第四十六話「白鷺が、父を動かした」
十二月の初め。
奏から「少し話せますか」というメッセージが来た。
緊急、という感じじゃなかった。でも、いつもと文面が違った。
放課後、部室に二人で残った。
「颯くん、父の様子がおかしくて」
「どう、おかしいんですか」
「先週から、急に私に白鷺さんの話をしなくなったんです。前は何度も言ってきたのに」
「それはいいことじゃないですか」
「でも、なんか——様子が違う。何かを隠している感じがする」
奏が少し間を置いた。
「昨日、父の部屋に呼ばれました。最初は仕事の話をしていたんですが、途中で急に聞かれて」
「何を?」
「財前さんの体調は大丈夫なのか、って」
俺は少し、頭の中で何かが繋がった感触があった。
「それだけですか」
「もう一つ。颯くんたちと動いていて、将来は大丈夫なのか、とも聞かれました。高校生と、体調に問題がある投資家だけでは、不安定じゃないか、と」
白鷺だ。
白鷺が奏の父に接触して、その言葉を使った。
財前さんの健康問題。颯たちが高校生であること。不安定さを強調して、父の「娘への不安」を刺激した。
「奏さん、お父さんと白鷺さんが直接話した可能性があります」
「……そう思います。でも父は言わなくて」
「お父さんが白鷺を信じてしまった理由は、俺たちへの不安を刺激されたからだと思います」
奏が少し目を細めた。
崩壊感知が動いている顔だ。
「……そうか。白鷺さんは、父の弱点を知っていた」
「はい。お父さんが一番心配しているのは、奏さんの将来です。そこを突いてきた」
「どうするんですか」
俺は少し考えた。
前回は財前さんと一緒に父を説得した。同じ話をもう一度しても、今度は白鷺の言葉の方が先に入っている。同じ手は使えない。
「奏さん、一つ聞いていいですか」
「なんですか」
「お父さんに、自分で話せますか」
奏が俺を見た。
「颯くんじゃなくて、私が?」
「俺が言っても、また『外部の人間がうちの娘を囲い込もうとしている』に見える。白鷺がそう思わせるように動いたから。でも奏さん自身が話せば、それは違う」
「……私が、父を説得するんですか」
「説得じゃなくていいです。ただ、奏さんが自分の言葉で話す。それだけです」
奏がしばらく黙った。
窓の外に、冬の帝都が広がっていた。
「……やります」
「一人でやれますか」
「颯くんは来なくていいですか」
「外で待ちます」
奏が少し、力の入った顔をした。
「わかりました」
---




