第三十話「財前さんから、3億の話」
翌週の月曜日。
財前さんのオフィスに来た。葛饅頭を持ってきた。
「来たか」
「来ました。葛饅頭、持ってきました。来栖堂の、冬の限定品です」
「置いとけ」
「川上染工の件、進捗報告があります」
「先に食う」
財前さんが包みを開けて一口食べた。
「……来栖堂、また新しいものを出したのか」
「冬の限定品だそうです。七海が写真を上げたら今月一番反応が良かったと言っていました」
「そうか」
財前さんが二個目に手を伸ばした。
「川上染工の件を話す前に、一つ聞く」
「なんですか」
「東明、どうだ」
「面白い人間が三人いました」
「三人」
「大地、凛さん、奏さんです。全員、何かを持っています」
財前さんが少し目を細めた。
「……お前が言う『何かを持っている』は、そういう意味か」
「はい」
「三人とも異能者か」
「そうです。ただし、まだ自分の能力を使いこなせていない。俺も一緒に考えています」
財前さんがコーヒーを一口飲んだ。
「颯、川上染工の話の前に、一つ提案がある」
「なんですか」
「三億の運用を、任せたい」
俺は少し間を置いた。
三億。
これまでとは桁が違う。
「今すぐ答えは出せませんが、一つ確認させてください」
「なんだ」
「財前さんが三億を俺に任せようと思った理由は、何ですか」
財前さんが少し間を置いた。
「お前の未来視の精度が、上がっている。それと」
「それと?」
「川上染工に動いている。来栖堂の次を、自分で動き始めた。ただ未来視を使うだけじゃなくて、設計ができるようになった」
俺はその言葉を頭に入れた。
「一ヶ月、時間をください」
「なぜ一ヶ月だ」
「Lv3への移行を、確認したいので」
財前さんが少し驚いた顔をした。
「Lv3が来るとわかっているのか」
「来る気がしています。でも確信はない。Lv3が来てから三億を動かす方が、精度が全然違います」
財前さんがしばらく俺を見た。
「……わかった。一ヶ月待つ」
「ありがとうございます」
「ただし、川上染工の件は一ヶ月以内に形にしろ。商工会議所への二件目の約束がある」
「はい。一つ問題が出ました」
俺は川上染工の決算書を出した。
「売掛の回収遅延です。取引先の一社が去年から支払いを遅らせています。放置すると資金繰りが六ヶ月以内に崩れます」
「誰が見つけた」
「奏さんです。決算書を三十秒見て指摘しました」
財前さんが少し目を細めた。
「……桐島の娘か」
「知っていましたか」
「桐島は俺のファンドの出資者だ。娘が能力を持っているとは知らなかった」
「奏さんの父親のことで、少し気になることがあります」
「なんだ」
「奏さんが、父親に能力を使わせたい人間がいると言われているようです。誰かは聞いていないですが」
財前さんの目が、少し鋭くなった。
「……それ、いつ聞いた」
「今週です」
「颯、その相手が誰か、俺には心当たりがある」
「誰ですか」
財前さんが少し間を置いた。
「白鷺陽一という名前を聞いたことはあるか」
俺は首を振った。
「ないです」
「そうか。まだ来ていないなら、時間がある」
「どういう人間ですか」
「……葛饅頭を食べてから話す」
財前さんが三個目に手を伸ばした。
俺は静かに待った。
来る。
何かが来る、という感触が、はっきりあった。
でも何が来るかは、まだ霞がかかっていた。
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うぅ、、あっという間にストックが底をつきそうだ、、




