王よ、安らかに眠れ~暴君の誕生とその最期~
ここはベリモン王国。
「勲章王」フレイエル1世が建国し、高い生活水準と技術革新によって周辺の小勢力を併合し、大陸でも有数の規模に成長し、王都サンベリエールは大陸でも「華の都」として栄えた。
しかし、300年の時が流れ、従属していた都市同盟の一つ、グリンダムが裏切ると、次第にその治世にも陰りが見えるようになり、外交に手を尽くし教会への献金を通してグリンダムに司教区を置き、懐柔と周辺列強との交渉に明け暮れた「温厚王」レオナール3世が心労で倒れ39歳の若さでこの世を去る。
すると21歳の長男ラファイエルが「ラファイエル2世」として即位し、父の温和な政策路線を受け継ぐかと思われたが、突如都市国家グリンダムに宣戦布告、反対を主張した18歳の弟ミカエルを暗殺部隊をもって殺害すると、祖父の代から仕えていた文官タルランの制止を振り切って、急遽王国内部の兵5000を招集してグリンダムに攻め込ませると、3000の防衛兵との交戦に突入、グリンダム兵は士気が高く、これらに敗北し損害を出し兵を引き上げる。
「今なら間に合います」とグリンダムへの教皇を介した停戦交渉を提案するタルランだったが、彼の首を刎ねて門前に晒し、今度は父の代から仕える武官であるダブーを重用して、諸侯から農民に至るまでの1万5000の兵を率いてグリンダムの3000の兵を損害を厭わず破った。
ラファイエルらは街に入るや否や残党狩りを行いグリンダム兵の捕虜をも皆殺しにすると、モラルの低下した兵たちと共に、ダブーの制止も聞かずグリンダムで略奪を行い、教会をも破壊し、凌辱を許可し、これに自らも加わりラファイエルは教会の女を犯した。
そしてグリンダムのあらゆる家々から黄金財宝を奪い、若い綺麗な女たちも攫い、それらは王都への土産となり王宮に収められるか高く売りさばかれた。鉱山から蓄えられた豊富な鉄も手に入った。
やがて廃墟となったグリンダムの街を見て、ようやく冷静になったラファイエルは、全てが手遅れになったことに気付いた。
――王都サンベリエールの王宮の外れにひっそりとたたずむ教会。
その中にすっかりと覇気を失くした21歳の若者、ラファイエルは一人、懺悔室に入って言った。
「余は間違ったことを行ったのだろうか? 余はこれから何をすれば父や、偉大なる「勲章王」のようになれるのだろうか?」
その問いかけに答える者はいなかった。
王宮に引きこもるようになった王に、ついに武官のダブーも不満を漏らし、「せめて常備兵の訓練と給金を怠らぬように」と諫言した。しかし、彼はダブーをも暗殺部隊をもって隙を突いて殺してしまった。
再びラファイエルは教会の懺悔室に一人で入った。
「ダブーまで殺してしまった。グリンダム領を手に入れたは良いが、街がいっこうに復興しない。余はまず何をすれば良いか?」
――と、声が聞こえた。
「国王陛下、まずは教会に賠償金を払うべきです。グリンダムはそれでひとまず復興するでしょう」
ラファイエルはその通りに教会に余裕のない国庫から献金を行うと、教会が建て直され、街のいたるところに教会の旗が立ち、以前のように復興していった。
「おぉ……」
彼は懺悔室の声のおかげで、思い通りになることを知った。
しかし、グリンダムの民は貧困にあえぎ、娯楽の無さに絶望し、次第に独立の機運が高まっていった。
ラファイエルは再び懺悔室に言った。
「あれだけ苦労して得たグリンダムが独立しようとしている。余はどうすればいい?」
声が言った。
「グリンダムの豊富な鉄資源を利用し、公衆浴場や闘技場を作るべきです。そうすれば街は栄えます」
彼はグリンダム産だけではなく、王国からの鉄資源や兵の鎧になるものも惜しみなく使い、公衆浴場や立派な闘技場を作った。それだけではなく、巨大な塔をも作り、街を見下ろせるようにした。
