第三十九話「桐島奏の父、財前さんと対峙する」
翌週の水曜日。
財前さんと一緒に、桐島建設の応接室に来た。
桐島慎一郎、奏の父。五十代、がっしりした体格。財界人の顔だ。
「財前さん、わざわざ」
「颯くんから話を聞いて、一度お会いしたかった」
財前さんが静かに座った。俺も隣に座った。
桐島さんが俺を見た。
「颯くん、とは——奏の話に出てくる子ですね」
「はい。東明の同級生です」
「奏の能力のことは、知っているんですね」
「はい」
「それで、なんで止めるんですか。奏の将来のためを思って、白鷺さんに紹介しようとしていたんですが」
財前さんが口を開いた。
「桐島さん、一つだけ聞いていいですか」
「どうぞ」
「お嬢さんの意思は、確認しましたか」
桐島さんが少し固まった。
「……娘のためだから」
「それは親御さんの判断です。お嬢さんの判断じゃない」
「財前さん、娘はまだ高校生で——」
「颯くんも高校生です」
桐島さんが俺を見た。
俺は少し前に出た。
「桐島さん、奏さんの能力は本物です。でも、その能力を誰のために使うかは、奏さんが決めることです。今、奏さんは自分で考えて、断ると言っています」
「奏が……そう言っているのか」
「はい」
「白鷺さんのところは、ちゃんとした会社だ。奏のためを思って——」
「桐島さん」
財前さんの声が、少し低くなった。
「白鷺陽一のところに入った異能者が、その後どうなっているか、調べたことはありますか」
「……どういう意味ですか」
「白鷺は使える異能者を集めます。でも、使えなくなった時にどう扱うか——それは表に出ていない」
桐島さんの顔色が、少し変わった。
「そんなことは——」
「確認されていないというのが正確です。でも、いなくなった人間が七人いる。全員、白鷺のところに入った後に連絡が取れなくなった」
部屋が静かになった。
俺は桐島さんを見ていた。
この人は、悪い人間じゃない。娘のためを本当に思っている。ただ、判断する情報が足りなかっただけだ。
「桐島さん、奏さんは今、俺たちと一緒に動いています。川上染工の再建にも関わっています。来月には商工会議所への報告案件になります。正式なルートで、正式な仕事として動いています」
桐島さんが俺を見た。
「……颯くん、あなたは奏に何を求めているんですか」
「今は何も。ただ、奏さんが自分で動きたい時に、動ける環境を作りたいです」
桐島さんがしばらく黙った。
「……白鷺さんへの件は、断ります」
財前さんが「ありがとうございます」と頷いた。
帰り道、財前さんが言った。
「颯、うまくやったな」
「財前さんが話してくれたからです」
「いなくなった七人の話か。あれは本当のことだ。ただし証拠がない」
「でも効きました」
「親に、子供の安全を心配させるのが一番効く」
「勉強になりました」
財前さんが少し間を置いた。
「颯」
「はい」
「今日の件、葛饅頭なしでよかったか」
「あってもよかったですが」
「次は持ってこい」
「調査ですか」
「そうだ」
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