第二十六話「東明高校、入学」
出会いの四月。
東明高校の入学式は、予想通り退屈だった。
ただ、この入学式は運命の一歩目だ。俺の未来視は自身を含めた確かな5人のビリオネアを視ている。
その一歩目の出会いが、必ず訪れるんだ。
・・・校長の話が長い。来賓の話も長い。在校生代表の言葉も長い。
でも俺は退屈しながら、頭の中では川上染工の後継者候補リストを整理していた。DBに入っている若い職人志望者の中で、染色の経験がある人間が三人いる。そのうち一人が帝都在住で、来週連絡を入れる予定だ。
「……お前さ、入学式でノート開く?」
隣から声がした。
顔を向けると、同じ制服を着た男子が俺のノートを覗き込んでいた。髪が少し長くて、口調が軽い。手にコーラの缶を持っている。
入学式にコーラを持ち込む人間を、俺は初めて見た。
「後継者候補のリストです」
「なにそれ」
「事業の話です」
「……事業って。お前、何者」
「小日向颯です。中学の時から、商店街の再生コンサルをやっています」
男子が俺を見た。
「……俺、橘大地。プログラマー。一応」
「一応、というのは」
「まだ高校生だから一応。でも俺、プログラムで負けたことない」
「そうですか」
「なんでそんな淡泊な反応するの」
「すごいと思ったので」
大地が少し固まった。
「……普通そこ疑うか笑うとこじゃないの」
「嘘をついているように見えないので」
大地がコーラを一口飲んだ。
「お前、面白いな」
「よく言われます」
「あ、そのリスト、見せてよ。何人いるの」
「今は三人です。染色経験者に絞っています」
「染色? なんで」
「三代続く染物屋の後継者を探しているので」
大地がまた少し固まった。
「……高校一年生が?」
「今日から高校一年生ですが、はい」
大地が俺を見て、それからノートを見て、また俺を見た。
「俺、投資研究部に入ろうと思ってたんだけど」
「財前さんに入れと言われたので、俺もそこです」
「財前光? あのファンドの?」
「知っていますか」
「名前くらいは。……颯、もしかして」
「はい」
「俺たち、同じとこ行くやつじゃない?」
俺は少し間を置いた。
「そう思っています」
式が終わって教室に移動する人の波に乗りながら、大地が隣を歩いた。
「颯ってさ、なんでそんな淡泊なの。もっとテンション上がらないの、こういう時」
「内心では上がっています」
「全然伝わってこないんだけど」
「よく言われます」
「誰に」
「七海に」
「七海って誰」
「来栖堂という和菓子屋の娘です。商店街の」
「お前、高校入学初日に和菓子屋の娘の話をする人間、初めて見た」
「好きなので」
大地が一瞬だけ歩みを止めた。
「……和菓子が?」
「和菓子も、です」
大地が「も、って何だよ」と言いかけて、それから黙った。
何かを理解した顔だった。
何を理解したかは、あえて聞かなかった。
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高校編スタートしました。長丁場になる予定です。。いつビリオネアに辿り着けるのか、、、
第二章もよろしくお願いします!




