第五遊戯
5月4日、今日は記念すべき日だ。まぁ生きている限りは毎日記念すべき日だが今日は一味違う。
妹が遂に小説を書き終わったらしい。楽しみで仕方ない。だから、由香が俺の部屋に来るまでの記憶があまりない。
決して手抜きではない。「お兄ちゃん、持って来たよ」大事そうに原稿用紙を抱えている。
って原稿用紙?何と手書き。どれだけパソコン苦手なんだ。早速読もうとするが原稿用紙から手を離さない。
恥ずかしそうにイヤイヤと首を振る。「絶対お兄ちゃん笑うもん」「笑わんから早く見せろ」
「ほんとに?」このタイミングで指差して笑う。あ、すっごい冷めた目した。
先手をうって謝り読んでみる。ちゃんと小説になっていた。
俺は由香の書くものなんて「朝起きたら怪獣になっていた。どうしよう? 鏡を見たら自分だった。あぁー良かった」
みたいな意味不明なものを想像していたのに。「お兄ちゃん、声に出てる。当たり前でしょ、文学部なんだから」
真面目に読むことにする。はっきり言って面白かった。女の子と男の子がいてお互いを好きになる。
でも好きすぎてお互い相手みたいになりたいと思うようになる。そして女の子は男装を、男の子は女装をするようになる。
だんだんはまっていくうちに本当に私、僕は彼、彼女のことが好きなのかと考えるようになる。
というストーリー。「どう?お兄ちゃん」「いや、普通に面白い」
「嘘だぁ。ちゃんと駄目なところも言って」初めてにしたら上手いと思うがなぁ。
「駄目なところをあげればキリが無い。心理描写が多すぎて状況が掴み辛いし、語尾が統一されてない」
「女の子視点と男の子視点の切り替わりがうまく出来ていないし、人物設定が甘い」
と真面目に駄目だし。あ、由香がへこんだ。由香の顔を見ながらじゃ俺は本音を話すことは出来ない。
由香を膝の上に座らせ俺の顔を見れなくする。これなら頭しか見れないから大丈夫。
「由香、初めてだったんだろ? 下手でも大丈夫さ。お兄ちゃんは大満足さ。とても良かったよ」
なんかこの会話と状況だけをみるとそうとう危ないな。でも真意は伝わったみたい。
「ありがと、お兄ちゃん。私、次も頑張る」そうだ、それでこそ由香だ。
「次書けたらまたお兄ちゃんに一番に見せてくれよ」「うん」
とびっきりの笑顔。
この笑顔を見るためなら死んだってかまわない。
次もいい小説が書けるといいな。