第四十七話「奏、自分で話す」
土曜日の午後。
桐島家の前で、俺は外で待っていた。
コンビニで買ったコーヒーを持って、近くの公園のベンチに座った。
財前さんにメッセージを送った。
「奏さんが父親と話しています。俺は外で待っています」
しばらくして返信が来た。
「颯が中に入らなかったのか」
「奏さんが自分でやると言ったので」
少し間があった。
「……そうか。待て」
それだけだった。
一時間半後、奏から「出られますか」とメッセージが来た。
公園に奏が来た。
少し顔が赤かった。目も少し赤かった。
何も聞かなかった。
隣に座った。
しばらく、二人で黙っていた。
「颯くん」
「はい」
「父が泣きました」
「……そうですか」
「私が話している途中で。怒ったり、否定したりするかと思ったら、泣いていて」
「何を話したんですか」
「全部。私がどう思っているか。颯くんたちと動いていて何が変わったか。自分の能力を自分のものだと初めて感じた、ということ」
「お父さんは何と言いましたか」
「最初は黙っていました。しばらくして——『奏がそう思っているなら、お父さんは何も言えない』って」
奏が空を見た。
「父、知らなかったんだと思います。私がそんなふうに感じていたこと」
「言っていなかったから」
「そうです。言えなかった。でも今日、言えました」
冬の公園に、風が吹いた。
「颯くん」
「なんですか」
「白鷺さんが父に何を言ったか、聞きましたか」
「聞いていないです」
「財前さんの体調のこと。それと、颯くんたちは若くて不安定だということ。父が心配するようなことを、ちゃんと選んで言っていました」
「そうですか」
「計算していますよね、あの人は」
「そう思います」
奏が少し、俺を見た。
「でも父が揺れたのは、白鷺さんの言葉だけじゃなかったと思います。私が何も言っていなかったから、父には判断する材料がなかった」
「奏さんが話したから、材料ができた」
「そうです」
また少し、黙っていた。
「颯くん、一つだけ言っていいですか」
「どうぞ」
「外で待っていてくれて、よかったです」
「入った方が良かったですか」
「違います。待っていてくれたから、私だけで話せた」
俺は少し、なんと返すか考えた。
「奏さんが話せる人間だと、最初から思っていたので」
「最初から?」
「川上染工の決算書を三十秒で読んだ時から」
奏が「それは能力の話じゃないですか」と言った。
「能力と人間は切り離せないです」
奏がしばらく俺を見て、それから笑った。
「颯くんって、本当に変な人ですね」
「よく言われます」
財前さんに連絡した。
「奏さんが自分で話しました。解決しました」
しばらくして返信が来た。
「そうか」
「葛饅頭、明日持っていきます」
「来い」
「調査ですか」
「……今日は違う」
俺は少し、その返信を見た。
財前さんが「違う」と言った。
それだけで、十分だった。
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