第二十八話「投資研究部、ただし幽霊部だった」
投資研究部の部室は、第三棟の三階の端にあった。
ドアを開けた瞬間、埃の匂いがした。
机が四つ。椅子が六つ。黒板に「本日の活動:特になし」と書いてある。
日付が、二年前だった。
「……これ、幽霊部じゃん」
大地が部屋を見回しながら言った。
「財前さんに『投資研究部に入れ』と言われました」
「財前さん、ここ知ってて言ったの?」
「たぶん知っていて言いました」
「なんで」
「幽霊部の方が、自由に動けるからだと思います」
大地が少し考えた。
「……それ、颯が好き勝手できるってこと?」
「そういうことです」
「天才じゃん財前さん」
俺たちは机の埃を払い始めた。雑巾がなかったので、大地がカバンの中からなぜかタオルを出してきた。
「なんでタオルを持ち歩いているんですか」
「コーラ飲んだ後に手を拭くため」
「……なるほど」
しばらく黙って掃除をしていた。
扉がノックされた。
「……入ってもいいですか」
凛だった。入部届を手に持っている。
「もちろんです」
凛が部屋を見渡した。埃の匂いが漂っている。
「……ここ、幽霊部ですよね」
「さっきまでそうでした」
「さっきまで」
「今から違います」
凛が少し考えて、入ってきた。
大地が凛を見た。凛が大地を見た。
「橘大地。プログラマー」
「綾瀬凛。……一応、普通の高校生」
「一応、ね」
「橘くんこそ、プログラマーって普通じゃないじゃないですか」
「それもそうだ」
大地が凛に予備の雑巾を渡した。
三人で部室を掃除した。
大地が黒板の「本日の活動:特になし」を消して、新しく書いた。
「本日の活動:始動」
「大地、日付も書いてください」
「あ、そうか。四月八日でいいの?」
「はい」
凛が黒板を見て、小さく笑った。
初めて笑った顔を見た。
「颯くん、これ、本当に投資研究するんですか」
「します。あと、それ以外も」
「それ以外って何ですか」
「大地のプログラムと、俺のDBと」
俺は少し間を置いた。
「凛さんの能力を、うまく使えるようになる方法も考えたいです」
凛が少し驚いた顔をした。
「……私の能力を、使うんですか」
「凛さんのために使う、ということです。俺のためじゃなくて」
凛がしばらく俺を見た。
「……どういう意味ですか」
「人混みで頭痛がするのは、コントロールができていないからですよね。それを改善する方法を、一緒に考えたいということです」
大地が「え、なにそれ、どういう能力の話してんの」と言った。
「後で話します」
「それ何回言うつもり」
「準備ができたら話します」
大地がため息をついた。
でも、怒った顔じゃなかった。
むしろ少し嬉しそうだった。
なんでかはわからないが、この人間はそういう人間だ、ということはわかった。
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