一周目のアレコレその4 ~ヴァーリオ異世界無双出来なかったよ編~
一周目のヴァーリオの結末です。
「……は? 婚約、解消……? 王太子から降ろす……ですか?」
意気揚々と王都へ帰還した俺に対して掛けられた言葉は、国を救った英雄への賛美でも何でもなく、何故か婚約解消と王太子を降ろされたという話だった。
訳が分からない……一体どうしてこうなった!?
そもそも、王都へ凱旋した点でもおかしかった。
普通、国を挙げての大騒ぎするじゃん?
なんか、普通に騒いだくらいで、イマイチ盛り上がって無かった様な感じだった。
出陣した時の方がまだ盛り上がっていた気がするんだが……後ほどパレードをするから抑え気味になっているのか?
それとも、犠牲者もかなり出たから、少し自重したのかもしれない。
釈然としなかったが、そうやって俺は自分を納得させた。
そして、王宮に着いた俺は、長旅で疲れた体を癒す間も無く、王の間へと赴く事になった。
報告書は既に出しているが、直接今回の結果について話す必要があるからだ。
そんな俺に対して告げられたのが、戦争の勝利に対しての賛美ではなく、叱責だった。
「何故、でございましょうか? ち、国王陛下!」
動揺し過ぎて危うく父上って呼びそうになった。
そんな俺を見下ろしながら、国王がその訳を伝えた。
曰く、本来俺の役目は、本体である連合軍が来るまでの、時間稼ぎをする事だって話だ。
だが、功を焦って相手に攻め入り、勝ったから良かったものの、多くの犠牲を出した事は看過出来んとの事だった。
いや、それはおかしいだろ!
つーか、俺達は十分に時間稼ぎをしていたよ!
予想以上の敵戦力に対して、犠牲を出しながらも、懸命に耐えていた!
俺達からすれば、お前等が遅過ぎたんだよ!
つーか、あそこで打って出なければ、そのまま潰されて終わりだ!
そしたら敵国は、王都まで攻め入っただろうよ!
だから俺は必死に知恵を振り絞り、無茶な作戦を決行、そして成功させたんだ!
いや、待てよ?! 犠牲が出たのは守りに専念していた時で、その言い分じゃあ、まるで俺が無謀な特攻を仕掛けて、犠牲を出しながら敵を倒したっていう風に聞こえるぞ!
順番が逆じゃねーか!
それを貴族らしい口調で反論しようとした時、俺の王太子の解任と婚約の白紙撤回が伝えられた。
それが冒頭のアレである。
正直、頭が真っ白になった。
戦争に勝ったのに、褒められる処か怒られた挙句に、王太子を首になって婚約も無くなるって、どんな罰ゲームだよ!
そんな俺に対して追い打ちに、弟と元婚約者が新しく婚約を結び、彼等が新しい王太子とその妃になると伝えられる。
膝から崩れ落ちそうになった。
国を守る為、王太子としての地位を盤石とする為に命を賭けて戦い、そして勝利したのに……何故か王太子としての地位も婚約者も取り上げられるなんて、普通あり得ないだろ!
更に止めの一撃が放たれた。
なんと、元婚約者になってしまったユーフィニアが御懐妊したとの事だ!
真っ白になった頭の思考回路がショートどころじゃねぇ、爆発大炎上した。
脳を焼かれるってそう意味じゃねーよ!
その後の話は正直言って、良く覚えていない。
茫然自失で王の間を去った後、正式な辞令を読んで状況を把握した。
どうやら俺は、王家直轄の地に封じられる様だった。
未だ開発が進んでない土地を開発せよとの事だった。
左遷だな、これ。
で、ユーフィニアの代わりに新しい婚約者を宛がうとの事だった。
つい最近、強烈な失恋をした俺に、その所業は残酷過ぎだろ!
心の傷を癒す暇も無いのかよ!
それに、国内では近い年代の高位貴族の令嬢は婚約済みだ。
年の離れた未亡人か、思いっきり年下の令嬢でも宛がう気かよ!
