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私たちの理想郷~病人~

―朝


扉の開く音がして、塚本がそちらを見ると今にも倒れそうな結城がリビングに出てくる


「涼香ちゃん!どうしたの!?目の下クマできてる…」

「……悠斗君が…寝かせてくれなかった…」


彼女ははそれだけ答えるとフラフラとフラフラとリビングの椅子に座る

再び扉の開く音がして、今度は海部がフラフラと歩いてくる


「か、海部さん?どうしたの?」

「……宮内が…寝かせてくれなかった…」


彼女もまたガタンと椅子で音を立てながら結城の隣に座る

二人の言葉に塚本が困惑していると一ノ瀬と宮内があくびをしながらリビングに入ってきた



「ま、舞ちゃん、悠斗くん!何したの?

 涼香ちゃんは悠斗くんが寝かせてくれなかったっていうし

 海部さんは舞ちゃんに寝かせてくれなかったって…」


慌てながら塚本が尋ねているところを部屋に入ってきた鳴滝がその断片を聞く


「えっ…何?二人とも…何やったの!?

 寝かせてくれなかったって…」


鳴滝のリアクションに笑いながら一ノ瀬は返す


「何もねぇよ、俺はアイツとテレビ見ながら話してただけだ」

 

宮内も何もしていない、というような声で言う


「私も海部さんと話してただけだよ?チャットで」

「そこはなんで直接じゃないの?」

「顔をあわせてたら言いにくいこともあるんだって」


塚本のつっこみに宮内は笑って返す


「でも…この状況じゃご飯作る人ダウンしたんじゃ?」

「「あ」」


鳴滝の言葉に宮内と一ノ瀬は声をそろえて気づいたように言う


「…今気づいたか」


海部が机に突っ伏しながら冷たい声で言う


「…僕たちだけで…どうする?」

「出前取ろうぜ、出前」



鳴滝が不安そうに言うと一ノ瀬が朝刊に挟まっていたチラシを引っ張り出し、ソファの前のテーブルに広げる

四人は適当に広げられたそれを取って考え出す


「あんまり高いのにしたら許さないから」

「おい寿司頼もうぜ!この“松セット”とかいうやつ!」

「さんせ~」

「えっ…いや、僕も食べてみたいけど…いいの?」



結城の忠告にも関わらず、一ノ瀬が聞いていないかの様に言う

宮内はそれに同意し、鳴滝も困惑しながらも完全に欲が見えている


「ふざけんなお前ら一週間飯作ってやらね~からな!」


結城が声を張って言うと咳き込む、海部はその背中を撫でてやりながら相手を止める


「そういうことだ、私も作らないつもりだからな」

「わかりました海部さん!」


威圧するような声に、相変わらずのトーンで一ノ瀬は返し

寿司の書かれたチラシをゴミ箱に投げ入れて、素直に他のチラシで料理を探し始める


「…いつものことながら…あいつ…」

「お疲れ様…だな」



結城が疲れたように言うのに海部は笑いながら言う



「もう大丈夫、海部さんは?」

「私は熱っぽくて頭がフラつくだけだ、安心しろ」

「あんまり安心できないよねそれ」


しんどそうな相手の声に結城は心配そうに返す


「…どうする?任せるのはかなり不安だが…戻って寝たいな…ふぁあ…あ…」

「私も寝る…」


海部があくびをするのに、結城はけだるそうに言って立ち上がる

後に続くように海部も立ち上がって自室に向かおうとすると、塚本がそれに気づく


「えっと…二人とも、戻る?…ご飯どうしよっか?」

「…どうする?」

「おかゆでいいよ…」


海部が聞くと、結城は力尽きたように言う


「…あ、ついでに一ノ瀬と宮内に責任取らせて」

「あぁ、うん、その言い方…」

「ツッコまないで、返す気力が無いから…それじゃ」


塚本が言いかけるのを結城が静止し、海部は隣で小さい声ながら笑った



二人が部屋に向かい扉を閉めるのを見届けると、塚本はソファに戻ってチラシをみる


「…何か決まった?」

「弁当で良いだろって感じだ…アイツに口うるさく言われそうだからな!

