一周目のアレコレその3 ~ヴァーリオ異世界無双編~
ヴァーリオの絶頂期のお話です。
オッス!オレ、ヴァーリオ! このオーケス王国の第一王子にして、王太子だ!
実は俺、地球って言う星にある日本っていう国から転生したんだぜ!
所謂異世界転生って奴だ!
いや~、マジでビックリよ!
うだつの上がらなかった俺が、異世界転生して、しかも王子様になってるんだからな!
人生何が起こるかわからんな~?
と、そんな俺なんだが、実は順風満帆な異世界チートライフ! って訳じゃあ無かったんだな、コレが……。
ん? 異世界転生した上に王子様とか、超絶勝ち組チートライフじゃあないかって?
せやね、言わんとしてる事は分かるよ。
俺も多分、そんな風に思うと思うよ。
でもな~、意外とそうでもないっつー、世知辛い現実があったのよ……。
先ず、俺は転生者って奴なんだが、よくあるチート能力的な物が無いっぽいんだよ。
いや、前世に比べれば王子様なだけに、イケメンでスタイルも良いし、実家も太いなど、とんでもなくチートな筈なんだがな……。
別に魔法とか超能力とか、怪力とか天才的な頭脳とか、そういった物が皆無なんだよ。
この世界、異世界の癖に魔法とか無いんだよな……夢も希望も無いわ。
まぁ、それは仕方が無いにしろ、他のチート能力と言える何かが俺には無かった。
普通に人間だったんだよ、俺。
まぁ、王子だしイケメンだけどさ。
この世界では生まれながらの上級国民様だし、滅茶苦茶恵まれているハズなんだが、イマイチそんな気分になれない要因がある。
この世界における、俺の弟がその原因だ。
アイツ俺の一個下なのに、スゲー頭が良いでやんの。
あっと言う間に勉強で抜かれたわ……。
俺、転生者で兄なのに。
こんな感じで大いに凹みましたわ。
それでも俺は第一王子にして王太子! 可愛い婚約者が居るんですわ!
俺の婚約者マジぷりてぃー。
あんな子が将来の嫁とか、それだけでも異世界転生ありがとうだわ。
まぁ、その子もめっちゃ頭が良くて、勉強を追い抜かれたけどね!
こんな感じで、無敵のチートで異世界無双なんて生活は皆無でしたわ。
それでも、前世よりは全然勝ち組だし、ちゃんと頑張れば超絶美形の嫁さん貰って王様に成れるんだから、そりゃあ俺も必死に努力しましたよ。
憧れのあの子と添い遂げる為にね。
周りにはネチネチ言われたけど、頑張って無事に学園を卒業して、来年に婚約者が卒業するのと合わせて、結婚という流れまでに漕ぎ着ける事は出来た。
その筈だったのにな~。
今、俺は戦場にいる。
何でこんな事に……?
それは、長年他国に睨みを利かせてたじいさんが亡くなった途端、ロックス王国ってのが戦争を吹っ掛けて来やがったからだ。
既にお隣の国を速攻で滅ぼしてからの侵攻だから、こっちの準備が不十分なまま、開戦に至った。
で、俺は王太子として国を守るべく、出陣する事となった。
もう学生じゃ無いので、国王の代わりに味方の戦力を鼓舞する為の出陣だ。
正直、めっちゃ怖い。
だが、俺も王太子だ。
将来この国を治める王となるし、それに相応しい男である事を見せなければならない。
それに時間を稼げば、お隣のホープス王国の軍と連携してロックス王国を蹴散らすという算段なのだから、専守防衛に務めればどうにかなる。
そう思っていたんだけど……。
援軍が来ねー!!
あれから結構時が経つけど、まだ来てくれねーのかよ!
どうなってんだ!?
コッチはもう限界近いんだぞ!
辺境伯はじいさんの盟友で、昔は随分と暴れまわったそうだ。
じいさんと辺境伯のお陰で、オーケス王国は今の地位を確立したなんて言われる程だ。
だからだろうか、辺境伯の軍は非常に精強だ。
俺の所もじいさんからの地盤をそのまま受け継いでいるから、皆めっちゃ強いんだが、如何せん相手の数が多すぎる。
闘いは数って、正にその通りだった。
ジリジリと削られていく。
正直、持たないかもしれない。
援軍が来なければ全滅確定だ。
つーか、もう間に合わなんじゃ?
