ルームメイトが本音しか言えなくなる魔法をかけられたらしい
ウィング魔法専門学校。
全寮制の魔法使い養成所だ。
そこに双子の弟の名前を使って入学し、男装して二年。一度もハプニングなく過ごしている地味生徒が私である。
私が二年間平和に過ごしているのは、ルームメイトのコールのおかげといってもいい。
彼は無愛想で、周りの生徒に興味を持たないのだ。
そのおかげで、私が他の生徒と肩を組むのを避けても目立たず、普通に会話するだけで彼が周りに馴染むのを手伝ってあげていると評価してもらえる。
そのコールが、応用魔法学の授業で"本音しか言えなくなる魔法"をかけられたと聞いた。
かけられたというか、先生のデモの相手を誰もやりたがらないから名指しされて引き受けたそうだ。
「お前、お人よしだよなぁ」
部屋に戻ると、コールはいつものように椅子に座って真面目に宿題に取り組んでいた。
本音しか言えなくなると言っても、コールは普段と変わらないかもしれない。そのストレートな物言いで何度もトラブルに見舞われ、そのたびに私が仲介に入っている。
コールは振り向いて首を傾げた。
「何が」
「《真実のみを口にする魔法》の実験台になったって」
「ああ」
「みんな本気で嫌がってたのによく引き受けたよな」
「口に出して困ることは特にない」
「それをきっぱり言えるところがすごいよ」
「ほとんどの生徒は嫌がっているだけで俺と同じだろう。お前は性別のことがあるから特殊なだけだ」
「そうそ……えっ⁉︎」
コールは、「あ」の形に口を開け、目を逸らした。
「この会話は想定してなかった。他言してないから安心しろ」
「いや、他の人の前にお前が知ってたことが衝撃なんだけど⁉︎ いつから!」
「一年の夏くらい」
「結構前!」
上級生のボートを見にいって私が暑さで倒れたときだろうか。
コールが習いたての魔法で看病してくれた。
「なんで、今まで誰にも言わずに……?」
「分からない」
魔法の力があるから、これがコールの本音ということだろう。
「お前がここにいる理由は弟のためだと言っていたから、事情も知らずに告げ口するのが正しいのか迷っているうちに、タイミングを逃したというか……」
珍しくはっきりしない。
「いや、それより、お前と縁が切れるのが惜しかったから」
コールは、「この魔法、自覚しないと話せないならそこまで万能じゃないな」と呟いた。少し頬が赤い。
私は入学して以来はじめて、魔法なんかどうでもいい、と心から叫んだ。