私たちの理想郷~家庭~
「おい、誰かあったかい飲み物居るか?」
「あ、私コーヒー欲しい!ミルクは自分でやるから手伝うね!」
キッチンに立って、一ノ瀬がポットを片手に持ちながらソファに座っている全員に声をかける。
塚本は振り返り真っ先に手を上げて、キッチンの方に小走りで近づいていく。
「なら私も貰っていいか?ブラックで、量は適当で、砂糖もそんなになくていい」
「ラジャ、他はどうだ?どうせインスタントだし淹れるぞ?」
海部が誰かが名乗り出たならついでに頼もうと振り向き、よく通る少し低い声を響かせる。
「じゃあ紅茶もらえる?二人は?」
「私も紅茶、砂糖多めにね」
「あ、僕も、僕もコーヒー欲しいな、塚本の好みでいいよ」
一人名乗りでなら自分も、と結城は頼んだ後、まだ言い出していない二人の方に顔を向けて尋ねると
宮内が軽く手を振りながら返事をする。
その数秒跡、少しためらいながら鳴滝が声を発する。
「あー……じゃあ俺、紅茶作るから、塚本コーヒー頼む」
「はーい」
それぞれがカップを3つづつ持ってそれぞれ頼まれた飲み物を淹れる、
塚本は先に冷蔵庫から牛乳を取り出すと耐熱カップに移しレンジで温め始める。
「……この中で結婚生活ちゃんとできそうなのって誰だろうな」
「突然どうしたの?」
紅茶パックを出し終えた一ノ瀬が突然言うのに、隣に居た塚本は驚きながら彼の方を見る。
「いや、やっぱ女子もお茶とか淹れるもんだろ?」
「あぁそういうことか、でもどうなんだろ、最有力は涼香ちゃんだとして」
スプーンで3つのカップに入ったコーヒーを軽くかき混ぜながら答える。
「だな、料理洗濯裁縫に軽い健康診断、なんでもできる、それでいてさりげない気遣いも完璧だ」
「生活力では絶対勝てないよねー、このメンツだと」
「……どうもありがとうございます」
話を聞いていたのか海部は笑って指を一本ずつ立てながら言うと、宮内もそれにうんうんと頷く。
素直な褒め言葉に結城は少し戸惑いながらもそう返した。
「でもお茶淹れるのだったら宮内が一番凄い……かな、なんだろう、迫力が」
「確かにアイツのコップを置く動作なんかは無意味に緊張する、所作に隙が無い」
「あ、わかる!武士っぽいよな!近寄ったら殺されそうなあれだろ?」
「寄らば切る、だっけ、そういうの……」
鳴滝がゆっくりと思い出すように言うと、海部と、先に彼女と結城の分のカップを持ってきた一ノ瀬が頷く。
同じ中学の三人は、こういった謎の感性の一致をすることが多い。
「そんな殺気剥き出しなつもりないんだけど」
「まあ、なんとなく言わんとしてることは察する、要するに洗練された動作ってことでしょ?
それにお菓子のレパートリーは私より多いし、まあ女子って点じゃ正解じゃない?」
結城は受け取った紅茶に感謝の言葉を述べた後、軽く息で冷ましてから一口飲むとほっとしたように息を吐く。
宮内はピーッと音を立てたレンジから湯気のたったミルクを取り出そうとしている塚本の方をじっと見てから口を開いた。
「……塚本は何でもそつなくできるよね、料理とか編み物とか、そういう女子らしいことって」
「何でもって程じゃないかな、編み物も特別丁寧にできるってわけじゃないし
涼香ちゃんほど万能ってわけじゃないよ」
「結城はまぁ……別格だから……」
「だな、塚本も女子っていうパラメーターなら良い部類だろ」
謙遜する塚本に、鳴滝は視線を結城の方へチラリと向けながら呟く。
海部もうんうんと頷きながらコーヒーを一口含むと先にカップをテーブルに置いて。
「で、なんだ、あぁ結婚相手か……でも俺なら海部さんかな」
「ゲッ!!ゴッ……ッ、なんでそうなる!」
飲んでいたコーヒーを噴出しそうになるのをぎりぎりの所で耐えた海部は一ノ瀬に大げさに問い詰める。
その反応に驚くように、一ノ瀬は平然とした態度でその言葉に答えた。
「だってよ、経済は大事だろ?海部さん料理できねぇわけじゃねーし
おれはそこを重視するかな、それも生活力には含まれるだろ」
「スーパーの配置何気に把握とかしてるしね、戦場指揮?みたいな感じで」
「……はぁ、どーも」
海部は誇れることでもないと言いたげに気だるさを感じる声で返しながらとんとんと指先で膝を叩く。
だが、全員は彼女のスーパーで二つの商品をじっと睨むように見つめる彼女の姿とその真剣さ思い出して、
彼の言葉が納得できないわけではないと納得する。
一ノ瀬が出来上がった紅茶と、何故か普段紅茶やコーヒーに使う砂糖の瓶ではなく
キッチンにおいてある調味料として使う分の砂糖の大きなケース丸ごとを宮内の前に置いた。
「あのさ……」
「なんだよ、お前はそれでも足りないくらいだろ」
「じゃなくて、流石にこの紅茶の量じゃ溶かしきれないよ!」
「あ、砂糖の量の問題じゃないんだ……」
自分のミルクコーヒーと鳴滝のコーヒーを持って出てきた塚本がその光景を見てすこし呆れたように言う。
塚本が元の位置に座るのを待っていたかのようなタイミングで鳴滝が話し出す。
「……でも結局できることは違うし……誰が一番なのかな?」
「そう、それだ!できることは違うんだよ!
宮内は接客させるのが一番で、塚本は……恋人にしたいな、海部さんは結婚相手で……結城は召使いだな」
鳴滝の言葉に一ノ瀬が思いついて彼を指差してから一人一人考える。
「接客って……それ言うなら応接じゃない?」
「しかもその部門の中では激しく微妙だが」
海部は横目で、宮内の入れる砂糖の量に内心驚きながら笑う。
「でも客に家の第一印象は大事だぞ?その家の象徴みたいなもんだしな」
「あぁ、そうだね、丁寧な家だなっていうのは、確かに好印象だし」
「武士の話何処行った……しかも召使いって、召使いってそれは酷い」
「コキつかうのに一番いいからな」
「悠斗くんが涼香ちゃんをどう思ってるのかがわかりすぎて」
一ノ瀬がさも当然のように言って見せるのに、塚本は笑いながら二人の方を見る。
「とにかく!みんなちがってみんないい!それだろ?」
「綺麗にまとめたぜ俺、みたいなドヤ顔されても結局そのオチなのなんとなくわかってたし!私は納得できないし……」
一ノ瀬の堂々と言い切る態度と裏腹に、結城は言い返しながらも
無駄だろうという思いが沸いてきて最後にはため息を吐いて紅茶を飲んだ。




