表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

一周目のアレコレその4 ~ヴァーリオ異世界無双出来なかったよ編~

一周目のヴァーリオの結末です。

「……は? 婚約、解消……? 王太子から降ろす……ですか?」


 意気揚々と王都へ帰還した俺に対して掛けられた言葉は、国を救った英雄への賛美でも何でもなく、何故か婚約解消と王太子を降ろされたという話だった。

訳が分からない……一体どうしてこうなった!?


 そもそも、王都へ凱旋した点でもおかしかった。

普通、国を挙げての大騒ぎするじゃん?

なんか、普通に騒いだくらいで、イマイチ盛り上がって無かった様な感じだった。

出陣した時の方がまだ盛り上がっていた気がするんだが……後ほどパレードをするから抑え気味になっているのか?

それとも、犠牲者もかなり出たから、少し自重したのかもしれない。

釈然としなかったが、そうやって俺は自分を納得させた。


 そして、王宮に着いた俺は、長旅で疲れた体を癒す間も無く、王の間へと赴く事になった。

報告書は既に出しているが、直接今回の結果について話す必要があるからだ。

そんな俺に対して告げられたのが、戦争の勝利に対しての賛美ではなく、叱責だった。


「何故、でございましょうか? ち、国王陛下!」


 動揺し過ぎて危うく父上って呼びそうになった。

そんな俺を見下ろしながら、国王がその訳を伝えた。

曰く、本来俺の役目は、本体である連合軍が来るまでの、時間稼ぎをする事だって話だ。

だが、功を焦って相手に攻め入り、勝ったから良かったものの、多くの犠牲を出した事は看過出来んとの事だった。


 いや、それはおかしいだろ!

つーか、俺達は十分に時間稼ぎをしていたよ!

予想以上の敵戦力に対して、犠牲を出しながらも、懸命に耐えていた!

俺達からすれば、お前等が遅過ぎたんだよ!

つーか、あそこで打って出なければ、そのまま潰されて終わりだ!

そしたら敵国は、王都まで攻め入っただろうよ!

だから俺は必死に知恵を振り絞り、無茶な作戦を決行、そして成功させたんだ!

いや、待てよ?! 犠牲が出たのは守りに専念していた時で、その言い分じゃあ、まるで俺が無謀な特攻を仕掛けて、犠牲を出しながら敵を倒したっていう風に聞こえるぞ!

順番が逆じゃねーか!


 それを貴族らしい口調で反論しようとした時、俺の王太子の解任と婚約の白紙撤回が伝えられた。

それが冒頭のアレである。

正直、頭が真っ白になった。

戦争に勝ったのに、褒められる処か怒られた挙句に、王太子を首になって婚約も無くなるって、どんな罰ゲームだよ!

そんな俺に対して追い打ちに、弟と元婚約者が新しく婚約を結び、彼等が新しい王太子とその妃になると伝えられる。

膝から崩れ落ちそうになった。


 国を守る為、王太子としての地位を盤石とする為に命を賭けて戦い、そして勝利したのに……何故か王太子としての地位も婚約者も取り上げられるなんて、普通あり得ないだろ!

更に止めの一撃が放たれた。

なんと、元婚約者になってしまったユーフィニアが御懐妊したとの事だ!

真っ白になった頭の思考回路がショートどころじゃねぇ、爆発大炎上した。

脳を焼かれるってそう意味じゃねーよ!


 その後の話は正直言って、良く覚えていない。

茫然自失で王の間を去った後、正式な辞令を読んで状況を把握した。

どうやら俺は、王家直轄の地に封じられる様だった。

未だ開発が進んでない土地を開発せよとの事だった。

左遷だな、これ。

で、ユーフィニアの代わりに新しい婚約者を宛がうとの事だった。

つい最近、強烈な失恋をした俺に、その所業は残酷過ぎだろ!

心の傷を癒す暇も無いのかよ!

それに、国内では近い年代の高位貴族の令嬢は婚約済みだ。

年の離れた未亡人か、思いっきり年下の令嬢でも宛がう気かよ!


