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一周目のアレコレその1

一周目、ヴァーリオ亡き世界の話です。

ざまぁという言うほどではないですが、割りとざまぁなお話になります。

「ヴァーリオが死んだだと?!」


 その訃報にオーケス王は驚愕した。

偉大なる王であった父に似た風貌を持つ、第一王子ヴァーリオ。

そんな息子に対して、彼は長年苦手意識を持っていた。


 父は王太子の頃から麒麟児と謳われ、その評判に相応しい成果を出していた。

王となってからも辣腕を振るい、オーケス王国を発展させた。

そんな男の元に生まれた現オーケス王、ヴェイスは幼い頃から劣等感を抱えていた。


 偉大な王であり父であるヴォルカは、荒れた時代の中で、諸外国と渡り合い、見事に国を治めていた。

当然ながら民達は、偉大なる王の血を引くヴェイスにも、父のような強さを求めていた。

残念ながら、彼にはその才覚が無かった。

ただ、全くの無能という訳でもない。

平和な世の中においてなら、王としては及第点と言える程度には能力はあったのだ。


 妻である現王妃とは典型的な政略結婚だった。

当然、決めたのは父だ。

ただ、それについては特に思うところは無い。

当たり前の事だからだ。


 王妃は今も昔も自分を支えてくれている。

跡継ぎである男児を二人産み、政においても見事に自分をサポートしてくれた。

王妃としての義務をきちんと果たしてくれていたのだ。


 彼にとっての不幸は、何時まで経っても父の目には、自分が不甲斐ない息子と映っていた事だろう。

父が退位し王となった後も、何かと父が干渉した。

一国の王でありながら、力関係は王太子時代と何も変わらなかった。

ヴェイスは自分がお飾りの王と何ら変わらない事に対して日々、鬱屈した想いを抱いていた。


 そんな想いが溢れ出して来たのは何時からだったか?

第一王子であるヴァーリオに、父の面影を見た時か?

父は自分に似た容姿を持つヴァーリオに目を掛けていた。

一つ下の第二王子であるヴィオールには、それほど関心を持たなかった。

ヴェイスは逆に、己に似たヴィオールを溺愛していた。

そして、ヴァーリオに対しては愛情も関心も薄れていった。


 偉大な王であった父、ヴォルカに似たヴァーリオ。

凡庸なヴェイスに似たヴィオール。

しかし、持って生まれた才覚は逆であった。

ヴァーリオは王として可もなく不可もない、正に凡庸なヴェイスの息子らしい子供だった。

反対にヴィオールは、皆が求めた強き王になれるだろう才覚があった。


 ヴェイスは思った。

自分に似た容姿を持ち、偉大な王に成り得るヴィオールこそが、次代の王に相応しいと。

だが、ヴォルカはヴァーリオを支持した。

表向きは長兄が王位を継ぐべきなどと、尤もらしい理由を述べていたが、本心は別だった。

自分に似た姿のヴァーリオこそ、この国の王になるべきだと、そう思っての事だ。


 騏驎も老いぬれば駑馬に劣る……偉大な王であったヴォルカもまた、そうであった。

彼としては、周りに優秀な者達がいれば問題ないという計算があったのだが。

実際、息子であるヴェイスがそうなのだから、問題無いと思っていた。

故に、ヴァーリオには優秀な令嬢を婚約者として宛がう事にした。

フォークス公爵家のユーフィニア嬢だ。

その評判はヴォルカも聞き及んでいる。

血筋、家挌も申し分なく、ヴォルカは早速婚約を結んだ。

これが後の、第一王子ヴァーリオの一周目の人生を破滅させる切欠になっていた事に、当時は誰も気付かなかった。


 議会は紛糾していた。

和睦の為に輿入れしたロックス王国の姫が、よりによって夫である第一王子を殺害、直後に自ら命を絶った事件によって。

間違いなく和平条約は破棄されるだろう。

つまり、再び戦争が始まる。


 オーケス王国は前回勝利しているが、その時戦った辺境伯軍は大いに疲弊していた.

