私たちの理想郷~看病Ⅰ~
海部の部屋
宮内が海部の部屋に入ると、部屋の隅に布団が敷かれている
その中で海部はすやすやと寝息を立てていた
「海部さ~ん、昼ごはんできたよ~」
宮内が声をかけたが相手に反応はなく、変わらず寝息を立てているだけだ
お椀を乗せたトレイを一度枕元に置いて宮内は再び体を揺すりながら声をかける
「海部さん、海部さん!!」
海部はそれに小さく声を上げてもそもそと布団の中で動く
そして、ひときわ不機嫌そうに「ん~」と声を上げると
「くはっ」
海部が返したのは返事ではなくて勢いのある蹴り
布団ごと宮内の腹にヒットさせる
「…ん…なんだ?…っ!!」
流石に人を蹴った感覚に違和感を覚えたのか海部は体を起こしてその感覚の方を見て驚き
体を起こして相手の近くに寄って、微妙に手を相手に差し出す
「み、宮内!?大丈夫か?」
布団を浴びて腹を押さえる相手に心配そうに声をかけた
宮内は少しだけ泣きそうな声で相手に言う
「……海部さん…私のこと嫌いなの?」
「そうじゃない!体温が上がって布団が暑くなると蹴っ飛ばすんだ…ごめん」
「ま、まぁ、うん、それより、ご飯食べよっか?」
海部が必死で頭を下げるのに、このままでは相手の心の具合が心配なので食事を取るように進める
相手は頭を上げて枕元を見ると、そこにあるおかゆを見つけた
「…お前が作ったのか?」
「うん、悠斗くんもやろうとしたんだけどね…といだだけ」
宮内が腹を押さえて笑いながら言うのに、海部は再び相手に向いて頭を下げて「ありがとう」というと
布団を宮内から引き上げて元の位置に戻し、
彼女はそれに足だけを突っ込んでトレイを自身の膝の上に置く
「それじゃ、いただきます」
「どうぞ」
宮内は海部に近づいてその様子を見る
両手を合わせて海部は言い一口掬ってそれを口に入れる
海部は一瞬眉間にしわを寄せるが、それをゆっくり噛んでゆっくり飲み込む
「…おいしい?」
「あ、あぁ…」
「それじゃ、私にも食べさせてよ」
海部が頷くと宮内が言ったが彼女は一瞬考えると冷たく言う
「ダメだ」
「なんで、自分の作ったものの味は気になるでしょ?」
宮内が言うと、海部は何か都合が悪いのか再び数秒置いて返す
「お前の飯を食いにいってこい」
「それじゃ、取りに行ったら食べさせてくれる?」
「私が風邪引いててうつったらどうする」
「海部さんが面倒見てくれるし」
「ダメだ」
いつもならこのあたりで嫌々引き受けるが、今の彼女が頑なに断るのに宮内は怪しむ
それに返事に数秒の間、明らかにその場で考えている
「…海部さん、お粥まずいとか…」
「それはない!」
海部の強い否定に、宮内は相手をじっと見詰める
「…本当?」
「あ、あぁ…」
「なら一口でいいから」
「…………」
海部は顔を逸らしてしばらく戸惑っていたが、観念したのか一口分を掬って相手に差し出す
宮内はそれを口に入れると顔をしかめる
口の中に広がる、形容しがたい決しておいしくは無い甘い甘い味
「……海部さん」
「何だ」
「まずいものはまずいって言って良いんだよ?」
「人が作ったんだろうが…」
宮内は言うが海部は強く言いながらおかゆを口に運ぶ
それに慌てて制止の言葉をかける
「あぁ食べない!つ、作り直すから!」
「うるさい、死んでも食う」
「重いよ!その心が重すぎるよ!」
海部が真剣にそう言いながらもまた口に入れるのに、宮内は再び止めようとしたがため息をつく
こうなったら彼女はもう何を言っても聞かないだろう
「……わかった、ちょっと待ってて」
「…なんだ?」
宮内が立ち上がるのに海部はわからないと言ったような声で言うが答えずにそのまま部屋を出る
帰ってきた宮内の手にはコップ二つと弁当の乗ったトレイ
枕元においてお茶のコップを差し出す
「はい、お茶…無いよりマシでしょ」
「すまない…それよりなんだその弁当は」
海部は運ばれてきた弁当を見たあとに相手に視線を移して不思議そうに聞く
「ここで食べよっかなって、あっちも二人でお話してるし、邪魔したら悪いかなって」
「…私のことを気にしてるなら帰れ、これくらい食いきる」
「そういうんじゃないって…」
相手の相変わらず頑固な態度に、宮内はため息を吐きながらも笑う
「……っていうか気分大丈夫?それでますます悪くなったとかない?」
「特に無い、今も少し頭は痛いが夜になれば治るだろう」
一旦落ち着いたのか海部にその容態を尋ねるが、海部は何事もないと言った様子で返す
「今日は昨日みたいに1時に突然声をかけたりしないでくださいね?」
「わかってる…さっさと眠るから」
宮内が昨日のことを思い出して言うのに、海部はうっとうしいと言うように返す
「面と向かって話できませんか?普通に話すのくらい」
「いつ寝るかわからないしだな…お前の部屋に押しかけるのもどうかと…」
海部が未だにそのあたりの遠慮をしているのに、宮内ははぁ、と息を吐いて相手に言う
「私が、迷惑だと思う?」
「……思わないのか?」
「よっぽど寝る前じゃなければ」
「それだったらどうする!」
海部が力強く言うのに、宮内は頭を左右に振って諦めたように言う
「あぁ、うん、もう、なんというか」
「…なん…だ…」
「いや、海部さんは海部さんだなと」
海部が少し不安げに尋ねるが、宮内は笑いながら返す
相手は納得していないながらも、それ以上の追及をやめる
「……とりあえず、今晩には戻ってるだろうから飯も作る…
一応、結城にも手伝ってもらうようにしてな」
「無理しないでよ?」
「しない、体調管理くらい自分で出来る」
海部は自身ありげに言うが、宮内はやはりどこか不安が残る
「なんならお前が手伝え」
「それは嫌です」
海部は笑いながらなんだそれ…と返し、甘い甘いお粥を少しずつ食べていった




