ep.10 HGコード
新しい任務が始まります。
次の標的は、原野玄也。
聖田美術大学の出身であり、数々の世界的画家を輩出してきた伝統の中で、彼もまた卓越した才能を持っていた。しかし、その名声の裏には、深い闇があった。
精巧な模写を制作し、それを「本物」として海外に売却。その背後には、国際的な資金洗浄の疑いがあり、さらに一部の海外政府関係者も関与しているとされていた。
この事実が公になれば、国際社会を揺るがす大スキャンダルに発展する。外交関係は冷え込み、各国政府間の信頼は崩壊するだろう。
昴に課された任務は、これを秘密裏に止めること。
標的を迅速かつ確実に、痕跡を残さず排除する。
それは国家の安定を守るための「必要な犠牲」だった。
昴と翼は原野の過去を徹底的に洗い出した。だが、肝心の居場所は掴めない。
手がかりは――原野の母校、聖田美術大学。
同大学は、普段は外部の立ち入りが極めて制限されている。学生や教職員、そしてごく限られた認証ゲストしか出入りできない。
顔認証と指紋認証による二重のセキュリティが設けられ、入構者の身元は厳重に管理されていた。
だが、年に一度だけ、その鉄壁の防壁が崩れる瞬間がある。
聖田祭――
大学が一般公開され、誰でも自由にキャンパスに入れる唯一の日。
それが来週、開催される。
「来週の聖田祭に潜入する」
「了解。じゃ、派手な服でも用意しとこうかな」
翼が軽くウィンクでもしそうな調子で返す。カモフラージュの一環——とでも言いたげだ。
だが、昴の目が一瞬、鋭く細まった。その視線は語っていた。
「お前、それ本気か?」
翼はすぐに肩をすくめ、にやりと笑った。
「冗談に決まってるでしょ」
昴は静かにうなずいた。
ふざけた会話の裏に、確かな絆があった。
それが、二人のコンビを成り立たせている。
聖田祭まで、残された時間は一週間。
成功の鍵は、準備にある。