 マジでもう嫌だ。

これまでの努力も苦労も、命懸けの闘いも全部無駄になった。

俺は自室で、三日三晩泣き腫らした。


 疲労困憊な中、悔しさと悲しさで泣き続けて、気を失う様に眠って、起きてはずっと泣いて……それを繰り返してる内に、どうにか心の平静を保てるようになった。

未だに頭と心の中では、色んな感情が渦巻いているが、少しは吹っ切れる事が出来たようだ。

考えてみれば、この世界に転生してから、思いっきり泣くなんて、赤ちゃんの時くらいしか無かったと思う。

こうして、少しずつ落ち着きを取り戻した俺は、次第に開き直る様になった。


「はん! 考えてみれば、ドイツもコイツも弟が王に相応しいとか抜かしてたからな、オメデトウ! お前等の願った通りになったな!」


「ふん、人が必死扱いて戦ってた裏で、安全な場所でずっ婚ばっ婚かよ! クソビッチがッ! あーあ、却って良かったよ、知らねー間に托卵されずに済んでさ!」


 この時の俺は、王子として取り繕う事が無くなって来た。

王子としてではなく、素の……前世の『竹本 海翔』としての面が強く出ていた。

流石にお世話係のメイド達には王子として対応しているが、プライベートでは完全に前世の自分だった。

だから、悪態も吐き放題である。

王子としての仮面を外した時の解放感は、気持ちが良かった。

俺は自分で思っていたよりも、王子である事が重荷になっていたんだな。

そう考えると、今回の事は良かったんじゃあないかと、思えるようになった。


「王になった所で、ずっと弟の影があるし、節操のねークソビッチと結婚しなくて済んだ。考えてみれば、王族の結婚なんてそんな良いモンじゃあねーよな。国王夫妻となれば猶更だ!」


 王太子から降ろされた所で、俺が第一王子である事は変わらない。

だが、辺境に左遷され、政治の中枢から遠のいたなら、関係無いな!

寧ろ、現代世界知識を使って内政無双出来るんじゃないか? コレ。

そして綺麗処を集めてハーレムも夢じゃないな!

何てったて、俺はイケメン王子様なんだし!


「うはははー、最初はどうなるかと思ったけど、イケるじゃん、俺!」


 俺は半ばヤケクソにテンションを上げる。

やる事も問題も山積みだろうが、これからの割と自由な生活に夢を抱いた。

こうして俺は、王族直轄の領地へ向かう事になった。


「うわ……思った以上に田舎だな……」


 すげード田舎。

辺境伯領の端っこよりも、下手すると開発が進んでない。

周りを見ると見渡す限りの平原と森ばっか。

一応、小さな村があるけど、これは……。

これからここを開発していくのか……流石に現代社会の知識を用いても、10年単位でかかるんじゃねーか?


「はぁ、仕方が無い。一応、国からのバックアップもあるし、これから俺好みの『国』を創ってやらぁ!」


 俺は気合を入れて、この地の開発に取り組んだ。


 それから少しして、戦争後の和平交渉の話が出て来た。

戦争の中心人物である俺は、それに関わっていなかった。

普通、俺抜きでやるか? と思ったが、大方、何にも出来なかった奴等が、ここで存在感を示したかったんだろう。

まぁ、どうでも良いや、好きにしてくれ。

それに、中枢から離れてる俺としても、面倒は抱え込みたく無いし、丁度良かった。

なーんて思っていたら、俺の知らない所で俺が関わる羽目になってしまった。


「婚約か……それもお相手はロックス王国の姫……」


 マジかよぉ……いや、考えてみれば和平の為の人質……もとい政略結婚と考えれば、妥当な線だけどさぁ……。

人を蔑ろにしておきながら、都合良く使ってんじゃねーよ、腹立つ!

憤慨した俺だが、釣書を見て考えが変わった。


「え、マジで?! めっちゃ可愛いやん!」


 釣書に描かれたロックスの姫なんだが、これがめっちゃ可愛い!

あの顔だけは良かったクソビッチと比べても遜色がない。

流石王族! 顔だけで食って行けるじゃん。


「最初はムカついたけど、これだけ可愛いなら不満なんてねーな、寧ろラッキーだぜ!」


 この世界の高位貴族は皆美形だが、その中でも際立ってる。

漸く運が向いて来た。

そうか、この子と結婚する為に、今まで頑張って来たんだな、俺。

七難八苦な人生が、やっと報われた気がするぜ。


 そんな訳で俺は新妻を迎え入れるべく、凄く頑張った。

新居もそれなりに良い感じで建て、ド田舎だけどそこそこ見栄えは悪く無い程度にはなった。

資金は国から出るからな、それに他国のお姫様を迎える以上、ちゃんとした物にしないと、恥を搔くのはオーケスだ。

心配しなくても、開発資金を黒字にする程、しっかりと稼いでやるさ。

俺の現代社会の知識の中で、流行間違いなしのアイディアは108個以上はあるぜ!


 そして、遂に可愛い子ちゃんとご対面だ。

釣書の絵以上に可愛い姿に、俺は全力でガッツポーズした。

一応、戦勝国の王子だからな!

格としては此方が上。

マウントを取るつもりは無いが、立場的には此方が主導権を持っている。

それもあってか、結構心に余裕が持てるぜ。


 ふふ、良い気分だ。

出来不出来で弟やクソビッチに対して劣等感を抱く事があったが、今回はそれが無い。

お陰で気分が良い。

ああ、安心してくれよ? 俺は亭主関白を気取るつもりは無い。

ちゃんとお互いを尊重し合える家庭を築くつもりだ。

当初はハーレムを考えていたが、こんな可愛い子が嫁になるなら、別に必要無いな!

