ep.20 沈黙の帰路
翌朝。
南米の空は、まるで二人の胸の内を映したように曇り、重く垂れ込めていた。
翼は夜明け前から動き出し、名富の車を再度チェックした。
ところが――異変に気づく。
「……全部、除去されてる」
昨日仕掛けた細工が、きれいさっぱり消えていた。
名富に、感づかれたのだ。
翼はすぐに昴に連絡を取ろうとした。
だがその時、昴のスマホが震えた。
非通知メッセージ。
【掟を破った者、すぐ帰国せよ】
昴の顔から血の気が引く。
メッセージの意味を、理解するのに時間はかからなかった。
失敗した者に、組織は情けをかけない。
昴だけでなく、サポートしていた翼にも、同様の罰が下る。
「……帰るぞ」
翼は低く、押し殺すように言った。
その目には、悔しさと、諦めの色が滲んでいた。
二人は最低限の荷物だけをまとめ、現地の協力者にも一切連絡せずに空港へ向かった。
途中、翼がぽつりと呟く。
「……何があったんだ、昴……」
問いかけは優しさだった。
だが、昴は何も答えられなかった。
過去の記憶が、今も胸を締め付けていた。
飛行機に乗り込む直前、南米の空を見上げる。
湿った空気が、肌にまとわりつく。
もう、戻れないかもしれない――
昴も、翼も、互いに何も言わなかった。
ただ、これから待つ未来が、決して明るくないことだけは、二人とも理解していた。
エンジン音が高まり、機体が地を離れる。
南米の大地は、音もなく彼らの背後に消えていった。
帰国が何を意味するのか、どのような運命が待ち受けているのかは、二人は知っていた。