マジでもう嫌だ。
これまでの努力も苦労も、命懸けの闘いも全部無駄になった。
俺は自室で、三日三晩泣き腫らした。
疲労困憊な中、悔しさと悲しさで泣き続けて、気を失う様に眠って、起きてはずっと泣いて……それを繰り返してる内に、どうにか心の平静を保てるようになった。
未だに頭と心の中では、色んな感情が渦巻いているが、少しは吹っ切れる事が出来たようだ。
考えてみれば、この世界に転生してから、思いっきり泣くなんて、赤ちゃんの時くらいしか無かったと思う。
こうして、少しずつ落ち着きを取り戻した俺は、次第に開き直る様になった。
「はん! 考えてみれば、ドイツもコイツも弟が王に相応しいとか抜かしてたからな、オメデトウ! お前等の願った通りになったな!」
「ふん、人が必死扱いて戦ってた裏で、安全な場所でずっ婚ばっ婚かよ! クソビッチがッ! あーあ、却って良かったよ、知らねー間に托卵されずに済んでさ!」
この時の俺は、王子として取り繕う事が無くなって来た。
王子としてではなく、素の……前世の『竹本 海翔』としての面が強く出ていた。
流石にお世話係のメイド達には王子として対応しているが、プライベートでは完全に前世の自分だった。
だから、悪態も吐き放題である。
王子としての仮面を外した時の解放感は、気持ちが良かった。
俺は自分で思っていたよりも、王子である事が重荷になっていたんだな。
そう考えると、今回の事は良かったんじゃあないかと、思えるようになった。
「王になった所で、ずっと弟の影があるし、節操のねークソビッチと結婚しなくて済んだ。考えてみれば、王族の結婚なんてそんな良いモンじゃあねーよな。国王夫妻となれば猶更だ!」
王太子から降ろされた所で、俺が第一王子である事は変わらない。
だが、辺境に左遷され、政治の中枢から遠のいたなら、関係無いな!
寧ろ、現代世界知識を使って内政無双出来るんじゃないか? コレ。
そして綺麗処を集めてハーレムも夢じゃないな!
何てったて、俺はイケメン王子様なんだし!
「うはははー、最初はどうなるかと思ったけど、イケるじゃん、俺!」
俺は半ばヤケクソにテンションを上げる。
やる事も問題も山積みだろうが、これからの割と自由な生活に夢を抱いた。
こうして俺は、王族直轄の領地へ向かう事になった。
「うわ……思った以上に田舎だな……」
すげード田舎。
辺境伯領の端っこよりも、下手すると開発が進んでない。
周りを見ると見渡す限りの平原と森ばっか。
一応、小さな村があるけど、これは……。
これからここを開発していくのか……流石に現代社会の知識を用いても、10年単位でかかるんじゃねーか?
「はぁ、仕方が無い。一応、国からのバックアップもあるし、これから俺好みの『国』を創ってやらぁ!」
俺は気合を入れて、この地の開発に取り組んだ。
それから少しして、戦争後の和平交渉の話が出て来た。
戦争の中心人物である俺は、それに関わっていなかった。
普通、俺抜きでやるか? と思ったが、大方、何にも出来なかった奴等が、ここで存在感を示したかったんだろう。
まぁ、どうでも良いや、好きにしてくれ。
それに、中枢から離れてる俺としても、面倒は抱え込みたく無いし、丁度良かった。
なーんて思っていたら、俺の知らない所で俺が関わる羽目になってしまった。
「婚約か……それもお相手はロックス王国の姫……」
マジかよぉ……いや、考えてみれば和平の為の人質……もとい政略結婚と考えれば、妥当な線だけどさぁ……。
人を蔑ろにしておきながら、都合良く使ってんじゃねーよ、腹立つ!
憤慨した俺だが、釣書を見て考えが変わった。
「え、マジで?! めっちゃ可愛いやん!」
釣書に描かれたロックスの姫なんだが、これがめっちゃ可愛い!
あの顔だけは良かったクソビッチと比べても遜色がない。
流石王族! 顔だけで食って行けるじゃん。
「最初はムカついたけど、これだけ可愛いなら不満なんてねーな、寧ろラッキーだぜ!」
この世界の高位貴族は皆美形だが、その中でも際立ってる。
漸く運が向いて来た。
そうか、この子と結婚する為に、今まで頑張って来たんだな、俺。
七難八苦な人生が、やっと報われた気がするぜ。
そんな訳で俺は新妻を迎え入れるべく、凄く頑張った。
新居もそれなりに良い感じで建て、ド田舎だけどそこそこ見栄えは悪く無い程度にはなった。
資金は国から出るからな、それに他国のお姫様を迎える以上、ちゃんとした物にしないと、恥を搔くのはオーケスだ。
心配しなくても、開発資金を黒字にする程、しっかりと稼いでやるさ。
俺の現代社会の知識の中で、流行間違いなしのアイディアは108個以上はあるぜ!
そして、遂に可愛い子ちゃんとご対面だ。
釣書の絵以上に可愛い姿に、俺は全力でガッツポーズした。
一応、戦勝国の王子だからな!
