死神の理想郷2
「…どこ…」
海部はゆっくりとまぶたを開くとただ一言呟く、彼女の体は部屋の中で横に倒れていた
手を動かそうとするがなぜだか分からないが自分の背中に回って動かない
ガチャガチャと言う音が響くのに、枷がつけられているのだろうと判断する
足のほうを見ると、そちらも枷と短い鎖でつながれている、が横になるより座ったほうが楽だ
つながれた手を支えにしてあぐらをかく姿勢になって改めてあたりを見る
あるのは、キッチンとバスルーム、窓も時計も無いので完全に時間はわからない
いまいち、自分の置かれた状況が分からなくて、ぼんやりとしている
「…ゆめ?」
「夢じゃないんだよね~それが」
海部が呟くと、ガチャリと扉が開く音がする、音の先では宮内が立っていて
相手が意識を取り戻したのを確かめると近づいていく
「…夢じゃない…お前がやったのか?」
「そう、どんな感じ?」
「…そう、いわれてもな」
あまりにいつもどおりに自分に話しかけているので、海部はそれでも夢だと思っていた
宮内は、はぁと息を吐く、反応が薄いのに少し退屈なようだ
「…とりあえず、なんでこんなことしたんだ?」
「知りたい?」
「そりゃな、理由なくそんなことされるのも気分が悪い」
海部は強い口調で宮内に言う宮内は座って、相手の目を見て言う
「試したいことがあるだけ、それだけなんだけど…怖い?」
「……怖いに決まってるだろ」
宮内はニコッと笑うと、海部は背中に悪寒が走り相手を睨み付けて言う
「ふ~ん、そっか」
宮内はそういうと座ったまま考える、海部も相手をにらみながら考える
(こういうとき、コイツは多分…典型的だろうけど何かしらの交換条件を出す
それを飲めば明らかにアウトだけど…飲まなくてもアウトだろうな…)
息を吐いて、観念するしかないのだろうかと俯く
宮内は相手の顔を覗き込むと言う
「ねぇ、怖いならいっそ従順になったら?」
「その手には乗りたくない、どうせ何したって終わりタイプだろ?」
「物分りが良くて従順な人なら大丈夫」
海部は素直に頷けずに、ただ相手を見る
「へぇ、そこまで買いかぶっていただけるとは光栄だね、じゃあ…従おうかな」
自分はおそらくこういったことを後悔する、半ば予感しながら海部はそれでも答えた
そうしなければおそらく…自分の身の安全は無かっただろう
「そっか…嬉しいよ、それじゃあまず最初の命令…どうしよっか」
相手が立ち上がって楽しそうに考える
海部は、相手を見つめてただ待っていた、それは果たして牙無くした犬か、従順なふりをした獣か
と、宮内がなにかガサゴソと探ると、海部の首に何かをつける
「馬鹿!何してんだ!」
「…いや、従順な僕って言ったら犬でしょ?だったら首輪とリードくらい必要じゃない?」
「お前なぁ…」
海部はあきれたように言う、それ自体に対して危険な思惑を感じていないのだろう
というか、彼女自身がその手のものを読んでおり、それなりに知識があるのも加わってはいるが
宮内は首輪をつけると、リードを片手に立ち上がる
「これでいいね…それじゃ、早速一仕事やってもらおうかな?付いてきてよ」
宮内はリードをくいっと引っ張ると海部はそれに従うように立ち上がる
意外と首がしまる感覚が苦しくて、少し長く引っ張られれば命の保障はなさそうだ
「気分出したいから"様"付けか"ご主人様"って言って?これも命令だから」
「…選択肢があるだけおやさしいですね宮内様~」
あまり感情を込めずに海部は言う
宮内は「ま、今はそれでいっか」と呟くとそのまま楽しそうに歩いていく
海部は、状況を理解しないままにただ付いていく
すると宮内が突然一つの部屋にたどり着くと、嬉しそうに扉を開き中へ入る
海部は、部屋の中の様子を見て…目を見開く
「…お…まえ…」
「あぁ、忘れてた、捕まってるの…」
そこには
「海部さんだけじゃないから、楽しんでよ♪」
目隠しで壁から出た鎖に繋がれた一ノ瀬の姿があった…