今更来たってもう遅い! って状況じゃないかって所まで追い詰められた。
この状況で、俺は嫌な予感を抱いた。
援軍が来ないのは、もしかして俺が死ぬのを待ってるから……そんな考えが過ぎった。
あっちじゃあ、俺よりも弟を推す声がチラホラ聞こえていた。
弟を王にする為に俺を見殺しにして、そして俺の死を出汁に国威高揚の演説なんてブチ上げるんじゃあないかと思った。
某ロボットアニメでもやってた。
あっちは末弟が死んだけど。
自軍の議会は紛糾していた。
攻めるか、守るかで。
ただ、疲弊した今の状態では攻めた所で玉砕、守った所で磨り潰される……どっちを選んでも詰みだった。
守りに入れば、もしかしたら援軍が間に合うかもしれないという光明はあるが、もし俺が死ぬのをあっちが待っていたら、ただ苦しむ時間が増えるだけだ。
完全に終わってる。
折角異世界に転生したのに、こんな最後なんてあんまりだ。
何の為に俺は転生したんだ? 弟に比べられても、腐らずに頑張って来たのは、何の為だ?
ここで死ぬ為か? まだ何も成し得ていないのに?
……冗談じゃあ無い! こんな事で死んでたまるか!
俺は絶対生き延びてやるぞ!
どうにかして俺は自分を奮い立たせる。
その為にはどうすれば良いか考える。
そうだ、考えてみればこれは好機でもあるんだ! ここでこの状況を逆転させれば、俺は英雄に成れる!
ここで奇跡の逆転勝利をすれば、皆俺を見直すし、誰も俺が王になる事に反対なんて出来ない事になる。
『ピンチはチャンス』、『災いを転じて福と成す』って前世でもあったよな。
そうする為の知識が、俺の前世の記憶にある筈だ!
俺は必至になって記憶を呼び起こす。
例えばゲームや漫画、アニメ、歴史小説などだ。
こういった場面で主人公が状況を打破する展開なんて幾らでもあった筈だ。
特にシュミレーションゲームとかよくやっていたんだ、何かヒントになる知識がある筈だ。
それによって、俺でも奇跡を起こせるかもしれない……ここが異世界知識無双する場面なんだ!
頼む、俺の前世の記憶よ! 俺を勝たせてくれ!
そうやって無い知恵を必死に振り絞った時、頭にピンと来るものがあった。
この世界の戦争は正面からの殴り合いというか、正々堂々とした戦いが基本だ。
だから、策がどうのこうのというよりは、単純に強い方が勝つって感じだ。
今現在、ロックス王国の戦力は此方の遥か上。
そりゃあ勝てる訳が無い。
普通に戦ったならな。
「俺もこの世界が長いせいか、随分毒されてたな……」
独り言ちする。
勝てない相手……巨大な戦力に少数で戦っても勝てる訳が無い。
勝つ為にはどうするか……そりゃあ策を練る事だ。
正面から戦わずに、奇襲戦法など、何でもござれな戦い方。
それが無ければ勝てるはずもない。
俺は頭の中で作戦を練り上げる。
そして、それを将軍である辺境伯へと伝えたのだった。
「……何とも無茶な作戦ですな」
渋い顔をする辺境伯。
まぁ、そりゃあそうなるな。
「だが、このままでは敗北は必至。勝つ為にはこのような無謀もまた、必要でありますか……」
流石はこの国一番の将軍だ。
柔軟性がある。
「正直なところ、我が首を差し出す事で、民の安全を懇願する事を考えておりましたが……」
降伏した所で、ロックス軍が辺境伯の領民に手を出さないという保証はないけどな。
直ぐにオーケスとホープスの連合軍とやり合う事になるし、物資の補充の為に略奪も辞さないってオチだろう。
「私と将軍の首を手土産にした所で、次はオーケスとホープスの連合軍がここを戦地にするだけですし、そうでなくとも、駐留中に民達にどれだけの被害が出るか、分かった物では無いがね」
俺は素直に将軍に伝える。
戦争中の略奪なんて、前世の世界でも普通にあるからな。
中世風のこの世界じゃあ、それこそ世紀末並みに酷い事になってるだろうな。
前にロックス王国に滅ぼされたお隣さんなんて、随分酷い事になってるそうな。
「……然り。やはり、打って出るべきでありますか」
「その通りだ、将軍。我らは此処で勝たなければならない」
俺は将軍の目を見て、キッパリと答える。
俺だって王族としてちゃんと教育を受けて来たんだ。
根っ子が一般人でも、この状況で日和る程、貧弱じゃあ無い。
