森の中の理想郷~出会い~
これは、現実に近い世界の、そんな別の世界にある森に住む、獣たちのお話
狼とタカが知り合ってからほんのちょっと後のお話
スズカもユウトも、生まれた頃からの知り合いのわけではなかった
彼らがちょっとした事情で、同属からはぐれて一人ぼっちになった頃
とある祠の前で出会ったのが彼らのきっかけだった
…それから彼らは祠の前で出会うようになり、遊んでいた
と、言ってもそれは彼らにはじゃれあいでも、傍から見ればそれは少々恐ろしい光景
それもあってか、祠に近づくほかの動物は殆どいなかった
人が作ったものであるらしいが、全く訪れる人がいなかった
スズカは、それらの理由と涼しいからという理由で祠の前で昼寝をしていた
祠には、何かしら意味のありそうな小さな岩と
それにグルグルにまかれた縄が縛ってあったが半分朽ちかけている
スズカにはその意味は理解できないし、この岩から何かしら特に恐ろしい気配はなかったため気にしていなかった
木々の間から漏れる陽をまぶしいと思いながら、スズカが目を覚まし欠伸をした
と、同時に彼女の体に何か刺さるような感覚を感じて結城は飛び起きる
着地して、自分の居たほうを見ると鷹が…ユウトが不満げに翼を広げてスズカを見ていた
「何!用はあるならもっと優しく起こせないの!?」
「無理、あと暇」
「暇だからって怪我した私の立場って何!?」
スズカがグルッと牙を向くがユウトは翼を広げて対抗する
…これが二人のやり取りの始まりのようなものだった
「で、何したいの?」
「俺と戦って俺が勝ったらお前の飯俺のもんな」
「じゃあ私が勝ったら逆?」
「俺の餌を取るっていう権利をもらえる」
「それ私しか損しないから!」
ユウトが誇らしげに胸を張って言うのに、結城は言い返す
彼の方は祠の上に止まってバサバサと羽を動かして挑発するように言う
「しょーがない、じゃあ俺の獲物半分やる、捕まえてみろよ!」
明らかに狼のほうが不利な勝負
だが、彼はいつもスズカと自分が互角になるようにわざと負けることもある
彼にとっては、本当にふざけたいだけなのだろう
スズカが狙いを定めているが、ユウトは飛んで近くの低い枝に乗る
ガサリと枝の揺れる音が響き、捉えずらい彼の体をスズカはしっかりと狙う
もちろん彼女のほうも牙を向くことはない、相手をその足で押さえつける程度だ…それでも彼は怒るのだが
「まてっ!!」
「こっちだこっち!!」
ユウトが余裕で飛びかかるスズカを避けるが、スズカもヒラリと身を翻して祠の石の前に着地する
その背後からユウトが足でスズカを捕らえようとしたが、スズカはひらりとそれをかわす…と
…彼は、祠の石に突っ込んでそれを飛ばしてしまう
ユウトのほうも石にぶつかって痛いらしくその場にグシャリとなってしまう
「ユウト!!大丈夫!?」
スズカが近くによると、ユウトは右の羽を上げて答える
「大丈夫だ!つーかお前が避けた所為だろうが!」
「これ以上怪我負いたくないし!!…でも、ごめん、大丈夫?」
ユウトは崩れた体制を立て直すと羽を動かして、姿勢を正す
「俺様なめんな!これくらい平気だって」
「ごめんごめん」
余裕な彼にひとまずは安心したが、スズカの興味は吹き飛んだ石に行く
縄は千切れてしまっている上に、おそらく祠から離れた石はその役目を果たさないのだろう
気まずそうにスズズかが見ていると、ユウトが横でそっぽを向く
「オラ知らね」
「いや、私も悪いけどあんたにも責任あるでしょ…どうする?」
「とりあえず元の場所乗っけとけばなんとか…」
ユウトが言うのに、スズカは石を咥えてもとの位置に置く
が、ボロボロの縄がどうも大丈夫だという確信を与えてくれない
「どうする!!」
「どうしようもないって…何だろう、何か出てくるのかな?」
スズカがウロウロと不安げに石の周りを歩くが、どうにもする手立てはない
すると後ろの草むらからガサガサと音がする
「スズカ!!来る!」
ユウトが羽を広げて威嚇するのに、スズカも牙を向く
…人間が、草むらを抜けて二匹の前に立っていた
目の前の長い髪の少女は、二匹が威嚇をするのにニコりと笑う
「大丈夫だよ?そんなに警戒しなくても」
それでも、二匹は警戒を解かない
やっぱりか、とため息をついた人間は少し何かを考える素振りを見せる
「どうする…?噛み付くか?」
「…う~ん、吼えるくらいじゃ怯まないだろうし、飛びかかるくらいした方が…」
「噛み付くのは勘弁してほしいな~」
その言葉に、二匹は驚いてその人間の姿を見る
人間は、二人の会話を理解しているのだろうか?それとも偶然なのか?
