一周目のアレコレその2
ここ最近忙しかったので、大分時間が掛かりましたが、一応完結までは書けてますので、よろしくお願いします。
ヴィオールは当初、何の不満も無かった。
オーケス王国の第二王子として生まれた彼は、将来の王となる第一王子のスペアである事も、第一王子が王位を継いだ後は、王弟として仕えるという将来を受け入れていた。
王太子の婚約者、ユーフィニア公爵令嬢と出会った時も、この方が自分の義姉になるのだなと、そう思っていた。
何時から、変わったのだろうか?
家庭教師から、兄以上に優秀である事を褒められた時からか?
父であるヴェイスからの愛情を、一身に受けた時からか?
美しく成長したユーフィニア公爵令嬢に、恋慕の情を抱いた時からか?
成長していく度に、彼の中に何かが溜まって行く。
今日も今日とて、帝王学を学んで行く。
王位継承権を持ち、第一王子に何かあった場合、彼に代わって王位を継ぐのだから、当然の話である。
それは同時に、第一王子に何事も無ければ、彼の学んだ事や時間は意味を成さない事となる。
それに気付いた時、何とも言えない気持ちになった。
だが、そんな気持ちを彼はおくびにも出さない。
そうして、彼は今日も王としての勉学に励んでいた。
「素晴らしいです! 殿下。そのお歳で、既にこれ程の学問を習得しているとは……流石の一言に尽きます!」
そう言ってヴィオールを褒めそやす家庭教師。
国でも一番という肩書きを持った教師だ。
ヴィオールは褒められて嬉しい事は嬉しいが、少し持ち上げ過ぎではないかと思う。
ただ、これについては家庭教師の言う事は尤もな話であった。
今学んでいる事はヴィオールの年齢的に、かなり高難易度なレベルであるからだ。
一歳年上で、かつ中身が転生者であるヴァーリオでも、同じ歳の頃にはこのレベルに至っていなかった。
ヴィオールは非凡な才能の持ち主であった。
年下であるにもかかわらず、ヴィオールの勉強はどんどん先に進んでいった。
兄であるヴァーリオも、勉強については滞りなく進んでいたが、年下のヴィオールは兄を追い抜き、更に先の領域に達していた。
懸命に努力しながら、一歩一歩進んでいくヴァーリオとは対照的に、軽やかに駆け抜けていくヴィオール。
そんなヴィオールに王宮の者達は注目していく。
その結果、次代の王にはヴィオールが相応しいのではないか? という意見もちらほらと出ていた。
父親であるヴェイスはその意見を否定せず、寧ろそれに乗りかかるような体であった。
彼はヴィオールを溺愛していた。
兄以上に優秀である事を自覚し、父親からも大きな期待と愛情を受けている内に、ヴィオールの中でそれまで抑えていた感情が形を成していった。
「何故、私ではないのだ?」
王太子となり、ユーフィニア公爵令嬢と婚約し、この国の王として君臨する。
それが自分ではなく兄である事に、疑問と不満を持つようになった。
一度形作られたそれは、消える事無くヴィオールの中で肥大化していった。
ユーフィニア公爵令嬢は、自らの婚約に嘆き悲しんだ。
彼女には初恋の少年がいた。
幼い頃、定期的に交流を果たしていた隣国の親戚の少年だ。
彼女は少年と一緒に遊ぶのが好きだった。
何時か、大人になった時、彼の隣にある事を望んでいた。
そんな幼い少女の初恋は、オーケス王国の第一王子と婚約を結ばれた事で、終わりを迎えた。
数年後、まだ幼さが残るも、淑女として立派に成長していた。
婚約者である第一王子との仲も良好であった。
第一王子ヴァーリオは、拙いながらも婚約者としての責務を果たそうと頑張っており、ユーフィニアもたおやかな笑みで、それに応えていた。
表面上は、仲睦まじい関係に見えていた。
ユーフィニアと婚約者であるヴァーリオの仲は悪くない。
寧ろ、ヴァーリオはかなりユーフィニアに対して好意的だ。
ただ、ユーフィニア的にはそこまでではなかった。
彼女にとってあくまで、王であったヴォルカの命令によって組まれた婚約。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
彼女が真にヴァーリオに対して情を抱いていれば、彼等の未来はもっと違ったものになっただろう。
ユーフィニアはヴァーリオの事は嫌いではない。
だが、好きでもない。
ただ婚約が結ばれてしまったから、貴族として果たさなければならない義務を果たすのみ……それだけだった。
胸に抱いていた初恋をその奥に仕舞い込み、彼女は今日もヴァーリオとの交流を果たす。
それから暫くの時が経ち、更に美しく成長したユーフィニアは嘆息する。
未だ彼女はヴァーリオに対して、恋心を抱けなかった。
婚約は義務なので、別にヴァーリオに恋をする必要は無い。
ただ、ヴァーリオ側がユーフィニアに惚れ込んでいる。
そんな彼の想いに応えたいと思うも、それが出来なかった。
何故なら、彼女にも想い人がいるからだ。
初恋の少年ではない。
その想い人は、ヴァーリオの弟、ヴィオールであった。
よりにもよって、婚約者の弟に懸想してしてしまったユーフィニア。
その想いは禁忌であるにも拘らず、ヴィオールに惹かれて行くのを止められなかった。
どうしてそうなってしまったのか?
