第六遊戯
5月21日、いつもと変わらない日常。授業を受けて部活をして家に帰る。大会が近いのでいつもより真剣に部活をしたくらいか。
家に帰ると由香がダイニングで宿題をしていた。由香は自分の部屋では勉強できないタイプ。
よく俺の部屋にも勉強しに来る。「祐介、丁度良かった。由香に数学教えてあげて」
お袋がぐったりした様子で俺に頼む。由香は計算が致命的に苦手。なのに答えだけじゃ納得しない。
理解できるまでとことんだ。でも、分数の割り算も出来ない由香にどうやって数学を教えればいいのだろう?
「お兄ちゃん、この数学の問題おかしいんだよ。数学なのにXとかyが出てくる。英語じゃないのに」
おかしいのはお前の頭だ。ほんとに中学生か?「由香、授業中寝てたな」「寝てないよ、ちゃんと小説かいてたもん」
なんで誇らしげなんだ。とりあえず基礎の基礎から教えていく。しかし、由香の疑問は尽きない。
「お兄ちゃんなんで2χ×3が6χになるのに2χ+3はそのままなの?」「-に-をかけたら+になるっておかしいよ」
「100円落とすのを-100回繰り返したても1万円には絶対ならないよ」
頭痛い。そんなこと考えたことも無かった。一緒に教科書からやり直す。
1時間後、なんとか終わった。俺達は真っ白になっていた。由香おそるべし。
この前、由香の書いた小説読ましてもらったときはこいつ天才かと思ったのに。
「ってか親父に教えてもらえよ。大学の先生なんだから」「お父さんは嫌」
まぁその気持ちはわかる。大学の先生には変人が多いというがその中でも飛びぬけての変人だからな。
ご飯を食べ終え、俺も宿題をしていると由香が部屋に来る。「やっぱし、ここがわからない」
今までずっと考えてたのか。ならば俺も由香と考える。当たり前のことをひとつずつ。
俺まで頭こんがらかってきたが、一緒に考えると楽しい。
「100円落とすの-は100円拾うだから-100×-100はきっと100円を100回拾ったんだ」
もはや数学じゃないし、何いってるかわからなくなってるけど。
そういう決まりなんだよと片付けるのは簡単。でも由香はそれが出来ない。
でも由香にはそのままでいて欲しい。馬鹿で真面目で何より純粋な由香が好きだから。