現在大急ぎで軍の再編をしているが、ダメージは大きく、直ぐに立て直す事は出来ていなかった。

そんな状況の中で議会が紛糾している理由は、戦争が避けられない事に対しての認識は共通しているのだが、そのやり方について纏まらなかったからだ。

端的に言うと、守るか攻めるかでだ。


 王太子を降りたとは言え、この国の第一王子を殺めたロックス王国を誅する為に攻め込む考えを持つ派閥と、ロックス王国が攻めてくる事を念頭に防衛に徹するという派閥が対立していたからだ。

前者は一度勝利している事もあって、強気な態度だ。

後者としては、ロックス王国にはまだ余力があるので、無理に攻めずに先ずはこちらの戦力を固める事が先決だと主張する。

どちらの言い分も理解出来るヴェイスは、決断出来なかった。

ここに来て、ヴェイスは頼りない王の姿を露呈してしまった。


 オーケス王国が手を拱いてる間、ロックス王国は素早く軍を再編し、再び侵攻を開始したのだった。

ロックス王国が再び攻めてきた時、オーケス王国の辺境伯軍は、あっさりと降伏した。

疲弊した状態で戦った処で勝てるはずも無く、悪戯に犠牲を出すだけだと判断したからだ。

ヴァーリオの事もある。

ロックス王国を退けた、国の英雄たるヴァーリオの末路を知った辺境伯は、今の国王達に愛想を尽かしていた。


 元々、辺境伯であるドーラムと前王ヴォルカは盟友であった。

彼らの知と武力によって、オーケス王国は方々に火種を抱える大陸において、その地位を確固たる物にしていった。

だからこそ、ドーラムから見て、ヴォルカ程の才覚を持たないヴェイスに対して、不満を抱いていた。

今回、それが遂に噴出したのだった。


 盟友ヴォルカの崩御からそれほど間を置かずに、ロックス王国が攻めてきた。

ドーラムはそれに対抗するも、敵の勢いの強さに苦戦を強いられた。

そんな時、第一王子ヴァーリオが救援に駆け付けた。

ヴァーリオの評判は聞き及んでいた。

若い頃のヴォルカに似た容姿を持ちながらも、その能力は父であるヴェイスと然程変わらない程度の物である事も。

正直な所、ヴァーリオよりは弟である第二王子ヴィオールの方が役に立つと、ドーラムは思った。

ヴィオールこそ、若い頃のヴォルカを思わせる資質があったからだ。

未だ学生の身であるヴィオールが、戦争に出られる訳が無いのだが。


 案の定、ヴァーリオには乱世を生き抜く覇王の様な資質は見られなかった。

ただ、出来ないなりに何とかしようとする気概は感じられた。


 敵の攻撃が激しくなる中、苦境に立たせられる辺境伯軍。

ドーラムの計算では、西の同盟国であるホープス王国と共に、王都から援軍が来るはずであった。

だが、ロックス王国の力は、彼の想像を超えていた。

このままでは援軍が来る前に、磨り潰される。

進退窮まった状況で、一刻も早く救援の報せを待つが、未だ王都からの答えは無かった。


「最早、これまでか……」


 降伏し、自身の首と引き換えに辺境伯領の民の助命を請うか、玉砕覚悟で仕掛けるか、彼は選択を迫られる事になる。

その時、ヴァーリオがドーラムの元に訪れる。


「将軍、私に考えがあるのだが、聞いて貰えるか?」


「……お聞きしましょう」


 この時、ヴァーリオが提唱した策が見事に嵌り、辺境伯軍はロックス王国軍を見事に撃退するのだった。

この一件で、ドーラムの中でのヴァーリオの評価が反転した。

百戦錬磨の彼ですら予想もしなかった、大胆なヴァーリオの策。

それを実践する為、自ら最前線に立ったヴァーリオの姿に、盟友ヴォルカの姿を重ねたのだった。


 ヴァーリオこそオーケス王国の王に相応しい……ドーラムはそう思った。

