第三十一話「財前さんが語る、白鷺の話」
財前さんが葛饅頭を食べ終えた。
包みを丁寧に折りたたんだ。
「白鷺陽一」
「はい」
「財界の一部が非公式に組織している——異能者を集めて運用に使う機関の実動部隊だ。表向きは投資顧問会社。実態は、異能者のリクルーターだ」
俺は少し背筋が冷えた。
「確認されているだけで、何人を抱えていますか」
「七人。ただし確認できているのが七人、ということだ。実際はもっといるかもしれない」
「俺の存在を、どこで知ったんですか」
「お前が商工会議所でプレゼンした。帝都経済メディアに記事が出た。動き方が普通の高校生じゃなかった」
「……目立ちすぎましたね」
「そうだ。ただ」
財前さんが少し間を置いた。
「白鷺は、すぐには動かない。まず観察する。それがやり方だ」
「観察期間がある、ということですか」
「ああ。だから今は来ていない。来る前に、こちらが準備をする」
「どんな準備ですか」
「三億の運用を成功させろ」
俺は少し驚いた。
「それが準備ですか」
「白鷺が欲しいのは、使える異能者だ。お前の価値を高くしておけば、向こうが簡単に動けない。拾えない価格になる」
財前さんがコーヒーを一口飲んだ。
「颯、一つだけ言っておく」
「なんですか」
「白鷺と接触した時、未来視を使うな」
「……なぜですか」
「白鷺は決断を保留し続ける。何も決めないまま動く人間だ。お前の未来視は『相手が何かを決めた気配』を読む。白鷺は何も決めないから、読む対象がない」
俺はその説明を頭の中で咀嚼した。
未来視の仕組みの盲点。決断しない人間には効かない。
「だから見えないんですか、白鷺の未来が」
「それが俺の仮説だ。確かめる方法は今のところない」
「財前さん」
「なんだ」
「財前さんは、白鷺と接触したことがありますか」
「ある」
「どんな人間でしたか」
財前さんが少し間を置いた。
「笑顔が自然な人間だ。怖いのは、その笑顔が本物に見えることだ」
俺は少し、頭の中でその言葉を記憶した。
「わかりました。準備します」
「Lv3、急げ」
「急ぐものじゃないと思っています」
「そうだな。ただ——」
財前さんが窓の外を見た。
「来る前に来た方がいい」
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