の着地点にお前が居るから悪いんだよ!!」
とユウトはカナメが自分を見ているのに気づいたのかバサバサと羽を動かしてそちらに飛ぶ
「カナメさん、言ってた奴…適当な木の実とってきたぜ
あと…なんで羽についた木の葉も気持ち悪いけど我慢した」
「…ありがとうな」
「いやいや!周りに気まわせるなんてさすがカナメさんだよな!!」
スズカの時と豹変する態度に、慣れたとはいえどこか理不尽さを覚えながらもスズカはあきらめて言う
「…あぁ、もしかして木の葉も材料にするから?」
「そうだ」
いいながらユウトはこの場で器用に木の葉を壊れないように一枚一枚取ってオリエの目の前に置く
「ありがとう」
そう言って一枚を拾うとソレを巣の中に運び込んで敷いていく
「…やっぱりまだ足りないかな?」
「はぁ、木の実ついでにもうひとっ飛びか?」
ユウトが羽を広げるがキョウがそれを止める
「ま、まって、僕…僕の巣、ちょっとだけ余ってるからそれ分けるよ」
「いいの?」
「うん、ちょっと待っててね?」
キョウはそういうと草むらの向こうに走って消えていく
「私はどうしよう?」
「スズカちゃんはここまで送ってくれたし、そこまでしなくていいよ…
そもそもここまで世話になるとは思わなかったし…私木の実探してくるね!」
オリエはここまでされているうれしさで恥ずかしいのか木の上にすばやく駆け上がっていく
それを見届けると、スズカはカナメのほうを見て笑いながら言う
「…アンタもそういうことするんだな?」
「……困ってたんだろ?」
カナメは相手を見ないままそれだけ答える
うすうす気づいていたが、彼女も悪い性格ではないのだろう
…表現できないだけで
ガサッと草むらから音が響くと枯れ葉を全身につけて運んできたキョウが帰ってくる
「…おぉ、大丈夫か?」
ユウトが近くに行ってくちばしで葉を取る
キョウは「ごめん、ありがとう」と言って、手に握っていた葉を穴の前に下ろす
「…こんだけありゃいいだろ」
「じゃあ…後はオリエが帰ってきてから…かな?」
スズカが言って木の上を見ると、オリエは木の実を一杯に頬袋に詰めて降りてくると、
穴の中に入ってそれを出して一箇所に固める
「木の葉、これで足りてる?」
「うん、多分大丈夫!」
そういってオリエは葉っぱを穴に引きずり入れていく
しばらく、中で彼女が葉っぱと格闘する声が聞こえる
「…これで完成!ありがとう、もうしばらくは木の実集めなきゃいけないんだけど
あらかたはもう大丈夫」
穴からオリエは顔を出すと、5匹は安心した様子を見せる
「…それじゃあ…冬の間は会えないってこと?」
「うん、ご飯食べるからまったく起きないわけじゃないんだけど…」
キョウが寂しそうに尋ねるのに、オリエはうなずく
「…私たちがここに居ればいい、うるさいだろうが寂しいよりいいだろ?」
「うん、安心できる気配があるとうれしいし」
オリエはうなずいて、珍しく自分からそう笑って言うカナメを見る
「…それにすぐ寝るわけでもないでしょ?」
「うん、さっきも言ったけど木の実あつめないとってこともあるし」
スズカがキョウを慰めるように言うと、オリエも同意する
「ま、俺の存在だけでも十分すぎるくらいの護衛だけどな」
「うん、それは頷けるわ…」
「…ある意味頂点だしね」
偉そうな態度ではあるが、スズカはそれを否定せずにうなずき、マイもそれを肯定する
「…まぁ、これでこの件は解決?」
「うん!本当にありがとう!」
オリエの冬篭りの準備は、こうして完成しましたとさ…