真っ直ぐに視線を返す俺に、将軍も意を決したようだ。
「了解いたしました。殿下の作戦を採用いたしましょう」
「ありがとう……無理を言って済まないな」
作戦の了承を得られた。
後は実行に移すのみだ。
「……失礼ながら、私は殿下を見誤っていたようですな」
将軍が感慨深げに語る。
「いや、出来不出来で言うなら、私は弟には及ばんよ。だが、この国の王太子としてやれる事をやるまでさ」
実際、作戦はあくまで前世の知識から得た物だし、地力で考え付いた訳じゃあない。
それに成功するかも分からん。
ただ、やらなければ死ぬだけだし、『出来る出来ないじゃなくて、やるんだよ!』ってのは漫画やアニメのお約束だからな。
俺はそれに倣ってるだけだ。
さて、その後は作戦の説明と準備だ。
恐らくロックス軍は近々、総攻撃を仕掛けるだろう。
ここ数日、攻撃が抑えめなのがその証拠だ。
今現在、砦に籠っての防衛線に務めているが、物資も兵も限界に近い。
未だに知らせが来ないが、流石にオーケスとホープスもそろそろ出て来てもおかしく無い頃だ。
となれば、ロックス軍もいい加減にここを落としたいと、思っている筈。
だから、俺達はそこで仕掛ける。
「ロックスが下がったな」
「ええ、中途半端な形で引いた事を見るに、明日、総攻撃を仕掛ける算段でしょう」
「そうか、いよいよか……」
失敗は出来ない、一回こっきりの作戦だ。
入念に確認しないとな!
朝を迎え、ロックス王国軍は準備を整え、全軍で以てオーケス辺境伯軍の砦に攻め入る事になった。
十分な休養を取った兵士達は意気揚々に、進軍していった。
その知らせを俺は斥候から受け取る。
「来たな。では、作戦開始だ!」
遂に始まった。
これが俺の命運を分ける、正に決戦だ。
さて、今回の作戦だが、実はそれほど大した事じゃあ無い。
囮を使っての陽動と、奇襲……それだけだ。
先ずは、敵軍が決戦に向けて休養を取っている間、俺達は秘密の脱出経路を使って砦から脱出する。
一応、完全に誰も居なくなると怪しまれるので、何人かは残る。
勿論、相手が攻め入った時には脱出して貰うけど。
で、もぬけの殻になった砦だが、何もしない訳では無い。
彼方此方に罠を仕掛けている。
その罠も、単純な物だ。
各部屋の扉を開けると、物が落ちて来たり、あらゆる場所に油を撒いたりと、その程度の物だ。
大した事は無い……だが、嵌れば結構な脅威となる罠になっている。
先ず、落ちて来る物だが、それは小麦粉だ。
袋の口を全開にしてるから、落ちた瞬間に広範囲に粉が飛び散る仕様だ。
勿論一つや二つでなく、複数の袋が連鎖的に落ちて、辺り一面が粉塗れになるようにしてある。
さて、部屋で小麦粉などの細かい粒子の粉が飛び散った状態で、火の気があるとどうなるかお分かりか?
そう、割と創作物ではお馴染みの、粉塵爆発が起きる。
この世界の灯りは松明や蝋燭の火だからな。
うっかり粉塗れの所に入れば、そこでドカン! といった具合になる。
油を撒いた所に引火すれば、火は燃え広がり、他の場所も連鎖的に爆発を起こす様に仕掛けた。
上手く行く事を祈るのみだが、後方から爆発音が聞こえたので、どうやら成功したらしい。
さて、今回の作戦は敵を砦に引き込んで、爆発大炎上で一網打尽……という訳じゃあない。
アレは目くらましだ。
本命は敵の本陣の司令官だ。
砦一つ吹っ飛ばした処で、敵を全滅させる事なんて出来ない。
それだけの戦力が相手にはある。
派手にやる事で相手の目を釘付けにし、その間に俺達は敵の本陣を奇襲する、それだけの話だ。
俺達は、急所を守る最低限の防具を身に付けた軽装で砦を抜けた後、迂回しながら敵の本陣へと走った。
辺境伯領は、地元なので敵が陣を敷くなら何処かなんて容易に推測出来るし、偵察部隊を使って裏も取った。
敵も馬鹿じゃないから、攻められ難い要所に陣を敷いていた。
まぁ、それは想定内だ。
敵の本陣は断崖絶壁に囲われた広い平地にある。
周りが崖だから攻め入る事は普通は難しい場所だ。
そんな場所に奇襲を仕掛けるなんて、この世界の人間は誰も想像すら出来ないだろう。
だが、俺は別だ。
何故なら、前世の歴史で似た様な事をやった人物が居た国の生まれだからな!
