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第二話「スキルの使い方、誰も教えてくれない問題」

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生まれて一週間が経った。


俺の日課は、天井を見ることだ。


朝も、昼も、夜も、天井だ。


この天井、見飽きた。でも首が据わっていないので向きを変えられない。


転生してわかったことがある。


赤ちゃんというのは、暇だ。


前世——桐島颯として生きていた三十四年間で、「暇」という感覚を俺はほぼ経験していない。大学は課題と就活で消えた。社会人になってからは、暇という概念が存在しなかった。


それが今、一日の大半を天井と見つめ合って過ごしている。


何もできない。泣くか、飲むか、寝るか。


……泣くか、飲むか、寝るか。


これだけだ。


あと、試している。


目を閉じる。


むん、と意識を集中させる。


……なにも起きない。


もう一回。


……なにも起きない。


「う〜……う〜……」


変な声が出た。乳児なので仕方ない。


「あらあら。お腹すいたの?」


母さんが抱き上げてきた。


違います。未来視の起動を試みていました。でもそれを伝える語彙が今の俺にない。乳児の限界がここにある。



前世の記憶は、思ったより濃く残っている。


特にしんどかった時期の記憶ほど、くっきりしている。なぜだ。楽しかった記憶の方を持ってきてほしかった。


コンサルに入って最初の三年間は、本当にきつかった。


毎朝、始発に乗っていた。最寄り駅を五時半に出て、会社に六時前に着く。朝のオフィスは静かで、その二時間だけが自分のための時間だった。資料を読んだり、前日の考えを整理したり。


……今思えば、それが一番好きな時間だったかもしれない。


誰もいない朝のオフィス。コーヒーメーカーが動く音。窓から見える帝都がまだ暗い。


あの時間に何かを決めたことが、多かった気がする。


それが今、生後七日の俺の「朝一の確認」になっている。


母さんが起きてくる前に、目を閉じて、未来視を試みる。


今日も起きなかった。


まあ、そうだろうな。



新しい家族の状況は、少しずつわかってきた。


父・哲二てつじ。サラリーマン。夕方に帰ってきてソファに倒れ込む。仕事が好きそうじゃないが、真面目にやっている。前世の同僚に似たタイプだ。要領は悪いが、誠実だ。


母・明里あかり。専業主婦。笑顔がきれい。俺への溺愛が尋常じゃない。少し目が離れると「颯〜?颯〜?」と探しに来る。


この人たちの子供に生まれたのか。


悪くない、と思う。


前世では、家族らしい時間がほとんどなかった。実家には正月に帰るだけで、それも仕事の資料をカバンに詰め込んでいた。母親の手料理を食べながら、頭の中では翌日の打ち合わせのことを考えていた。


それが普通だと思っていた。


今は違う。


母さんがお乳をくれる。父さんが帰ってきて俺の顔を見て「今日もかわいいな」と言う。


これが、家族か。


前世では、こういうものを後回しにしてきた。


——まあ、取り返せるかどうかはわからないけど。


今世はちゃんとやろう、と思っている。その気持ちだけは本物だ。



転機が来たのは、生後三ヶ月のことだった。


その夜、父さんが帰ってきて、暗い顔で母さんに何かを囁いていた。声は聞こえなかった。でも雰囲気でわかった。


何か良くないことが起きている。


その瞬間。


ぐわっ、と視界が歪んだ。


何かが頭に触れた、という感覚だった。


映像、というより「気配」だ。父さんの周りに、暗い何かがある。遠くない未来に、良くないことが待っている。それだけだ。何が、いつ、どうなるかは、霞がかかっていて全然見えない。


一瞬で終わった。


頭が少し重い。


「……!」


思わず「あばっ」と声が出た。乳児なので仕方ない。


今のが、未来視だ。


たぶん。


意図していなかった。父さんの強い感情が、引き金になったのかもしれない。


でも見えたものは曖昧すぎる。「良くないことがある」という気配だけで、何も具体的にわからない。


使えるのか、これ。


……使えないな。今は。


悔しくて唸り続けていたら、母さんに「ガスかな?」と思われて背中をさすられた。


ちがいます。悔しいんです。


でも決めた。


絶対に成長する。


この力を、ちゃんと使えるようになる。


今世は、後回しにしない。


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