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第十三話「二千百万の壁と、財前さんの本気」

月曜日の放課後、桐ヶ丘へ向かった。


来栖堂に寄って葛饅頭を三個買った。


財前さんのオフィスのドアを開けると、いつも通りの散らかった部屋があった。


「来たか」


「来ました。葛饅頭、持ってきました」


「置いとけ」


「調査目的ですよね」


「うるさい。座れ」


ソファに座った。財前さんはすでに手元に資料を広げていた。


「来栖堂の件、話せ」


A4一枚の紙を渡した。来栖堂の財務状況、借入の内訳、返済スケジュール、解決の方向性をまとめたものだ。


財前さんが黙って読んだ。三分ほどで顔を上げた。


「借入が二千百万か」


「はい。銀行に追加融資を断られています。担保になる資産がない」


「だから別のルートが必要だ」


「はい。俺の自己資金から一部出せますが、全額は難しい。それと、俺一人が出資するより、正式な形で出資した方が来栖さんも安心できます」


「財前ファンドから出資してもらえませんか」


「ベンチャー投資家が和菓子屋に出資する。普通はしない」


「理由を説明します」


「聞く」


「来栖堂は一号案件です。ここで再生のモデルを作れば、同じことが全国でできます。帝都だけで商店街は何百とある。どこも同じ問題を抱えている。来栖堂が成功すれば、その方法を横展開できます」


「来栖堂単体のリターンは薄い」


「薄いです。でも来栖堂が成功した後の展開で回収します」


財前さんが葛饅頭の包みを開けた。一口食べた。


「いくら必要だ」


「まず一千万で返済スケジュールを組み直せます。残り千百万は銀行と分割返済で再交渉します」


「出資の条件は」


「来栖堂の株式の二十パーセントです。ただし経営の主導権は来栖さんに残ります」


財前さんが少し間を置いた。


「一つ聞く。来栖堂にそこまで肩入れする理由は、事業的な計算だけか」


「違います。才能があっても機会がなければ消えていく。来栖さんがそうです。本物の職人が、伝わっていないだけで消えようとしている。俺がやりたいのは、才能と機会の橋渡しです。来栖堂はその最初の場所です」


財前さんが二個目の葛饅頭を食べ終えて、三個目に手を伸ばした。それも食べ終えてから、包みを探すような手つきをした。


「財前さん、三個しか買ってきていないです」


「……そうか」


「また来栖堂に行けば買えます」


「わかってる」


財前さんが立ち上がって、ホワイトボードの前に立った。マーカーを手に取った。


「来栖堂を一号案件として、横展開するシナリオを整理するぞ」


「はい」


「俺も本格的に入る」


少し驚いた。


「……財前さんが、本格的に」


「俺が投資家をやっている理由と、お前が言ったことは大差ない」


それだけ言って、ホワイトボードに書き始めた。


俺はノートを開いた。


窓の外で、桐ヶ丘の街が夕暮れに染まり始めていた。


でかい話になる。絶対に。



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