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影に灯る花  作者: 佳山 雅


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ep.23 月影の夜、父を超えて

「族長!」


その声が部屋に轟いた瞬間、空気が一変した。

心臓が跳ね、全員が息を呑む。


月影族の長、颯と昴の父――瞬が現れたのだ。

重いドアが音を立てて開き、堂々たる足取りで瞬が入ってくる。

続いて、補佐役の時忠ときただ、さらに二人の部下が後に続いた。


瞬の存在は、まさに圧倒的だった。

その眼光には、非情さと絶対的な威厳が宿っている。


颯と昴は即座に立ち上がり、四人そろって深く頭を下げた。

瞬は無言で部屋の中心に立ち、冷ややかな視線を昴に向ける。


「絶対成功、失敗者消滅」


低く、重く。

運命を告げる鐘のように、その言葉は部屋中に響いた。


「父上、お願いします」


颯は胸の内で小さく喜びを噛み殺し、あくまで冷静に頭を下げる。

瞬はわずかに目を細めると、感情を見せぬまま言い放った。


「昴を殺せ」


次の瞬間。

時忠が鋭く一歩踏み出し、昴の前に立った。


「瞬様、昴様はあなたに……似ておられます」


静かに、だが確かな強さを宿した声だった。


一瞬、瞬の表情が揺れる。

だが、それも一刹那。すぐに冷酷な仮面をかぶり直した。


部下が銃を向けた刹那――

時忠は、迷うことなくその銃口の前に身を投じた。


銃声が爆ぜた。

空気を裂いた弾丸は、時忠の胸を正確に撃ち抜く。

彼の体は空中に浮かび、鈍い音とともに床へと崩れ落ちた。


「……昴様は……瞬様と……似て……」


血まみれの口元を震わせ、最後にそう言い遺すと、時忠は静かに目を閉じた。


部屋には、死よりも冷たい沈黙が降りた。


瞬はじっと、倒れた忠臣を見下ろす。

一瞬だけ、後悔の色がその目に宿った。

しかしすぐに、感情を押し殺した。


「お前はもう月影ではない。――出ていけ」


静かな声が、昴を突き刺した。


昴は、 震える声で叫んだ。


「父上……時忠さんを……父上が……!」


「もう年寄りだ。いなくなっても変わらん」


その非情な一言に、昴は愕然とした。


「本心ですか」


「本心だ」


何の感情もない。

昴は、息を呑んだ。


「なぜ……」


「黙れ。

月影の人間でない貴様に、口を挟む資格などない。

二度と帰ってくるな。顔も見たくない」


冷たく、突き放された。


瞬は一瞬だけ、昴を見た。

だが、そこに父親の情はなかった。


踵を返し、無言で部屋を出ていく。


「片づけろ」


短く命じ、部下たちが時忠の遺体に近づく。

彼らの表情に滲む、消せぬ悲しみ。


昴はその光景を、ただ呆然と見ていた。


「父上!」


必死に叫ぶも――


瞬は振り向かなかった。


だが、消えゆく背中の肩が、わずかに震えた。


そして、ドアが閉まる瞬間。

昴は見た。


父の瞳から、一筋の涙が流れたことを。

時忠の死をきっかけに、登場人物たちの秘密が次々と明かされていきます。これから展開もぐっとテンポよく進んでいきますので、どうぞご期待ください。

どんな感想でも大歓迎ですので、お気軽にメッセージを送っていただけたら嬉しいです。レビューやブックマークも、とても励みになります。

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