第九話「父という名の、最初の仲間」
萩ノ宮から帰った夜、父さんに話した。
夕飯の後、テレビを消した。父さんが「何か大事な話か」という顔をした。
「会社を作りたい」
「会社?」
「はい。来栖堂みたいな、本物があるのに機会がない場所を支援する会社です。父さんに代表をお願いしたい」
「……俺が代表になるのか」
「はい。実務は俺がやります。父さんには名義と、現場での窓口をお願いしたい。俺一人が表に出ると、相手が話を聞かない場面が出てくる」
「それは正直だな」
父さんが少し笑った。母さんがお茶を三つ持ってきて座った。
「颯、お前が来栖堂に関わりたい理由は、なんだ」
「花びらが全部揃っていたので」
父さんが首をかしげた。
「……どういう意味だ」
「来栖さんの練り切り、毎回全部の花びらの枚数が揃っています。誰に見せるためでもなく、そういうものだからそうしている。毎朝ずっとそうしてきた人です。そういうものが、なくなってほしくない」
父さんが少し黙った。
「……来栖堂についても、何か見えているのか」
「来栖さんの手が、五年後も動いています。でも今のままじゃ来ない」
「何かが変われば来る、ということか」
「そうです」
父さんがしばらく俺を見た。疑わない。ただ受け取ろうとしている目だ。
「わかった。一緒にやろう」
「ありがとうございます」
「ただし。全部話せとは言わない。でも隠すな。俺がわかるように説明してくれ」
「……それ、俺が父さんに言う台詞じゃないですか」
「お互いにってことだ」
母さんが「この二人、真剣な話の時の顔が同じ」と言った。
父さんが「そうか?」と照れた。
「……悪くないですね、それ」
父さんが俺の頭をぐしゃっと撫でた。
何発目かわからない、いつものフレーズが来た。
今日のは、少し違う感じがした。
◆
翌週、来栖さんから電話があった。
「颯くんですか」
「はい」
「一度、話を聞いてもらえますか。少し、困ったことがありまして」
声が沈んでいた。
未来視で確認した。来栖堂の周りに良くない気配がある。急ぎだということだけわかった。
「来週の土曜日、父と一緒に伺います。それと父の知り合いで財前という者も一緒に来ます」
「わかりました」
電話を切ってから父さんに伝えた。
「来週、来栖堂に行く。一緒に来てほしい」
「わかった。深刻か」
「深刻です」
「よし、行こう」
父さんが静かに言った。
全部は話せない。でも「行こう」と言える人間が一人いる。それだけで、全然違う。
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