依頼の内容(碁会所編)
依頼人の女性はSNSを見せてきた。アイコンには依頼人と同じくらいの歳の青年が映っていた。
スーツを着て日焼けしている。いかにも体育会系といった雰囲気だ。
「あー、非公開っすね、この人のアカウント」
うっかりいつもの口調で呟いてしまった俺に彼女は告げた。
「このアカウントが見られるようにしてください」
「え?」
「このスマホ、預けます。預けるから、2週間以内でこの非公開のアカウントが見られるようにしてください、このスマホで」
依頼人の手は震えていた。
「方法の理由は問わないですか?」
「いえ、監視アプリなどは使わず、彼が私のアカウントを承認して貰えるようにしたいんです」
肝心なことを後から言うところ、震えた手と落ち着きのない目線から察するに話すことがいっぱいいっぱいなのだろう。緊張しているんだろうな。
「あなたのアカウントをこの人、『tomohiro.mashima1991.5656』さんに承認してもらうようにしてアカウントが見られるようになればいいんですね」
「それで?アカウントを見られるようにした後は?」
これくらいの依頼で驚く俺ではない。携帯をそのまま預けるというお願いには面食らったが、そこも深堀は禁物だ。こちらが警戒することで向こうに負い目を感じさせないことも大切と過去の経験で知っている。
「すべての投稿、写真をスクショしてください。そしてそれをデータと印刷した紙の両方で私にください」
「なるほど、なるほど」
俺は紙を取り出して、数式を書き始めた。
「依頼に100パーセントお応えできるかは断言できかねます。しかし、できる限りのことはしましょう。うちは報酬の相場はご存知ですね?」
依頼人は頷いた。よく見ると両手を握りぶるぶる震えている。
「まず、依頼を受けて動いた報酬が30万円。これは調査という業務そのものに対する報酬です。結果とは関係なく頂戴いたします。そして、非公開をこじ開けて提供できた写真。全体の1割につき5万円。つまり、すべてのデータをお渡しするときは50万円支払って貰います。印刷代や必要経費は別途、請求します」
「よろしくお願いします」
依頼人は頭を下げた。