第十一話「俺がビリオネアを量産したい理由」
夜中の一時。
ダイニングのテーブルに一人で座って、ノートを広げていた。
来栖堂の再建計画。SNS戦略の草案。借入二千百万の返済スケジュール案。銀行に代わる資金調達のルート。
やることを全部書き出したら、A4一枚では足りなかった。
「……多いな」
でも、焦りはない。
こういう状況に慣れている、という感覚がある。前の仕事で、これより何倍も複雑な課題を、締め切りとプレッシャーに追われながら処理していた。今の俺には締め切りも上司のプレッシャーもない。あるのは、自分で決めた約束だけだ。
ペンを止めて、天井を見た。
——なぜ俺は、こんなことをやろうとしているんだろう。
ビリオネアを量産する。
自分でそう言っておきながら、改めて考える。
なぜだ。
◆
前世の話をする。
俺が死んだのは三十四歳だった。
過労死、と書けば聞こえはいい。でも実態は、ただの「燃え尽き」だ。
俺がいたコンサルファームは大手で、クライアントは大企業ばかりだった。プロジェクトの規模も大きく、報酬も悪くなかった。でも俺は、仕事が好きじゃなかった。
正確に言うと、やっていた仕事が好きじゃなかった。
大手のコンサルファームというのは、すでに大きい会社をさらに大きくする仕事だ。資本がある企業に、さらに効率と利益を積み上げていく。
それ自体は悪くない。でも俺はずっと、違和感を持っていた。
もっと小さな場所にいる人間も本当に面白いアイデアを持っているのではないか、
資本もネットワークも持っていない、どこかの誰かも本当に変化を起こせる才能を持っているのではないか、
でも俺は、そういう人間に関わる仕事をしなかった。
大企業のレポートを書き続けて、気づいたら死んでいた。
◆
この世界のビリオネア——資産百億円以上——は、帝都周辺に五十人ほどしかいない。
その五十人の内訳を、未来視と公開情報で調べたことがある。
ほぼ全員、二パターンに分かれる。
一つは、親から資産を引き継いだ人間。もう一つは、ITで大当たりした人間。
才能があっても、タイミングと場所がなければ消えていく。
来栖さんがそうだ。本物の職人が、伝え方を知らないだけで消えようとしている。
友人の蓮もそうだ。ゲームクリエイターの才能があるのに、資金も機会もない。
財前さんは、そういう人間を「見つける」仕事をしている。でも財前さん一人では、見つけられる数に限界がある。
だから俺が動く。
未来視で「この人には何かある」と見えた人間に、機会を与えていく。資金を、ネットワークを、仕組みを。
それを続けたら、五十人が百人になる。百人が五百人になる。
才能がある人間なら誰でも辿り着けるルートができる。
「ビリオネアを量産する」なんて言うと、悪役みたいに聞こえる。でも中身は、ただそれだけのことだ。
才能と機会を、出会わせたい。
◆
ノートに戻った。
来栖堂の再建計画。
三ヶ月以内にやること。
一つ目、七海のSNSを使った情報発信。二つ目、銀行ルートに代わる資金調達。三つ目、商店街全体への波及。
シンプルだ。でも、シンプルなことが一番難しい。
「……七海、どう動くかな」
少し考えた。
未来視で、七海のSNS投稿が当たる未来は見えている。でも、七海が「やる」と決める瞬間はまだ霞がかかっていた。
本人が決めない限り、動かない。それは未来視でも変えられない。
やっかいだな。
でも、やっかいな方が面白い。
俺は少し笑って、ノートに次の行を書き始めた。
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