街は栄え、人々は王国からの施しに満足した。
「おぉ……」
しかし、やがて諸侯の領で反乱が起き、軍事力の低下した王国は各地の独立を許すことになる。
もはや王国の直接統治する領域は父王が死んだ時の半分以下になっていた。
ラファイエルは懺悔した。
「人々は自由になったが反乱が止まない。殺してしまった弟とかつて駆け回った草原も、今や賊の住処になっている。余はどうすればいい?」
声が言った。
「それは決して不幸なことではありません。お亡くなりになった弟君に呼ばれているのかもしれません。国王陛下、あなたは優しい心をお持ちだからです。今は教会から薬を得て安静にして、国の統治は成すがままに任せればいいのです」
彼はやがて、教会に頻繁に通い、そこで「聖水」と称される瓶を貰い、毎日のように服用していった。気持ちが落ち着いていった。
しかしそれもつかの間、身体がそわそわして落ち着かなくなってきた。
ラファイエルは懺悔した。
「余は限界が来ているのかもしれぬ。しかし、最近は若い文官やダブーの息子を名乗る武官どもが国を率いているのが妙に癪に障る。権力を乗っ取られたのではないか? この怒りを晴らす方法はないか?」
声が言った。
「それならば、神を信仰する国王陛下が正しく、彼らが過ちを起こしているという意味です。彼らに裁きを。燃え盛る紅蓮の炎で焼き尽くしてしまえば良いのです」
彼はすぐさま行動に移す。教会から購入した「聖火」と呼ばれる兵器を使い、王宮や兵舎、詰所に至るまでをお付きの者を使って焼き尽くした。そして、それは王都サンベリエールまで燃え広がり、ついに「華の都」と呼ばれる街が炎に覆われ、逃げ惑う人々がそれに呑まれて消し墨のように崩壊していく姿を眺めているしかなかった。
呆然自失になりながら、ラファイエルは懺悔した。
首には十字の「イコン」がかけられ、すっかり信者として彼は神にすがりつく。
「余はなんということを⋯⋯余は、父が、そして偉大なる「勲章王」が築き上げてきたものを壊してしまった。余はどこで間違えて「暴君」のような真似をしてしまったのだ……余は死へと急いでいるのか? 教えてくれないか?」
声が言った。
「国王陛下、あなた様は急いでいるのではありません。準備ができているだけです」
彼は聞き返した。
「準備、とはどのような意味なのだ?」
炎がやがてこの聖堂へと移りつつある。
「国王陛下、答えはあなた様の胸の「イコン」にあります。さあ、それを抜いてください」
それは鋭いナイフであった。薬物で意識が朦朧としてくる。
「これを、どうするのだ?」
「準備ができたのなら、首に突き刺すだけです。それであなた様は永遠の繁栄を得られます」
声が時を待たずして言った。
「あぁ……これで余は、ようやく解放されるのだな……グッ……」
首に鋭いナイフを突き刺し、ラファイエル2世は天を仰いだ。
懺悔室から人物が顔を出した。教会のベールを被っている。
「なっ?!! お前……は……がはぁッ……!!」
ベールを静かに外し、栗色の髪から覗いたその女の表情は、紛れもなくあのグリンダムの教会で犯した若い女のものだった。
大きく目が見開かれ、その傷だらけの顔は悪意に歪んでいる。
「よくやってくださいました。安らかに眠ってください。ラファイエル国王陛下」
女はナイフを王の喉に深く差し込むと、倒れ込む王の亡骸を床に突き倒し、大量の返り血を浴びたローブを脱ぎ捨てて、どこかへと立ち去っていった。
ここにベリモン王国は滅亡した。
これは某AIが自殺幇助をしたとして、アメリカで訴えられた事件をモデルに架空のファンタジー世界で作ったものです。AIが使用者に命の肯定・否定まで指示させるとは、恐ろしい世の中ですね。




