ep.14 静かなる狩人
「昴、バッチリ聞こえてるよ」
無線越しに、軽快な翼の声が響いた。彼は車内から、モニター越しに昴の動きを追っている。
「了解」
昴は短く応じた。
モノトーンでまとめた灰色のパーカーに黒のズボン。黒のリュックを背負い、グレーの眼鏡をかけた彼の姿は、雑踏の中でも違和感なく溶け込んでいた。その眼鏡は、骨伝導とAR表示を備えた特製品だ。音声はクリアに耳に届き、必要な情報もレンズ越しに映し出される。
昴は人混みをすり抜け、目的の建物へと向かう。ポケットから取り出したのは、翼が用意した万能セキュリティカード。タイミングを見計らい、警備員の視線をすり抜けて、管理室のドアを開けた。
中には、複数のコンピュータと監視モニター。
昴は素早く端末にアクセスし、キャンパスの入退場記録に接続する。メガネ越しに流れるデータは、即座に翼のもとへ送られていった。
「やっぱり。標的、最後に入場したのは三週間前。出場記録なし」
翼の声が届く。
昴は画面を見つめ、静かに考えた。
――原野は、どこかに潜んでいる。
「密室の可能性が高い。位置を特定して」
「了解。ハチ飛ばす」
車内で翼が操作するパネルが起動し、蜂型のドローンが静かに飛び立った。
「大学に隠れるとは、面白いな」
昴は心の中で呟きながら、状況を見守る。
ハチは、キャンパスの空をなめるように滑り、油絵学科の建物に近づく。
「緊急メンテナンス中」の札がかかったエリア。
そこから、通気口を伝って地下へ侵入したハチが、密室と思われる部屋を発見した。
リアルタイムで送られる映像。
その中に、男がいた。――原野。
緊張した面持ちで、何かを書き込んでいる。
「油絵学科I棟の地下で標的発見」
「了解。すぐ向かう。周囲の警備も確認頼む」
昴は翼に指示を飛ばしながら、頭の中で最短ルートを組み立てる。
翼もまた、ハチを細かく操り、カメラと警備員の動きを逐一チェックしていた。
――獲物は、もうすぐ手の届く場所にいる。