 正直、俺の料理の腕前ならアイツなんか居なくても困らないしな?」


その言い方に塚本は宮内と目を合わせて笑ってしまう


「そういう言い方はしないほうが良い」


鳴滝は相変わらず彼の言葉を注意して一ノ瀬はばつが悪そうに「…あぁ、ごめん」という






宮内が電話で全員が選んだ弁当を頼んでいるうちに、塚本が二人に食事を頼まれたことを一ノ瀬に言う


「涼香ちゃんと海部さんがおかゆでいいって言ってたけど…あ、あと舞ちゃんと悠斗くんが作れ的なことも」

「…ったく、仕方ね~な!俺の天才的な料理の腕前が披露されるときが来たってわけか!」


一ノ瀬は袖をかなり捲り上げて、その袖は明らかに邪魔だろうと思われる大きさの円になっている

電話を切った宮内がソファに座って声をかける


「結城さんに見せてあげないとね?」

「別にアイツのためじゃね~からな!俺の腕が料理を作りたいと疼いているだけだ!ほら!」

「キモっ」


一ノ瀬は腕を見せてプルプルと震わせて見せるが、返ってきた冷たい反応に腕を下ろして下を向く


「舞ちゃん…バッサリ過ぎるよ…」

「いや~我慢できなくてつい」

「いくら事実でも酷いと思う…」


塚本のほんの少し哀れむような声に、宮内はわざとらしいほど明るい声で返した

そこに鳴滝がとどめのような一撃をさらりというので、一ノ瀬は黙り込んでしまう


「舞ちゃんも、ちゃんと作ってね?」

「え~…面倒…っていうかアッチから声かけてきたのに…」


塚本は笑い、気づいたように一ノ瀬の方を向いて言う


「でも、悠斗君料理できるの?あんまり話は聞いたことないんだけど」




「…まぁ…その…大丈夫だ!俺を信じろ!」



妙に不安を煽る数秒の間の後、一ノ瀬は力強く答える



「どうしよう、なんとなく不安要素しかないんだけど…」

「いや、おかゆ作るだけなのになんで不安要素が誕生するの」


塚本が弱い声で言うのに、宮内は冷静に言う…が、彼女もその不安要素を完全否定できなかった


「と、とりあえず…今からご飯を炊く用意しないとダメなんじゃ…」

「…え?なんで?」


炊飯器の中身が空なのを確認した鳴滝が言うが、塚本は首をかしげる


「えっと…ご飯と他の具を煮込むんじゃ…?」

「…それおかゆじゃなくて…雑炊って言うんじゃない?」

「そ、そうだったんだ…」


塚本が訂正するのに、鳴滝は戸惑いながら返す


「…やっぱり、不安要素しかないね」

「うん…」


宮内が先ほどの言葉を撤回すると、塚本は頷く


「だ~か~ら!俺は大丈夫だって!

 塚本と京くんは弁当を好きなように食ってれば良い!」


一ノ瀬が自信満々に二人に後ろから声をかける


「…まぁ、一旦は任せるけど…」

「ちゃんと作ってよ…?結城、困るだろうから…」

「当たり前だろ!」


疑うような二人の口調に一ノ瀬は声の調子を変えないままに強く言った





11時


「今から作っとくか…」


テーブルの上に積み上げられた、届けられた弁当から視線を話して、一ノ瀬は立ち上がる



「ん~…今から作ったら時間的にちょうどいっか…」


眠そうな声で言いながら宮内も立ち上がる


「大丈夫?」

「…僕たちも…手伝うけど…」

「大丈夫だいじょうぶ、おかゆおかゆ」


塚本と鳴滝の心配そうな声に、宮内は軽く返しながらキッチンにたつ


「ま、まずは米をとがないとな」


一ノ瀬はカップを取り出して米の入っている袋からを一気に掬い上げてそれをすり切ってボールに入れる


「…結城はなんとかなるだろ」

「一週間自己責任だね~」


宮内の言葉に一ノ瀬は嫌々の態度でもう一回米を掬い上げてボールに入れる



「…それじゃ、俺の黄金の右手を見てろよ!」

「塚本と京くんはご飯食べたくなったら勝手に食べててね~」


一ノ瀬が腕を掲げるが、宮内は無視してリビングの二人に声をかける

その様子に一ノ瀬は諦めて黙って米をとぎ始める


「…触れてすらくれないのかよ…」

「何か言った?」

「何でもねぇよ…」


少しだけすねたように言う一ノ瀬の言葉を聞こえていないかのように返され、

彼は完全に諦めて黙って米をとぎ始める



「舞ちゃん酷いね…」

「うん…ちょっと流石にかわいそうかも

 結城が居ないからちゃんと触れてもらえてないよ…」

「作業は進んでるけどね…」


その様子を見ていた塚本と鳴滝がひそひそと会話をする

あそこまでいつもの調子を潰されるのは珍しいため、面白い反面少し哀れになった


「……ほら、とぎ終わったぞ」

「それじゃ煮るんだけど…いっぺんに煮込んでいっか

 味付けだけ二人の好みに合わせて」

「それでいいだろうな」


宮内はボールを受け取って、鍋に米と、先ほどのカップで水を入れるとコンロを一気に捻って強火にする



~40分後~



それから何度か一ノ瀬は冗談を言おうとしたが、すべてスルーされてしまい

結局、ほとんど何事もなくお粥は完成した



「海部さんが味付け濃くて、結城が味が薄く…だったね」


宮内がお椀に別けて、調味料の棚にある左の容器を取って自分の感覚よりちょっと多めに入れて、トレイに乗せる

責任を取れ、という指名からおそらくそういうことだと察した


「それじゃ、先に行ってくるね」

「おう」


宮内がトレイを持って海部の部屋へ向かうと、一ノ瀬は調味料の棚をよく見て

“塩”と書かれた右側の容器を取って少しだけ振りかける


容器を棚に戻しながら、一ノ瀬はふと先ほどの宮内の動作が一瞬頭に過ぎったが

多分大丈夫だろう、と結城の部屋に向かった







続きます

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