私たちの理想郷~看病Ⅱ~
結城の部屋
一ノ瀬は、結城の部屋の前で一応ノックをして、彼女の部屋へ入る
結城はベットで横になっており、彼が来たのに気づいてもぞもぞと動く
「おい、ちゃんと持ってきてやったぞ、ありがたく思え」
「ん、ありがとう…」
一ノ瀬の声に、結城は素直に礼を言いゆっくり起き上がってそれを受け取り膝に置く
その声は少しかれていて気力を感じさせないものであった
「大丈夫か?」
「…う、うん」
「熱あるか?」
一ノ瀬は声を聞いて心配したのかそういいながら、自分の額を彼女の額に軽く当てる
一瞬だけ緊張しそうになったが、それよりも彼の行った行動の突然さに驚きの方が大きかった
「……無さそうだな」
「…悠斗君、それ私以外にやったら殺されると思う」
「なんでだ?ちゃんと熱計るの面倒だろ?声もちょっとしんどそうだったしな」
「…あ~、うん、そうなんだけど…それに、寝起きだから声でないだけだし…」
相手の行動に結城は冷静に指摘するが、いまいち理解していない相手にそれ以上の追及をやめ
自身の声の不調の原因を説明する
「…自分で食えるか?別に恥ずかしがることでもないだろ」
「いや、あ~んとかそういうのしないから、ソレしたら絶対ネタにされるから
流石に自分で食べるから」
彼が言った言葉に、結城は流石になんとなく来ると思われた申し出を断る
一ノ瀬はそれを相手が元気なのだろうと解釈してそのまま引き下がる
「ならいいけどな、ほら、さっさと食え」
「ん、私は大丈夫だからさ、あっちでご飯食べてきたら?何食べるの?」
「弁当だ、ちゃんと安いのにしてやったぞ」
「はいはい」
先ほどの心配そうな声から一瞬にして高圧的な態度になるのに、結城は笑いながら返す
雑談でもしようと結城が口を開こうとしたが
黙り込んで考えるようなそぶりをしていた一ノ瀬は突然立ち上がる
「…ちょっと待ってろ」
「何?」
そのまま事情を説明しないまま部屋を出る、結城はほんの少し考えたが何となく何があるかを察した
彼が帰ってくるとその察しどおり彼の手には頼んだ弁当、
塚本たちが暖めておいていたのか少し湯気が見えている
彼はここで昼食を取るつもりなのだろう
「一人で食うのもアレだろ…それに、俺のノリアイツら全スルーだしな」
「あ、調子乗ってるからだ、ざまぁ」
「え?は?何言ったお前」
「すいませんでした」
少しすねた様子の一ノ瀬に、結城は笑いながらいつもの仕返しとばかりに言った
その直後の威圧的な声にすぐに謝罪の言葉を口にしたが
「まぁ、少しなら認めてやっても良い」
「…はいはい」
微妙に持ち上げたのか何なのかわからない発言に結城は軽く流す
ある程度予想はしていたが、やはり一ノ瀬のノリはボロボロにされていたのだ
「それじゃ、いただきます」
「おう!ありがたく思って食えよ!」
「わかってますって」
返しながら結城は少しずつおかゆを口へを運んでいく
「…で、誰に殺されたの、ボケ」
「宮内…アイツ俺に冷たい…キモイ以外殆どいわねぇ…なんなんだよ
あいつは俺の繊細な心を知らない!ガラスより繊細なこの心を!」
「…なんたの心がガラスかどうかはこの際置いとくけどさ、今に始まったことじゃないでしょ、
それに懲りずに調子に乗ってるとアイツたぶん最終的にドン引くと思うけど」
「…ったく」
一ノ瀬が不満いっぱいに言い、ご飯をかきこんでいく
弁当の中身を4分の3ほど食べたところで、結城のお粥の減りが少ないのに一ノ瀬は気づいて言う
「…気分、どうだ?」
「大分すっきりした、夜ご飯は二人で作れるかな…?でも海部さんの熱ひどかったらどうしよう」
「そうなったらお前も休んでろ、大丈夫だろ…多分」
「そうですね~アンタが料理の腕散々前から自慢してるしね~」
「お、おう、任せとけ…」
言い切らない一ノ瀬に若干の不安を覚えながらも、結城は笑った
とりあえずは任せても大丈夫だろうか
「…っていうか、それまずかったか?」
彼は残りの弁当を食べ終わると相手のお粥の減りが少なかったのを気にしたのか尋ねる
「いや、そんなことない、もともと食事のスピード遅いのがさらにチンタラしてるだけ
…お粥自体はおいしいです…」
腹が立つほどに…と付けたしたかったが、
それを言えばどうなるかは容易に想像できたので心に閉じ込める
「ま、俺がといだからな!」
「いや煮込めよ…っていうか宮内にまかせてた?」
「ちげぇよ!アイツが俺の出番を奪ったんだ!」
「そういうことにしておく」
言い張る一ノ瀬を見ていると、普段の調子が戻ったのだろうか
普段の声の調子で結城は返した
「…さっさと元気取り戻せよ、お前が居ないと調子が狂う」
「認めたのは少しだったんじゃないですか?」
「…ボケ殺しよりはマシだ」
突然心配したような声音になるのに、結城がからかうように言うと相手はそっぽを向いて
リビングでのことを思い出し忌々しそうに言った
「…まぁ、夜には二人とも回復してるだろうから安心してよ」
「おう」
その言葉に、一ノ瀬の声はどこか安堵しているようであった
「とりあえず、お粥食べてまた暫くしたら眠ってようかな?」
「……寝てくすぐにねたら」
「わかってるから暫くしたらって言ってるじゃん!」
一ノ瀬の指摘をさえぎって結城は叫んでため息を吐く
「…ま、ゆっくり食ってろ、冷めたらまずいだろうけどな」
「わかってますって」
彼の軽口に同じように軽く返しながら、結城は少しだけペースを上げてお粥を食べていった
~夜~
「復活した…」
「私も元の調子に戻ったかな!」
海部が自分でも安心したかのように言うと、結城も体を伸ばしながら言う
「よかった~…でも今日は早く寝てね?」
「わかってるって」
塚本の言葉に結城は手を振って答える
「…はあ、別の病を抱えるかと思った…」
「すいませんでした…」
「そこまで気にしてない」
海部が笑って言うのに、宮内は頭を下げる
「俺の料理の腕が…」
「ま、また冷たいこと言われるよ?」
一ノ瀬が腕を振るわせようと構えるのに、鳴滝がそれをいさめる
「…とにかく、今から二人で作るから楽しみにしててよ」
「ん~…なんか久しぶりって感じがするな…そうでもないのに」
海部と結城はキッチンに並んで料理を始める
「涼香ちゃん、海部さん!私なにか手伝うけど」
「今は二人だから大丈夫、また私たちどっちかのときに手伝ってくれたら嬉しいな」
「あ、そっか…それじゃ、明日にでも!」
塚本が声をかけるのに結城は微笑んで返した
「そうだな…それじゃ、さっそく作るぞ結城!何が良いだろうか?」
「もう炒め物とかでよくない?」
彼女たちの声と、聞きなれた包丁のリズムの音がリビングに鳴り始めていた