「驚いてるね、でも大丈夫」
目の前の少女の姿は、二匹が一瞬瞬きしたのと同時に…イタチに変わっていた
「こっちが私の本当の姿だし」
二匹は、状況が理解できないのか黙り込んでいる
このイタチが、マイである
マイは、立ち尽くす二匹の間を抜けると石の前に行く
「ん~まぁもともと効力なんてないし、こんなもんどうなったっていいんだけど」
「アンタ、獣なの?」
「ちょっと違う、化け物?」
「自分で言うのかよ」
「事実だし、化けイタチだし」
二人の混乱を他所に平然としているのが、スズカにはなんだが腹立たしくて一回噛み付いてやろうかと思うが、ぐっとこらえる
化け物ならば、手を出せば負けてしまう恐れがあったからだった
…が、相手からはそんな恐ろしい気配は感じない
「ちゃんと挨拶したほうがいい?」
スズカはその言葉に我に返ったようにウンウンと頷く
マイは祠の前にあった石の上に立って言う
「名前はマイ、さっき見せたけど化けイタチ
んっと…時代とか言ってもわかんないか…150年くらい生きてるけど、まだ未熟かな?」
「「150…」」
相手が軽く言った数字に、二匹はただただ驚く
「そんなに驚かなくても…」
「…いや、無理、というかそんな風に全然見えないんだけど」
「だよな…目の前で変化されたけど、そうじゃなきゃ飯にしてた…」
「怖いこと言わないでよ!!一応これでも立派に妖怪やってたから!!
だからこうやって祠まで建てられたんだって!」
マイは必死で説明するが、二匹はどこか釈然としないのであった
「妖怪って言うなら、もっと私たちより異質な存在だと…」
「だって!まだ150年だし…」
「まぁ、俺たちとは時間の感覚が違うんだろ?妖怪様だし」
ユウトがそうどこか自分に言い聞かせるように呟いて、スズカもそれに頷く
「それより、俺たちも自己紹介…」
「大丈夫、知ってるよ?そっちの鷹がユウトで、狼さんがスズカって言うんだよね?」
名前をズバリと当てられて、二匹は困惑するが彼女が本当にこの祠にいた妖怪ならば当然だろう
二匹は毎日のようにここで会って、遊んでいたのだ
見られていても、何も不思議ではない
「…じゃあさ、なんで今の今まで出てこなかったの?」
「だって、仲いいみたいだったし?水差すのも悪いと思って」
「…アァソウデスカ」
マイの独特のペースとでも言おうか、それに完全に振り回されたスズカは疲れたように呟いて俯く
ユウトも珍しく対処に困っているようであった
「まぁ、こうしてご挨拶もしましたし、これからもよろしくお願いしま~す」
「ハイハイヨロシク」
マイが言うのに、スズカはめんどくさそうに返す
ユウトの方はそれを面白がっているのか笑っている
マイは、ふっと姿を消すとどこかから二匹に声をかける
「それじゃ、続けてくださいよ」
「何を」
「さっきの遊んでるの」
「何で」
スズカが淡々とつめたい声で返すのに、マイは変わらぬ調子で言う
「見てて楽しいから」
「お前いつか賭けの商品にするからな」
スズカの怒りによるその鳴き声は森に響き渡り、いくらかの動物を驚かせたのだった…
【狼とタカとイタチが知り合ったお話】