あの『源 義経』がやった、『一ノ谷の戦い』……『逆落とし』だ。
本家と違って馬は調達出来なかったから、人力で降りるんだが、そこは気合でどうにかする。
と言うのも地元の兵士曰く、世間のイメージ程、断崖絶壁ではない所があるんだそうだ。
それでもキツイ勾配だが、足場となる部分や手足を掛ける窪みもそれなりにある。
よって、人の手でもどうにか降りる事は可能かもしれないの事だった。
だから、防具は軽装で動き易さを優先したのだ。
走って山を駆けるからと言うのもあるけどな。
そうして俺達は敵の本陣の裏側の崖に着いた。
このまま降りればもう、敵の大将首は目の前だ。
しかし、崖下を見ると結構な高さだ。
ぶっちゃけ、怖い。
俺が積極的に声を上げ、皆を先導しなければならないんだが、中々に厳しい状況だ。
だが、ここでビビっていては、王子としての沽券に関わる。
俺は覚悟を決めると、丁度崖下を鹿が渡っていた。
あ、これ歴史系の逸話で見た事あるわ。
「見よ! 四つ足の獣が崖を降りているぞ! ならば、両の手足を持つ我等が、それを出来ぬ道理は無い! 我に続けぇッ!」
そう言って俺は崖から降りていく。
「殿下が率先して勇気を見せたぞ! 我々も殿下に続けーーーッ!!!!」
将軍が檄を飛ばすのが聞こえた。
いや、じーさんはゆっくり降りてくれ!
何なら、そこで見守っていてくれても良いんだぞ!
そう思いながら、俺は必死で崖を下っていく。
足場となる部分や、木の根、僅かな窪みを掴みながら下へと降りていった。
ボルダリングとか、前世でやっとけば良かったなー、近くにそんな施設があったんだから。
そう思いながらも何とか落ちずに下っている。
流石、王子様の肉体だ……スペックは前世とは雲泥の違いがある!
そうやって、やっとの思いで崖を下り切った。
俺以外の兵達も無事に降りれたようだ。
上を見ると、結構な高さだ。
我ながら良くやり遂げたモンだと感心した。
だが、これで終わりじゃあない。
こっからが本番だ。
「皆、無事のようだな!」
「はい、殿下! いや~、初めての経験でしたが、やれるものですな!」
「うむ!」
将軍が興奮気味だ。
いや、マジでスゲーわ、このじいさん。
「では、行くぞ! このまま、敵の本陣を強襲する。勝つぞ!」
「おうとも!」
こうして俺達は、武器を携え、敵の本陣を強襲する。
当然ながら、武装した護衛騎士達が配備されていたが、既に勝った気でいた敵の将校達は丸腰に近い格好だった。
気を抜き過ぎだぞ!
先ずは護衛騎士達を仕留める。
奇襲を受け泡を食っている状態の彼等と、崖から降りて来て脳内麻薬ドバドバ状態の俺達では、此方が絶対的に有利だ。
一瞬でほぼ全ての護衛騎士達を切り伏せる。
何人かは体制を立て直し、奇襲に対抗しようとていた。
流石に精鋭だな。
だが、こっちも選りすぐりだ。
一対一の尋常な勝負でも無い。
複数人で当たり、これを撃破する。
そうして残ったのは、殆ど丸腰のお偉いさん達だけになった。
「貴公らの負けだ。速やかに兵を引かせるが良い。さもなければ……」
そう言って俺は剣を振り、空を切る。
先程切り捨てた護衛騎士達の血が、辺りに撒き散らされる。
その様を見て、敵軍の大将や上級将校達は観念したようだ。
ん? 首を獲らないのかって?
