第五十一話「大地の問い、颯の答え」
三月の終わり。
終業式の後、大地と二人で来栖堂に行った。
七海が店にいた。
「颯、久しぶり。大地くんは初めて?」
「大地です。よろしく」
「七海。来栖堂の娘」
七海が大地をじっと見た。
「颯の仲間?」
「そのつもり」
「ふーん」
七海がカウンターから俺を見た。
「颯、今日はどうしたの。大地くんを連れてくるなんて珍しい」
「大地が来栖堂に来たがっていたので」
「俺、来たかったんだよ。颯がいつも葛饅頭の話するから」
「葛饅頭、ください。大地の分も」
七海が包んでくれた。
大地が一口食べた。
「……うまい」
「でしょう」
「颯がいつも言ってた意味がわかった。これ、本当にうまい」
七海が「ありがとう」と言った。
大地が店の中を見回した。
「来栖堂って、颯が助けたんだよね」
「来栖さんが立て直しました」
「でも颯がいなかったら、なかったじゃん」
七海が「そうなの」と言った。
「颯、いつもそういうこと言わないよね。自分がやったことを」
「みんなでやったことなので」
「でもみんなをまとめたのは颯でしょ」
俺は少し間を置いた。
「まとめたというより、場所を作っただけです」
七海が「場所か——」と言って、暖簾の方を見た。
「来栖堂も、場所だよね。誰かが来て、何かが起きる場所」
「そうです」
「颯が作った場所も、そういうものになるといいね」
大地が外を見ながら葛饅頭を食べていた。
しばらくして、大地が言った。
「颯、一つ聞いていいか」
「なんですか」
「お前、本当に何者なんだ」
俺は少し考えた。
「まだ途中です」
「途中って、どこに向かってるんだよ」
「ビリオネアを量産するところに」
大地が少し固まった。
「……それ、本気で言ってるよな」
「本気です」
「何人くらい量産するつもりなの」
「まだわかりません。でも、俺の未来視で見えている人間は今のところ五人です」
「五人」
「はい。全員、才能があって機会がない人間です」
「俺も入ってる?」
俺は少し間を置いた。
「最初から入っています」
大地が「やっと言ってくれた」と言った。
「入学式から待ってたよ、その言葉」
「そんなに待っていたんですか」
「待ってた。でも颯って、すぐに言わないじゃん」
「言うタイミングがあると思って」
「もう言うタイミングは来てたよ」
「善処します」
大地がコーラを飲んだ。
七海が「残り四人は誰なの」と聞いた。
「まだ出会っていない人もいます。でも、一人は七海です」
七海が少し驚いた顔をした。
「私が、ビリオネア?」
「七海の才能は本物です。来栖堂を守っていく中で、それが大きくなります」
七海がしばらく俺を見た。
「……颯って、本当に変なんだけど」
「よく言われます」
「でも」
七海がカウンターに肘をついて、俺を見た。
「嬉しいよ。ちゃんと」
「嬉しそうに見えないですが」
「嬉しいの。見えなくてもそうなの」
大地が「颯と七海、なんか似てるな」と言った。
「どのへんがですか」
「感情を外に出さないとこ」
七海が「失礼な」と言った。
「事実じゃないですか」
「うるさい」
大地が笑った。
俺も少し、笑いをこらえた。
来栖堂の窓から、春の萩ノ宮が見えた。
銀杏通りのアーチの下で、猫がいつものところに丸まっていた。
三億八千万。
十一月から三月にかけて、三億ファンドのピーク売却益、川上染工の成功報酬、冬の自己運用——全部が少しずつ積み上がった結果だ。来年は四億五千万を超えて、その先へ向かう。
DBは帝都全域三十件超。
大地のシステムが、俺の未来視と繋がった。
奏の崩壊感知がLv2になりつつある。
凛の感情安定化がコントロールできてきた。
仲間がいる。場所がある。方向がある。
一年前の一億の時とは、全然違う感触だ。
颯爽と、やってやろうじゃないか。
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