ep.03 冷たい兄弟
月影瞬には、二人の息子がいた。
長男・月影颯は、父以上の冷酷さを持ち合わせており、感情という概念すら持ち合わせていないかのように育った。
彼は幼少期から、人の痛みに共感することがなく、むしろ苦しむ姿に興味を抱く残忍さを持ち合わせていた。
狩りや殺しを娯楽とすら感じるその異常性は、一族内でも異質な存在として恐れられていた。
颯の容姿は、その内面を如実に映し出している。
金色の髪は陽光を拒むように荒々しく逆立ち、鋭く整えられたウルフカットは獣の鬣を思わせる。右耳には銀色のピアスが冷たく光り、まるで感情の欠落を飾るアクセサリーのようだ。
深紅のスーツを纏うが、秩序を拒絶するかのようにシャツの袖は無造作に肘までまくり上げられている。血のような赤は彼の本質を象徴し、見る者に無言の恐怖を与えた。
彼の微笑は不敵で、口元からのぞく鋭い犬歯が、常に相手の喉元を狙っているような印象を与える。颯はその外見だけで、周囲の空気を凍らせる力を持っていた。
彼は任務を徹底して遂行し、標的の痕跡すら残さず消し去る。
残忍でありながら、完璧――それが月影颯という存在であった。
一方、次男・昴は、その優れた身体能力と鋭い知性により、一族内でも群を抜く存在だった。戦闘における正確無比な動き、状況を一瞬で見極める判断力、そして相手の心の隙を突く戦術眼は、まさに天性の才と努力の結晶だった。
だが、昴には一つだけ、兄と決定的に異なる点があった。――心だ。
昴の瞳は鋭さの奥に微かな憂いを宿していた。
感情を表に出すことは決してなかったが、その深い眼差しには、苦悩と葛藤が揺れていた。暗殺任務の最中であっても、標的に一息の猶予を残すことがあった。それは命を奪うことへの躊躇いではなく、わずかに残された「人間」としての良心だった。
彼の手から逃れられる者はいなかったが、昴の心には常に罪の影がつきまとっていた。
昴の外見は兄とは対照的で、整った黒髪を七三に分け、常にきちんとセットされていた。
その端整な顔立ちと鋭い目元、引き締まった頬は、どこか哀しげな静けさを帯びている。
仕立ての良い黒いスーツは、彼の内面の沈着さを象徴し、清廉な光沢が落ち着いた印象を与えていた。静かに、そして揺るがぬ意志で、昴は「影の中の理性」として存在していた。
瞬にとって、彼ら二人の息子は「感情の対象」ではなかった。
家族であろうと、一族の一員である限り、守るべきは掟と存続のみ。彼の目に映るのは、彼らの強さと任務への適性だけであり、血の絆や情愛などは、瞬の中ではすでに意味を失っていた。
合理性こそが正義、感情は脆弱さの証。それが瞬の哲学であり、行動指針だった。
月影一族の生活は、完全に「影」に縛られていた。任務や調査以外での明るい時間の外出は一切許されず、彼らは闇の中で育てられた。颯と昴も例外ではなく、学校に通ったことも、友人を持ったこともなかった。二人はそのまま、二十六歳と二十五歳となる。
彼らの日常は、まるで軍の訓練基地のように統制されていた。
毎朝、日の出前に起床。10キロの山道を駆け抜けるランニングから一日が始まる。体力、精神力、そして孤独に耐える力を鍛えるこの訓練は、一族の生存を支える礎だった。その後は武術の稽古。刀、弓、手裏剣――あらゆる武器を操る技術を午前中いっぱい叩き込まれる。
午後は知識の鍛錬だ。月影一族は、ただの兵ではない。暗殺を遂行する者には、戦略、歴史、語学、毒物学、薬草学など多岐にわたる知識が求められた。昴は特に戦略において頭角を現し、複雑な作戦を緻密に組み立てる力に秀でていた。
夕方には再び身体訓練。今度は格闘技が中心で、柔術では昴の技術が際立ち、師範をも唸らせる場面が多々あった。だが瞬は常に厳しく言い放った。
「まだ足りん」
昴はその言葉を胸に刻み、己を過信せず、さらに研鑽を積んだ。
夜には、実戦を想定したシミュレーションが行われた。暗闇の中での敵の排除、建物への潜入、情報奪取――失敗が死に直結する訓練においても、彼らは決して怯むことなく任務を遂行した。
そして、日が昇る頃には、ようやく短い眠りに就く。
まるで世界に存在を知られることを拒むかのように、彼らの人生は静かに、だが確実に影の中で進んでいくのだった。