森の中の理想郷~出会い2~
祠の前で、マイとスズカとユウトが話している頃
(タカに…オオカミに…イタチ、しかも妖怪みたいだし…どうしよう、見つかったら…)
その木の上で一匹の獣が怯えておりました
それが、リスのオリエ
元々このあたりの木の実を食べていたのだが、数日前からオオカミとタカが喧嘩…本人たちは遊んでいるだけだが…するようになって
ただ、木の上からそっと木の実をとってすばやく逃げるだけだった
(どうしよう、キョウ君に行ってもらおうかな…?)
オリエとアライグマのキョウはそもそもこのあたりに住んでおり、知り合いであった
相手は雑食のはずなのだが何故か果実ばかりを食べることもあり
互いにエサの場所を教えあっていた
あの3匹は見たところ気性は荒くない、話をすれば通じるかもしれないといっても
彼女の大きさでは、何をされるか分からない恐怖もあって
せめて目線の近いキョウに頼もうと思いついたのだった
オリエは木の上を滑るように走り、しばらく駆けると木の根元に降りる
キョウはその日その日で寝床を変える
木の洞を探さねばならないが、そこまで遠くにはいないだろうと昨日彼が居た木の洞の中に入る
胴の中は昼間といっても薄暗く、中の様子は伺えない
ただ、自分より大きな影がもぞもぞと動いているだけだ
オリエはその影の、顔と思われる場所の前に立つ
「ねぇ、起きて」
いつものように、キョウに話しかけるように言うが
帰ってきたのは返事ではなく、その影の前足
前足は、オリエを押さえつけながら立ち上がると、しばらくオリエを見る
足の感覚は、明らかにキョウのそれとは違っていた
(どうしよう謝らないとでもどうしよう声が出せないこのままじゃ…)
オリエの頭にぐるぐると考えが回っていたが、影はオリエを押さえていた足を急にフッと離した
オリエは立ち上がると、影の顔をうかがおうとするがやはり薄暗闇で何も見えなかった
「お前は…誰だ?」
「え、えっと、オリエって言います」
焦りながら返すのに、影はどこかつまらなさそうにフンと言う
「それで、何の用だ」
「その、私、友達を探してて…」
その言葉に、相手の体がピクリと動いた
「友達…?」
「ハイ、えっと、キョウっていうアライグマなんだけど…その」
焦りながら言う相手に、影はしばらく考えると「あぁ」と答える
「外に出よう、暗いのも何だろう?」
先ほどよりも、ほんの少し優しげな声で相手は言って外に出る
オリエはその後に黙って付いていく
どうやら、相手はキョウの行方を知っているらしい
暗いところから外に出たために、陽の光はまぶしく感じる
その一瞬のまぶしさの後、影の姿が分かる
ヤマネコであった
ヤマネコはオリエの方を見て体を伏せる、どうやら乗れということらしい
が、オリエは距離を置いたまま近づかない
「…乗れ、お前を食うつもりならさっき捕まえたときにお前はとうに死んでいる」
その言葉に、すばやくオリエは相手の背中に乗る
背中の上から、オリエは相手に声をかけた
「キョウくんが、どこにいったか知ってるの?」
「ここに来るときにな、先に住んでたらしいアライグマがいた
が、襲われるとでも思ったんだろうな、行き先だけ言って逃げやがった
だが私も寝床が欲しくてな…しばらくの間借りるつもりで眠っていた」
(キョウくん…)
ヤマネコの言葉に、彼らしいがそれでもやはり臆病な態度になんとなく笑ってしまう
ヤマネコは立ち上がり、地面を駆けだした
「お前に目的地を言っても良かったが…お前が速くてもその体じゃ時間がかかるだろ」
「あ、ありがとう」
ヤマネコは、茂みの中を無理やり突っ切ることが何度かあり
そのため、時々オリエは振り払われそうになる
だが送ってもらう身で贅沢を言うのもなんだろうと我慢する
川の近くの低い茂みに、ヤマネコはオリエに頭に上るように言うと
茂みの影から川の様子を見せる
川の近くで魚を取ろうとしているのか、それでもオドオドとしているアライグマが一匹
間違いないだろう、キョウの姿であった
「うん、キョウくんだよ!」
「なら良かった…」
ヤマネコは頭を下げると、オリエは降りて頭を上げた相手を見上げる
相手は、そちらも見ないで立ち上がると後ろを向いて言う
「それじゃ、私は新しい寝床を探すから…」
「待ってよ!名前も教えてもらってないし、キョウくんにそっちのこと紹介したいし…」
オリエが言うのに、ヤマネコのほうは顔をしかめて立ち止まる
が、相手の顔を見ると断れなかったのか、ため息を吐いて相手に向き直る
「…けどな、私が出ていったらまたヤツが逃げるだろう?」
「私が先に話しかけてくるから!待っててね!」
オリエは茂みを抜けて、川の傍に居たキョウの元へ走っていく
その姿を見つめて、ヤマネコはぼんやりとしていた
(なんでこんなことになったんだか…けど友達って言ってたし放っておくわけにも行かないだろ…)
誰に言い訳するわけでもなく、ただ心の中で呟いていた
「キョウくん!」
川の中で手間取るアライグマに、オリエは声を張って言う
「オリエ…どうしてここに来たの?
