第四十八話「白鷺から、最後の接触」
一月。
白鷺から直接連絡が来た。
メッセージだった。
「颯くん、一度だけお時間をいただけますか。桐島さんの件について、直接お話ししたいことがあります」
財前さんに相談した。
「会うか」
「会います。でも俺一人で」
「危ない」
「今の状況で危害を加えたら、白鷺の組織が困ります。俺は今、商工会議所と正式に繋がっています。何かあれば表に出ます」
「颯、お前が思っている以上に白鷺は計算している」
「わかっています。ただ——」
「ただ?」
「白鷺という人間を、もう一度自分の目で確かめたいです。Lv3でも見えない相手を、感情で理解したい」
財前さんが少し間を置いた。
「……終わったら、すぐに連絡しろ」
「はい」
白鷺が指定したのは、帝都の南側のカフェだった。
白鷺が先に来て待っていた。
コーヒーを飲んでいた。笑顔が自然だった。
「来てくれてありがとう、颯くん」
「時間は短くします」
「わかりました。単刀直入に言います。桐島奏さんの件は諦めます」
俺は少し驚いた。
「理由を聞いてもいいですか」
「颯くんが本気だからです。本気の人間の仕事を邪魔すると、結果的に私たちも損をする」
「それが全部の理由ですか」
白鷺が少し間を置いた。
笑顔のまま。
「颯くん、一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「あなたは最終的に何を作りたいんですか」
「才能と機会が出会う仕組みです」
「具体的には」
「才能がある人間が、どこにいても機会を見つけられる世界です。今は運と縁がなければ機会が来ない。それを変えたい」
白鷺がしばらく俺を見た。
笑顔が、少しだけ変わった気がした。
変わったのか、変わっていないのか、俺には判断できなかった。
「……颯くん、あなたの未来視は私には効かない」
「知っています」
「でも、あなたが何を見ているかは、わかる気がします」
「どういう意味ですか」
「あなたが見ているのは、個人の未来じゃない。構造の未来です。誰かがそれを変えれば、どう動くかを見ている」
俺は少し、白鷺を見た。
この人間は、俺のことをよく研究している。
「だからといって、一緒には動けません」
「わかっています。ただ——」
「ただ?」
「いつか、颯くんが百億を超えた時に、もう一度話しましょう。その頃には、私たちの利害が一致するかもしれない」
白鷺が立ち上がった。
「今日は来てくれてありがとう。桐島さんの件は、本当に手を引きます」
白鷺が出ていった。
俺は少し、カフェに残っていた。
白鷺のコーヒーカップが、残っていた。
未来視を試みた。
やはり、見えなかった。
でも——今日の白鷺は、前と少し違う気がした。
何かを「決めた」わけじゃない。でも、何かが変わった。
それが何かは、まだわからなかった。
財前さんに連絡した。
「終わりました。白鷺が奏さんの件から手を引くと言いました」
少し間があった。
「信用するな」
「はい。でも今日のところは引いた、ということは確かです」
「……颯、お前は白鷺のことを怖くないのか」
俺は少し考えた。
「怖いです。でも、もっと怖いのは——白鷺を知らないまま動くことです」
「そうか」
「葛饅頭、明日持っていきます」
「来い」
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