ep.25 重み
颯は固まったまま、ふっと冷笑を浮かべた。
「あー、つまらなかったな。なんだ? 死ぬ顔見るためにここにいたのに、俺の時間返せよ」
声には軽蔑が滲んでいた。けれど、その奥底に、かすかな寂しさが揺れていた。
颯は昴の髪を乱暴に掴み、無理やり顔を引き上げた。
痛みに顔を歪めながらも、昴は反抗できなかった。
「まあ、もう会うこともないだろ。じゃあな、カス……いや、偽物」
昴を突き放した。その口調に込められた冷たさの裏で、別れを惜しむような感情が微かに震えていた。
「行くぞ、忍」
「……はい」
忍は従ったが、その声はいつものような冷静さを欠いていた。
彼は時忠が運ばれていく方を見つめ、こらえきれずに涙を浮かべた。
必死に拭おうとするも、感情は溢れ出し、止められなかった。
颯と忍が去ると、翼が昴の隣に歩み寄った。
「昴、ここを出よう」
優しく囁かれたその言葉に、昴は救われる思いで頷いた。
翼は昴の肩に手を置き、そっと支えながら立ち上がらせる。
二人で静かに、邸宅の外へと向かった。
廊下を進むたび、昴の胸に重たい思い出が押し寄せた。




