第四十五話「総資産、三億を超える」
十一月の終わり。
朝五時五十分。
スマホを開いた。
証券アプリ。
株式運用(財前ファンド含む):二億八千万。
ソウ・コンサルティング収益:川上染工成功報酬三百万、商工会議所二件目ライセンス五百万。
財前ファンド運用益(颯の取り分):二千万。
合計:三億三百万。
三億を超えた。
俺はしばらく、その数字を見ていた。
一億を超えた時と、感じ方が違った。
一億の時は、「出発点だ」と思った。
今は——「想像よりも、人が必要だった」と思った。
大地がいなければ、DBはできなかった。
奏がいなければ、川上染工の問題は見えなかった。
凛がいなければ、部室はここまで機能しなかった。
財前さんがいなければ、そもそも動けなかった。
来栖さんがいなければ、一号案件がなかった。
七海がいなければ、萩ノ宮モデルはできなかった。
一人でできたことは、何一つなかった。
大地にメッセージを送った。
「三億を超えました」
すぐに返信が来た。
「おめでとう!!! 俺も少し貢献した?」
「大地がいなければ無理でした」
「そっか。よかった」
「よかった、じゃなくて、おめでとうくらい言えよ」
「大地自身に言っています」
少し間があった。
「……そうか。ありがとう颯」
奏にも送った。
「三億超えました。奏さんのおかげです」
「おめでとうございます。でも、私は崩れそうなものを指摘しただけです」
「それが一番重要でした」
「……颯くんって、いつもそういうことを言いますね」
「本当のことなので」
「嬉しいですよ、ちゃんと」
凛にも送った。
「三億超えました。凛さんのおかげです」
「私は何もしてないよ」
「いつも部室を落ち着けてくれていました」
しばらく間があった。
「……颯くん、私が帰る場所ができた気がしてる。この部室」
「俺もそう思っています」
「……ありがとう」
財前さんには、数字だけ送った。
「三億三百万」
返信が来た。
「予定通りだ。葛饅頭を持ってこい」
「調査ですか」
「そうだ」
颯は少し笑いながら、起きる準備をした。
来年、でかい話をすると財前さんが言っていた。
三億を超えた。次は四億五千万。そして十五億、五十億——。
でも今日は、ここまで来られたことを、少しだけ感じておく。
颯爽と、やってやろうじゃないか。
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