格としては此方が上。
マウントを取るつもりは無いが、立場的には此方が主導権を持っている。
それもあってか、結構心に余裕が持てるぜ。
ふふ、良い気分だ。
出来不出来で弟やクソビッチに対して劣等感を抱く事があったが、今回はそれが無い。
お陰で気分が良い。
ああ、安心してくれよ? 俺は亭主関白を気取るつもりは無い。
ちゃんとお互いを尊重し合える家庭を築くつもりだ。
当初はハーレムを考えていたが、こんな可愛い子が嫁になるなら、別に必要無いな!
誓おう! 俺は君だけを一生愛して行くとな!
それから婚約者として交流を図りつつ、色々な準備を整える。
辺鄙な所だが、挙式にはそれなりに金を掛けた。
前世の結婚式を参考にした演出に、少ないながらも参列者は感心したようだった。
手応えアリ……その内これを、オーケスとロックスの流行りにしてやるぜ!
こうして、結婚式も中々良い感じで終え、いよいよ初夜のお時間になりました。
「ふぅ……緊張するなー」
前世じゃあ、あんな可愛い子とお近づきに何てなれなかったし、お世話になったのは右手とプロだけだった。
そう考えると、マジで前世の俺ってなー、悲しい存在だったわ。
だが、今の俺は違う。
色んな苦労や挫折はあったが、恵まれた地位にいるし、こっからは勝ち組が約束された人生だからな!
勿論相応に努力が必要だが、きっとやって行ける! 今日、それを確信した。
さて、初夜だが、ここは紳士的に行くべきか? それとも取り繕ずに、己の中の獣を解放すべきか……悩むな~。
まぁ、どっちにしても、今までの俺の人生の中で、最高の夜になるのは間違いない。
「勝ったな! ガハハ!」
意気揚々と、俺は新妻が控える自室に赴いた。
部屋は薄暗く、中々に雰囲気がある。
早速事に及ぼうと思ったが、新妻から先ずは緊張を解す為、ワインを一口頂く事になった。
ま、焦りは禁物だしぃ? 一杯飲んで気分を落ち着かすのも吝かでは無いなー。
グラスに注がれたワインに口を付ける。
うん、中々美味いな。
良い感じに身体が火照って来たので、そろそろ本番を始めよう……そう思った時だった。
「……あ、れ?」
身体が痺れて、力が入らない。
俺は顔からベッドに倒れ込んだ。
どうなってるんだ、もう酔っ払った?
いや、そんなはずは無い。
ワインなんて普段から飲んでいる。
水みたいなモンだ、この程度で酔っぱらう訳が無い。
なのに身体が動かない。
そう思っていると、背中が急に熱くなった。
痛いじゃない、熱いだ。
その熱さが、何度も背中に降り注ぐ。
「が……ふっ……」
何か喋ろうと思ったが、口からは溢れたのは血だった。
鉄臭い味が口に広がる。
分かった事は、俺は毒を盛られ、背中を滅多刺しにされている事だ。
何故? と思ったが、その理由を俺を刺している新妻が語った。
端的に言うと、俺は新妻の想い人の仇なんだそうだ。
あの戦争で、敵側のお偉いさんの護衛騎士の中に、想い人が居たとの事だ。
その護衛騎士と、新妻は秘密の恋人であったらしく、今回の戦争で手柄を立てて出世したら、結婚を約束していたと。
それなのに、俺に殺されたから、その復讐の為に態々俺に嫁いだって話だ。
……ひでぇ話だ。
まさか、最後にこんなオチを迎えるとかさ、やってられねーよ。
王子様に転生して、勝ち組人生かと思ったら、下の弟の方が優秀で、常に比べられて、国の危機に命懸けで戦ったら、地位も婚約者も全部取られて、挙句の果てには新しい家族となる女に、仇呼ばわりされて殺されるって、俺の人生は一体なんだったんだ?
なーんにも良い事なかったじゃん。
贅沢な生活? 常に厳しいマナーを意識せにゃならんのだよ?
それにぶっちゃけると、飯なんて前世のちょっと良いレストランの方がうめーし、種類だって向うの方が圧倒的に上だった。
結局俺は、何も得る事なく、ただ全てを奪われて終わった。
地位も名誉も、女も自分の命も……。
転生してこの様とか、本当に笑えない。
もし、またどこかに転生出来るんなら、その時は好きに生きて行きたいな……。
誰の物でも無い、自分だけの人生を、生きたい……。
そんな事を思いながら俺の意識は、真っ黒に塗り潰され、消えて無くなった。
ありがとうございました。
評価を頂けると嬉しいです。
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