ep.11 零時の呼吸
聖田祭の朝。
昴と翼は、最後の準備を整えるべく装備室へ向かった。
ここは、ただの物置ではない。
過去の任務を支えてきた道具たちが眠る、決戦前の聖域だった。
外見は簡素。だが、扉をくぐれば別世界。
和の趣に満ちた空間が、彼らを迎える。
木目が美しい漆塗りの棚、柔らかな光を放つ和紙の照明。
整然と並ぶ装備品が、淡く浮かび上がっていた。
その一つ一つが、まるで歴史と対話するかのように息づいている。
そこにあるのは、伝統と最新技術の融合体。
古風な扇子に見えるが、中には毒針。
見た目は浴衣だが、防弾素材が仕込まれている。
ごく普通の印鑑と思いきや、それは小型爆弾。
美しさと実用性を併せ持つ、まさに芸術的な兵器たち。
昴は棚をゆっくりと巡る。
その手が触れるたび、空気が少しだけ張り詰める。
選ばれるのは、信頼に足る者だけ。
翼もまた、必要な道具を丁寧に確認していく。
言葉はない。だが、二人の動きには無音のリズムがあった。
まるで静謐な舞を踊るように、息はぴたりと揃っている。
昴の目が、一番上の棚に止まる。
そこにあるのは、家伝の筆。
江戸から受け継がれたその筆は、現代の技術で鋭利な刃へと姿を変えていた。
鞘から抜けば、一瞬で空気が引き締まる。
美しさと殺意が紙一重で共存していた。
「これで準備完了だ。今日も頼む」
「任せて。必ずやり遂げようね」
昴は筆を鞘に納め、静かに息を吐いた。
翼もそれを見届け、うなずく。
二人は装備室を後にしながら、頭の中でそれぞれのシナリオを再確認していた。
聖田祭の幕が上がる。