いや、日本の戦国時代なら『敵将! 討ち取ったりー!』かもしれんけど、こっちの場合、大将首を獲らずに捕縛するのが普通なんだよね。
後に身代金とか、戦後の交渉材料になるから。
まぁ、ロックス王国側は侵略戦争仕掛けた側だから、俺等が負けたら普通に首獲られるだろうけど。
それに、下手に皆殺しにしても、砦から退却した敵軍が玉砕覚悟で攻めてきたら、俺達は全滅だ。
一応、保険は掛けているけど、こうやって敵の大将を捕縛する事で、コイツに敗北宣言と軍の撤退を指示させなければならない。
破れかぶれで自分を犠牲に俺達を討て、なんて指令も出るかもしれなけど、後にオーケスとホープスの連合軍が控えている状況で、そんな事しても意味は無い。
今撤退をさせないと、全滅するって事をコイツ等に思わせる。
退却した敵軍が本陣に戻って来た。
さぁ、大将……さっさと敗北を宣言して、兵を引かせな。
だが、大将は項垂れたまま何も宣言しない。
ああ、こりゃあ葛藤しているな。
このまま生き残っても、敗戦の責任を取らされたりして、貴族として、軍人としてのキャリアを全て失う事になるからな。
勝てるはずの戦で負けたんだ、そりゃあそうだろうな。
「玉砕覚悟で我らを討つか? それはまた、大した志だ。だが、聞こえないかな? 連合軍の足音が!」
敵軍の後方から大きな音が鳴り響く。
撤退した敵軍を追撃する音だ。
この状態でオーケスとホープスの連合軍と戦えば、全滅は必至だ。
ロックス王国軍の大将と将校達は遂に観念した。
兵達に撤退の指示を出す。
こうして、敵軍は全て撤退する事になった。
全面降伏するという手もあったが、そうさせない様に、俺は相手に撤退を指示するように促した。
何故なら、今こちらに向かっているのは連合軍ではなく、辺境伯軍だからだ。
そう、ハッタリだ。
連合軍が来るなんて報告は一ミリも受けちゃあいない。
全て自前の軍だけだ。
俺は作戦決行時、軍を二つに分けていた。
奇襲部隊と、作戦成功後にこうやって相手にプレッシャーを与えて引かせる、ハッタリ用の部隊にだ。
今の辺境伯軍には、指揮官を失ったとは言え、大軍であるロックス王国軍を殲滅する程の力は無い。
降伏させた所で、捕虜として留めて置く事も無理だ。
だから、こうやってハッタリを効かせて、とっとと逃げ帰って貰う。
敵の大将としても、兵達を皆殺しにされたり、丸まる捕虜にされるくらいなら、少しでも多くの兵達を逃がした方が得策だ。
少数の軍を大軍に見せかけるって兵法は、史実でもあったからな、上手く行ったようだ。
「我らの勝利だ! 勝鬨を上げよッ!!」
「「「うおおおおおおおーーー!!!! オーケス万歳! 殿下万歳!!」」」
こうして俺達はこの戦いに勝利した。
絶望的な状況をひっくり返しての勝利だなんて、正に主人公だな!
ここに来て漸く異世界無双みたいな事が出来たぜ!
大分泥臭い感じだったけど、まぁ現実なんてこんなモンよ。
その後、俺達は捕虜になった将校達を独房に送り込んだりした。
観念して捕虜になった彼等だが、実は無理をすれば、俺達を倒せていた事を知った時の顔は見物だったな。
いや、別にざまぁな感じでは無かったよ。
寧ろ、してやられた! 感服した! って感じだった。
その結果、素直に敗北を認めるようになった。
彼等は後に身代金や戦後の交渉材料となるので、扱いはちゃんとした。
貴族としてしっかりと礼を尽くして対応した。
一部、甘い対応なのでは? と言う声もあったが、こういう所で私刑に走るのイカンという事で、指示を徹底した。
まぁ、その分俺から末端の兵士達に至るまで、労いの言葉を掛けるなりして、ご機嫌取りに奔走したけどね。
で、あっちの方も漸く準備が整ったそうだが、今更もう遅い!
俺達だけで対処してやったと伝えてやったら、随分と驚いたらしい。
全く、役に立たねー連中だったぜ!
そんなこんなで戦後の事後処理など色々あったが、俺は王都へ帰還する事になった。
英雄の凱旋である。
辺境伯との別れ際には、随分とお褒めの言葉を頂いたな。
「盟友であった前王・ヴォルカ様を思わせる……いやそれ以上でありました。お見事でしたぞ、殿下! 貴方こそ、次代の王に相応しい御方です!」
こんな感じでベタ褒めだ。
最初にこっちに来た時は、明らかに頼りない風に思ってた雰囲気を感じたが、今や評価は逆転した。
ふふ、最初は侮られたけど、実力を示した事で評価が爆上がりする……まさに異世界転生物だな!
実際、俺自身も死地を乗り越え、大きな戦果を残したせいか、人間として大きく成長出来た気がする。
これなら王として、愛しのあの子を堂々と妻に迎えられるぜ!
こうして、人生の絶頂期に上り詰めた俺は、この直後に紐無しバンジー並の転落人生を歩む事に、全く気が付いていなかった。
ありがとうございました。
評価を頂けると嬉しいです。
また、感想や誤字脱字報告もして頂けると嬉しいです。