第一遊戯
俺の妹はとても可愛い。多少は贔屓目も含まれるが目に入れても痛くない自慢の妹。両親も俺もとても甘やかしてきた。
そのせいか我儘にはならなかったが、少し天然で純粋過ぎる女の子になった。中学1年にすれば子供っぽ過ぎる気もする。
俺の生きがいはそんな可愛い妹の由香で遊ぶこと。それでは妹遊戯を始めよう。
今日は4月1日、いわゆるエイプリルフール。由香をいじるには絶好の日。高校は春休み、部活は午前中で終わり。由香は部活が4時頃で終わる。
絶好のシチュエーション。どんな嘘をしかけよう?ここはべたに死んだふりに決定。
絵の具の黒と赤をケチャップに混ぜる。これで血糊の完成。いらないTシャツに包丁を突き刺し、先端をスポンジでガード。
あとは血糊をTシャツと体にぶちまけ本当に包丁が刺さらないようにTシャツを着て準備オッケー。
そのまま由香のベッドで待機。由香は驚いてくれるだろうか?
チャイムが鳴る。ドキドキしながら精一杯死んだふりのポーズ。「たっだいまー。あれ、お兄ちゃんいないのかなぁ」
1階から由香の声。そして、階段を上る音。ドアを開けハッと息を呑む。すると「ギャー」とこの世のものとは思えない叫び声。
そこは可愛らしくキャーが良かった。「お、お兄ちゃんが死んでる。きゅ、救急車、救急車呼ばなきゃ」
「何番だっけ? 110番?」有り得ないほど混乱してる。しかもそれは警察。俺は慌てて由香の携帯を取り上げる。
すると「お兄ちゃんが生き返った」と心底驚いた顔で叫ぶとそのまま倒れてしまった。
その夜、家族会議が開かれた。「祐介、あんたやりすぎよ」怖い顔で怒っているのが母親。
「でもこれよくできてるなぁ」父がTシャツを眺めながら呟くが「お父さんは黙ってて」一蹴される。
結局、俺は今日の夕飯抜き。俺が悪いのか?まぁ間違いなく俺が悪い。
部屋に戻り、すきっ腹を抱えているとコンコンとノックの音。由香だ。家でノックなんかするのは由香だけ。
由香はお腹すいてるでしょとお菓子を持ってきてくれた。やっぱり持つべきものは妹だね。
二人でベッドに腰掛、お菓子を食べる。ふと由香がもたれかかってくる。
「私もびっくりしすぎたけどね、本当に心配したんだからね。お兄ちゃんが死んじゃった。いなくなっちゃったって」
うっすらと涙が浮かんでいる。あぁ、俺は何てことをしたんだろう。俺はただ由香の笑顔が見たいだけなのに。
由香が可愛すぎるからどうしても素直になれない。「ごめんな、心配かけて。由香が可愛いからイタズラしたくなるんだよ」
由香が真っ赤になってこっちを見てる。「私、可愛い?」しかも照れてる。
「まぁ嘘だけど」一気に由香の顔が怒りの顔に変わる。「お兄ちゃんの馬鹿。もう知らない」
怒っちゃった。「ごめん、ごめん。お詫びにひとつだけ言うこときいてやる」
「ほんと? あ、まさかこれも嘘?」お、ちょっと賢くなってる。「これは本当。何がいい?」
うーん、うーんと真剣に考え出す。その考えている格好が可愛すぎてまたからかいたくなるが今日はもう自重しよう。
少し恥ずかしそうに「今日、昔みたいに一緒に寝ていい? あんなの見ちゃったから怖い夢見そうで」
「そんなことでいいのか? 待ってな、お前の毛布取ってくる」そういって由香の部屋に入ると親父がいた。
俺の作った血糊のTシャツを着てベッドに横たわっていた。目が合う。俺たちの間に言葉はいらなかった。
死んだふりのポーズが一緒なのが腹が立つ。毛布を引っ張り出し無言で部屋に戻る。
「久しぶりだね。一緒に寝るの」家のリフォーム前は一緒の部屋で寝ていたから2年ぶりくらいか。
俺は緊張してなかなか眠れなかったが由香はすぐ寝てしまう。寝顔も可愛い。
ちっこくて丸っこくて子犬みたい。いい夢見ろよとこれは嘘なく心の底から純粋に思った。