それは、ヴィオールもまた、彼女に道ならぬ想いを抱いていたからだ。
将来の王妃として日々邁進するユーフィニア。
義務を果たすべく、精進する毎日だ。
元々才能のある彼女は、王妃教育を一度も躓く事無く習得して来た。
そうした日々の中で、婚約者だけでなく、その弟とも交流していた。
あくまでも将来の義弟……そう思っていたのだが、ヴァーリオと違うその才気溢れる姿に、徐々に目を奪われていった。
ヴァーリオも美形であったが、ヴィオールも王族らしい美しく整った顔立ちであった。
努力をしているのが分かるが、どこか野暮ったさを感じるヴァーリオよりも、遥かに洗練された所作のヴィオール。
一人の男性として、全てにおいてヴァーリオを上回るヴィオールに対して恋心を抱くのに、それほど時間は掛からなかった。
ヴィオールは苛立っていた。
本来あるべき形に収まった今、彼は絶頂期にある筈だったのだが、兄であるヴァーリオの死とそれによって、再び始まった戦争が彼の運命を狂わせて行った。
ヴィオールはヴァーリオが生きていた頃、確かに不満を持っていたが、それでもそれを飲み込む事は出来ていた。
王位もユーフィニアの事も、望んでいたが手に入る事は叶わぬ事だと、己に言い聞かせていた。
そもそもヴァーリオは自身に劣るとはいえ、王族としての最低限の学問は抑えていたし、婚約者であるユーフィニアとの仲も決して悪い訳では無かった。
寧ろ、婚約者に対する礼儀はきちんと弁えていたし、失点なども特に犯してはいない。
将来の王として及第点であった。
その上ヴァーリオの立太子と婚約は、前王ヴォルカが決めた事。
覆る事などあろうはずも無い。
故にヴィオールは、このまま王弟として全てを受け入れる覚悟があった。
だが、実質的に国を仕切っていたヴォルカが崩御し、間を置かずにロックス王国が攻めて来た事で状況が変わった。
有事に当たり、ヴァーリオが辺境伯領へと軍を率い、出陣する事になった。
ロックス王国は既に隣国の一つを落とし、破竹の勢いで攻めて来た為、王太子であるヴァーリオが戦意高揚を兼ねて出る事になったからだ。
勿論、オーケス王国の首脳陣もヴァーリオや辺境伯だけを戦わせるつもりは無い。
同盟国であるホープス王国と連携し、ロックス王国に対抗する考えを持っていた。
ただ、ホープス王国の参戦には思ったよりも時間が掛かってしまった。
この時点でオーケス王国軍のみが参戦した所で、戦力の逐次投入にしかならず、確実な勝利の為にホープス王国軍を待つ事になったのだが、その間に要らぬ考えがオーケス王国の首脳陣に湧き出て来た。
ヴァーリオ率いる軍は第一王子派が主流であった。
その結果、王国の首都の者達は、第二王子派が主流となっていた。
そうなるとどうなるか?
ヴィオール本人は兎も角、彼を王位に押し上げたいという考えを持つ者は多く居た。
現王であるヴェイスもその様な考えを抱いていた。
強権を有していた前王は既に亡くなっており、第一王子は死地に赴いている。
つまり第一王子に万が一があり得るのだ。
強引であるが、婚約の見直しを考える余地があった。
そこからの動きは速かった。
色々と理由を付けて、ヴァーリオとユーフィニアの婚約を白紙化した。
もしもの事を考えての処置だと強引に話を進めたのである。
当然ながら、ヴァーリオにはその情報は伏せられていた。
ヴィオールとユーフィニア……彼等を縛る鎖であり、彼等を阻む壁であった婚約の白紙化は、二人の意識に劇的な変化を与えた。
まだ正式には婚約は結ばれてい無いものの、長年の恋慕の情が一気に燃え上がったのである。
二人はこれまで胸に秘めた思いを隠さずに、親密になって行く。
それでも羽目を外さずに、適度な距離を保つよう努めていた。
尤も、学園においては理想のカップルとして、周囲に温かく見守られていたのだが。
そんな二人だったが、学園の卒業式後のパーティーにおいて、大いにやらかしてしまった。
ロックス王国とは戦争中であったが、国境である辺境伯領で行われていた為、遠く離れた王都においては、表面上ではあるが問題は起きてはいなかった。
実は物流やその他で色々な問題が起きていたのだが、上流階級が集う学園では対岸の火事の様になっていた。
深刻に考えていたのは極一部も者達だけだった。
ヴィオールもユーフィニアもその一部の人間だったが、青春を謳歌していた事もあり、戦争に対する意識が若干ボヤけていた。
そんな中で学園の卒業という学生最後のイベントを終え、各々がパーティーを楽しんでいた。
ヴィオール達もそれを楽しんだ。
酒が入り、僅かな期間であるものの、色々な事から解放された事、周囲が密かに気を使い、二人っきりになせるなど、様々な条件が揃った時、一線を越えてしまったのだ。
そう、昨夜はお楽しみだった。
翌朝、一糸纏わぬ姿で朝を迎えた二人。
幸福感に包まれつつも、己の所業に頭を抱えたくなった。
だが、それも一瞬であった。
一度タガが外れれば、今更取り繕う必要も無くなり、彼等は開き直ったのだ。
また、この件については双方の両親からも特にお咎めは無く、公認状態であった。
そうなったらもう、何も怖くない。
二人は若さと情熱に溺れた。
その頃、二人にとって兄であり、長年の婚約者であった男が戦場で必死に戦っていたのだが、それに対する後ろめたさすら、彼等を燃え上がらせる一因となっていた。
当然と言えば当然の話で、ユーフィニアは身籠った。
その結果多少順番が変わったが、ヴィオールを新たな王太子とし、ユーフィニアをその婚約者として正式に婚約を結ぶ事になった。
その頃、漸くホープス王国の準備が整い、遂に打って出る時が来た。
これで戦争も終わると、そう思っていた矢先に、ヴァーリオ達がロックス王国軍を撃退するという知らせが届いたのだった。
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