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影に灯る花  作者: 佳山 雅


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ep.40 最後の贈り物

幽紗は、壁に並んだ最後の一枚のキャンバスに目を向けた。それはダリアの最後の作品、「東のはじまり」だった。彼女は手に取ると、裏側を確認するために慎重にキャンバスをひっくり返した。そこに浮かび上がった文字に、幽紗は息を呑んだ。


「幽紗ごめんね」


自分の名前がそこに書かれているのを見て、驚きと戸惑いが一気に襲った。どうして自分の名前がここに?一瞬、自分と同じ名前の誰かに宛てたメッセージだろうかと考えたが、すぐにその考えは消え去った。


そのキャンバスの裏には、さらに何かが隠されていた。幽紗は封筒を見つけ、その表面に書かれた「私の娘へ」の言葉に目を止めた。震える手で封筒を開け、中に入っていた手紙を取り出すと、そこには母・玲香からの直筆のメッセージが綴られていた。




幽紗へ、


この手紙を読んでいる頃、きっとあなたは私のことを嫌いになっているよね。母親としてちゃんと責任を果たせなかったこと、ごめんね。そばにいてあげられなかったこと、ごめんね。お父さんがいなくなってから、私の心はずっと空っぽだった。それでも、あなたの未来を想像するだけで心が温かくなるの。せめて、この作品だけはあなたに贈りたくて。「東のはじまり」、あなたの人生がこの絵のように、赤く輝くようにと願いを込めた。


私を嫌うのは当然だと思う。でも、どうか覚えていてほしい。私は、ずっとあなたを愛している。




その瞬間、幽紗は胸が詰まった。母が亡くなってから十七年。彼女が抱えていた苦しみと愛情が、手紙を通じてようやく伝わった。涙がこぼれ落ち、手紙を握りしめながら、幽紗は静かに涙を拭った。


それと同時に、彼女は一つの真実に気づいた。ダリア。彼女が長年憧れてきた画家は、実は自分の母親だったのだ。


「私は、ずっとダリアの作品の一部だったんだ」


その言葉が、幽紗の心を震わせた。ずっと近くにいた母を、今まで気づかずにいたことが、どこか愚かに感じられた。そして、彼女の中で何かが変わり始めた。母への憎しみは薄れ、深い愛情と感謝の気持ちが芽生えた。


そのとき、突然、昴のことを思い出した。彼が母を殺す計画をしている――そのことが、幽紗の心を急かせた。


「昴くんを止めなきゃ!」


彼女はポケットからスマホを取り出し、時間を確認した。


残された時間は、たった五十六分しかなかった。

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