というか、なんでここが分かったの?僕、元の家から逃げてきちゃって」
ザブザブと音を立てて川から出てくると、体を震わせて水気を切り改めてキョウはオリエに向き合う
「えっとね、ヤマネコさんにつれてきてもらった」
「ヤマネコ…怖くなかったの?」
「事情を話したら送ってくれたの、ねぇ出てきて!」
オリエが呼ぶのに、こっそり帰ろうとしていたが、諦めてヤマネコは茂みから出てきてオリエの後ろに座る
「さ、さっきの!!」
キョウは驚いて下がりながら言う
ヤマネコの方は尻尾を遊ばせながら呆れた声で返す
「…取って食わない、こいつが友達だからって言うから送っただけだ」
顔でオリエを指すとついキョウはオリエの姿を見る
何かされた形跡もない、おそらく二人の言うことは本当だろうと判断した
「あ、あの、僕、キョウって言います」
「聞いてる、私はカナメって言う」
「よろしくね」
淡々と言うが、下にいる妙に楽しそうなリスの声にヤマネコ…カナメは調子が狂いそうだった
「そうだ、僕に用事があるから来たんじゃないの?」
キョウが思い出したように言うと、オリエも思い出したのか尻尾を立てて言う
「あぁ!…最近さ、ご飯がありそうだけど、オオカミとタカが出てくる祠があるじゃんか…
今日、言いに行こうと思ったんだけど…妖怪も…その、出てきてて…」
「ぼ、僕も怖いよ!?というか妖怪って!?」
オリエの言葉にアライグマは大きな声で驚くように返す
アライグマにとって、オオカミが敵であるのも理由だろうが…
「大丈夫だよ、なんだか話は聞いてくれそうだし」
「で、でも!僕ら食べられちゃうかもしれないよ!?
変な術とか使われちゃうかもしれないよ!?」
キョウはただ焦って返すのに、オリエはう~ん…と返す
キョウは、ちらりとカナメの方を見た
「何だ」
「…あの」
「手伝えと?」
威圧感のある声に、キョウは続きを言うことができなくなる
が、オリエが何か思いついたのか言う
「ねぇ、カナメは寝床探してるんだよね?」
「…交換条件か?」
「うん、キョウくんこのあたりのほら穴なら知ってるし、ね?」
「あ、うん、それなら教えてあげられるよ?」
(嘘だろ?送ったら適当に帰るつもりだったのに…)
嫌そうな表情を露骨に出して拒否を意思を示す、が
「お願い、このままだとご飯も食べるのが…」
「他の場所を探せばいいだろ」
「見つかるか分からないし!」
「…それに、猫、妖怪に近いよね?」
二匹から理由を並べられてカナメはため息を吐く、と歩き出す
「わかった、寝床教えてくれるんだな?」
その言葉に、オリエとキョウは喜ぶ
餌場の確保もできる、相手が友好的なら友達にもなれるはず
そう期待していた
「そこまでは私が案内する!」
オリエは嬉しそうにカナメの頭に乗って言う
「ぼ、僕も様子だけは見に行きたい…かな」
「…はぁ」
カナメはこれ以上何かを言うのを諦めて、立ち上がりオリエの言うのにしたがって祠を目指していった




