第四十二話「白鷺から、二度目の接触」
九月。
今度は学校じゃなかった。
来栖堂に行く途中の、萩ノ宮の商店街だった。
「颯くん」
振り向くと、白鷺が立っていた。笑顔が自然だ。相変わらず。
「萩ノ宮まで来たんですか」
「颯くんのプロジェクトを見たくて。来栖堂、いいお店ですね。先ほど葛饅頭を買いました」
「そうですか」
「颯くん、先日はお断りいただきましたが、少し話せますか」
「少しなら」
白鷺が俺の隣を歩き始めた。
「颯くんのDBのこと、調べました。帝都全域で三十件以上の商店街のデータが集まっているそうですね」
「どこから聞きましたか」
「商工会議所です。西田部長が、非常に評価していると話していました」
俺は少し頭に入れた。白鷺は商工会議所にも繋がっている。
「弊社と組めば、全国展開が今すぐできます。データ収集のリソースも、ネットワークも、颯くんが今持っているものの百倍の規模で動けます」
「お断りします」
「なぜですか」
「俺がやりたいのは、規模を大きくすることじゃないので」
白鷺が少し首をかしげた。笑顔のまま。
「では何がしたいんですか」
「才能がある人間に機会を与えることです。規模は結果であって、目的じゃないです」
「それは——財前さんとの関係でも実現できますか。財前さんは」
「健康の話をするつもりなら、やめてください」
白鷺が少し間を置いた。
「……颯くん、一つだけ」
「なんですか」
「あなたは今、財前さんを守ろうとしていますよね」
「そうです」
「なぜですか。ビジネスの関係なら、代わりは作れます」
俺は少し、白鷺を見た。
この人間は、俺の動機が理解できていない。
ビジネスの関係だから守る、という発想がない。
「白鷺さん、一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「白鷺さんが囲っている七人の異能者、彼らの名前を言えますか」
白鷺が初めて、表情が微かに動いた。
「……どこでそれを」
「財前さんから聞きました。その七人は、今も連絡が取れますか」
白鷺が少し間を置いた。
笑顔に戻った。
「颯くん、そのことについては、今は答えられません」
「ではお断りします。失礼します」
俺は来栖堂の方向に歩き始めた。
背後で白鷺が「いつでも、どうぞ」と言った。
笑顔のまま、声だけで。
来栖堂に入ると、七海がいた。
「颯、なんか顔が硬い。どうした」
「ちょっと嫌な人間と話しました」
「誰」
「後で話します。葛饅頭、ください」
「はい」
七海が包んでくれた。
一口食べた。
甘くて、静かな味がした。
落ち着いた。
白鷺と話した後に来栖堂に来たのは、たぶん偶然じゃなかった。
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