第二十四話「篠崎、終わる。そして次の一手」
翌週の木曜日。
帝都の経済メディアに記事が出た。
**「信用金庫担当者による融資操作疑惑 萩ノ宮周辺で6件の不自然な物件転売」**
財前さんの知り合いの記者が、証拠を丁寧に整理して記事にしてくれた。篠崎の名前は出ていなかったが、帝都中央信用金庫・萩ノ宮支店の「融資担当者」という記述で、業界内ではすぐにわかる内容だった。
宮下さんの証言も匿名で盛り込まれていた。
記事が出た当日の夕方、信用金庫から来栖さんに連絡があった。
「担当者を変更します。前倒し要求は取り消します」
来栖さんからメッセージが来た。
「颯くん、解決しました、と言っていいですか」
「はい、言っていいです」
「……本当に、ありがとうございます」
「来栖さんと池田さんが証言してくれたからです」
「颯くんが設計してくれたからです」
「どちらもです」
その翌日、田村社長から財前さんに連絡があった。
「萩ノ宮の再開発計画を正式に白紙撤回します」
財前さんから俺にその内容が転送されてきた。
「終わったな」
「はい」
「颯、よくやった」
「財前さんと、来栖さんと、池田さんと、宮下さんのおかげです」
「お前が設計した」
「……ありがとうございます」
◆
その週末、帝都商工会議所に向かった。
財前さんのコネで、地域活性化担当の西田部長にプレゼンする機会をもらっていた。
五十代、温和そうな見た目だが目が鋭い人だった。
俺はA4一枚の資料を持って、向かいに座った。
「西田さん、今日は三つだけお話しします」
「どうぞ」
「一つ目、日ノ本の商店街の現状です。全国に約一万三千の商店街があります。そのうち六割以上が『衰退している』と回答しています」
「知っています」
「二つ目、問題の本質です。衰退しているのは、商店街の質が悪いからじゃない。本物の技術と歴史を持ちながら、伝わっていないだけです。それを証明したのが来栖堂です」
俺はスマホで来栖堂の数字を見せた。
「三ヶ月で来店数が四倍。値上げをしても客足が落ちなかった。SNSのフォロワーは一万二千人。伝わればちゃんと来る、という証拠です」
「なるほど」
「三つ目、提案です。このモデルを全国展開するために、商工会議所のネットワークを使わせてください。私どもが『再生できる商店街の目利き』をして、商工会議所が地域との接点を持つ。双方の強みを合わせます」
「費用は」
「初年度のライセンス料として五百万円です。二年目以降は成功報酬型にします。再生した商店街の売上増加分の五パーセントをいただきます」
「目利きというのは、具体的にどうやるんですか」
「私が現地に行って、店主と会って、データを集めます。そこから再生できるかどうかを判断します」
「判断の根拠は」
「今はお伝えできません。でも来栖堂の結果を見てください。判断の精度は、結果が証明します」
西田部長が俺をしばらく見た。
「……あなた、本当に中学生ですか」
「本当に中学生です。でも来年から高校生です」
「財前さんから聞いてはいましたが、実際に会うと驚きますね」
「よく言われます」
西田部長が少し笑った。
「わかりました。五百万、出します。ただし条件があります」
「なんですか」
「半年以内に、二件目の実績を作ってください。来栖堂だけでは偶然かもしれない。二件目が出れば、本物と判断します」
「わかりました」
「もう一つ」
「はい」
「あなたが高校生になっても、この件は続けてくれますか」
「続けます。これが俺の本業なので」
西田部長が笑った。
「財前さんが本物だと言った意味が、わかりました」
握手をして、オフィスを出た。
財前さんがエレベーター前で待っていた。
「どうだった」
「五百万、取れました」
「ほう」
「条件があります。半年以内に二件目の実績です」
「来栖堂の次、どこにするつもりだ」
「すでに目星をつけています。帝都の南側、桜木商店街に三代続く染物屋があります。来栖堂と同じ構造です。本物の技術があって、伝わっていないだけ」
「未来視で見たか」
「Lv2で確認済みです。来週、直接会いに行きます」
財前さんが口の端を上げた。
「……動き始めているな」
「木村会長と話した日から、DBを積んでいました」
「いつから」
「木村会長と話した日から」
財前さんが少し黙った。
「颯、一つだけ言っておく」
「なんですか」
「来栖堂を助けることと、事業にすることは、矛盾しないか」
俺は少し間を置いた。
「矛盾しません。来栖堂を助けたのは本物だからです。事業にするのも、本物を助けるためです。来栖堂以外にも本物はたくさんある。俺一人では届かない。仕組みにしなければ、届かない」
財前さんが頷いた。
「……そうだな」
「財前さんが俺に言ったことと、同じです」
「何を言った」
「俺が投資家をやっている理由と大差ない、と」
財前さんが少し笑った。
「覚えているか」
「覚えています」
エレベーターが来た。二人で乗り込んだ。
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