誓おう! 俺は君だけを一生愛して行くとな!


 それから婚約者として交流を図りつつ、色々な準備を整える。

辺鄙な所だが、挙式にはそれなりに金を掛けた。

前世の結婚式を参考にした演出に、少ないながらも参列者は感心したようだった。

手応えアリ……その内これを、オーケスとロックスの流行りにしてやるぜ!


 こうして、結婚式も中々良い感じで終え、いよいよ初夜のお時間になりました。


「ふぅ……緊張するなー」


 前世じゃあ、あんな可愛い子とお近づきに何てなれなかったし、お世話になったのは右手とプロだけだった。

そう考えると、マジで前世の俺ってなー、悲しい存在だったわ。

だが、今の俺は違う。

色んな苦労や挫折はあったが、恵まれた地位にいるし、こっからは勝ち組が約束された人生だからな!

勿論相応に努力が必要だが、きっとやって行ける! 今日、それを確信した。


 さて、初夜だが、ここは紳士的に行くべきか? それとも取り繕ずに、己の中の獣を解放すべきか……悩むな~。

まぁ、どっちにしても、今までの俺の人生の中で、最高の夜になるのは間違いない。


「勝ったな! ガハハ!」


 意気揚々と、俺は新妻が控える自室に赴いた。

部屋は薄暗く、中々に雰囲気がある。

早速事に及ぼうと思ったが、新妻から先ずは緊張を解す為、ワインを一口頂く事になった。

ま、焦りは禁物だしぃ? 一杯飲んで気分を落ち着かすのも吝かでは無いなー。


 グラスに注がれたワインに口を付ける。

うん、中々美味いな。

良い感じに身体が火照って来たので、そろそろ本番を始めよう……そう思った時だった。


「……あ、れ?」


 身体が痺れて、力が入らない。

俺は顔からベッドに倒れ込んだ。

どうなってるんだ、もう酔っ払った?

いや、そんなはずは無い。

ワインなんて普段から飲んでいる。

水みたいなモンだ、この程度で酔っぱらう訳が無い。

なのに身体が動かない。

そう思っていると、背中が急に熱くなった。


 痛いじゃない、熱いだ。

その熱さが、何度も背中に降り注ぐ。


「が……ふっ……」


 何か喋ろうと思ったが、口からは溢れたのは血だった。

鉄臭い味が口に広がる。

分かった事は、俺は毒を盛られ、背中を滅多刺しにされている事だ。


 何故? と思ったが、その理由を俺を刺している新妻が語った。

端的に言うと、俺は新妻の想い人の仇なんだそうだ。

あの戦争で、敵側のお偉いさんの護衛騎士の中に、想い人が居たとの事だ。

その護衛騎士と、新妻は秘密の恋人であったらしく、今回の戦争で手柄を立てて出世したら、結婚を約束していたと。

それなのに、俺に殺されたから、その復讐の為に態々俺に嫁いだって話だ。


 ……ひでぇ話だ。

まさか、最後にこんなオチを迎えるとかさ、やってられねーよ。

王子様に転生して、勝ち組人生かと思ったら、下の弟の方が優秀で、常に比べられて、国の危機に命懸けで戦ったら、地位も婚約者も全部取られて、挙句の果てには新しい家族となる女に、仇呼ばわりされて殺されるって、俺の人生は一体なんだったんだ?

なーんにも良い事なかったじゃん。

贅沢な生活? 常に厳しいマナーを意識せにゃならんのだよ?

それにぶっちゃけると、飯なんて前世のちょっと良いレストランの方がうめーし、種類だって向うの方が圧倒的に上だった。


 結局俺は、何も得る事なく、ただ全てを奪われて終わった。

地位も名誉も、女も自分の命も……。

転生してこの様とか、本当に笑えない。

もし、またどこかに転生出来るんなら、その時は好きに生きて行きたいな……。

誰の物でも無い、自分だけの人生を、生きたい……。

そんな事を思いながら俺の意識は、真っ黒に塗り潰され、消えて無くなった。

ありがとうございました。

評価を頂けると嬉しいです。

また、感想や誤字脱字報告もして頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「脳を焼かれるってそう意味じゃねーよ!」 文脈からすると「脳を焼かれるってレベルじゃねーよ!」という意味合いなのかと思いました。誤字というわけではないのでこちらに。 [一言] 転生物と…
[良い点] あああ。辛い。 でも、三日三晩泣いて立ち上がってくるヤケクソな強さも、可愛い子ちゃんに弱いところも、すごく良いです。 最期の願い、叶うからなって、手を握って叫びたい。 [一言] 改めて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