その後、戦後の処理に忙殺され、ヴァーリオの姿を見る事は無かったが、いずれ近い将来、彼は立派な国王として即位するだろう…そう思っていた。

だからこそ、その後のヴァーリオの末路を知った時、彼は激しい怒りと悔恨を抱く事になった。


 戦争に勝ち、国を救った英雄が、いつの間にか婚約を解消され、王太子からも外された挙句に、王家直轄地とは名ばかりの、未開の地に送られるなど普通は有り得ない。

更に和睦の為に、敵国であったロックス王国の姫と政略結婚をさせられる。

一体これは、何の罰なのだろうか?

最悪だったのは、嫁いで来た姫によって、ヴァーリオが殺害された件だ。

これによって和平条約も破棄されるだろう。

賠償金も得られず、ただ兵と英雄を失っただけになってしまった。

あの戦いの結末がこれで、再び戦いが起こる。

この現実に、ドーラムの心は折れた。


「辺境伯軍が戦いもせずに降伏だと?!」


「馬鹿な! ドーラム将軍ともあろう者が、なんと言う体たらくだ!」


「不味いぞ、このままではロックスの者共が、王都になだれ込んで来る!」


「だから私は言ったのだ! しっかりと守りを固めるべきだと!!」


「いや! もっと早く、こちらから攻め入れば良かったのだ!」


 議会は阿鼻叫喚だった。


「西のホープス王国はどうなのだ!?」


「そ、それが、軍の再編成にまだ時間が掛かりそうだと……」


「前回といい、今回といい、あの国は何なのだ? 本当に我々と歩調を合わせる気があるのか?!」


 常に怒号が響く議会において、ヴェイスは無言だった。

泰然自若……ではなく、ただどうして良いか分からずに、動けないだけだった。

国王は動かず、大臣を始めとした国の重鎮達は右往左往し、ただ混乱しているだけの議会に対して、王太子ヴィオールが喝を入れる。


「静まれ! 皆の者よ! 此処は何をするべきかを決める為の場であるぞ! 冷静になり、出来る事、やるべき事を一つ一つ確認するのだ!」


 議会に轟くヴィオールの言葉に、重鎮達は徐々に落ち着きを取り戻す。

成人したばかりであるが、長年の初恋が実り、渇望していた王太子という立場を手に入れたヴィオール。

そんな威風堂々たる姿に、議会にいた者達は、前王ヴォルカの面影を感じていた。


 ヴィオールによって落ち着きを取り戻した議会は、今後の事を話し合い、一つに纏まって行く。


「……では、ロックス王国軍に対しては、この様に対処するという事で。陛下、よろしいですね?」


 意見も纏まり、具体的な対策も決まったので、ヴィオールはヴェイスに確認を取る。


「あ、ああ。良きに計らえ……」


 紛糾した議会を纏め上げたヴィオールの姿に、亡き父の姿を重ねたヴェイスは、ここで悟った。

本当の意味で、自分に似た息子は誰だったのかを……長年劣等感を抱いていた父に、似ていたのは誰だったのかを……。


 やるべき事を決めた重鎮達の動きは早かった。

皆それぞれの役割を果たすべく、それぞれの部署へと去って行った。

王妃もヴィオールもこの場を去って行った。

ヴェイスだけが、玉座に取り残された。


 一人残されたヴェイスは、先ほどの事を思い返す。

右往左往する議会を纏め上げた豪腕に、国王である父を立てる様にして、その実有無を言わさぬ圧で了承を得るヴィオール。

それは正しく父の生き写しであった。


「うう……あああ……」


 何の事は無い。

これまで父に押さえ付けられていたのが、今度は息子から突き上げを食らう事に変わっただけだ。

いや、相手が息子だけに、沸き上がる劣等感は父の比ではないだろう。

だからと言って、ヴィオールに王位を明け渡す事も出来ない。

父の崩御からそれほどの時は経っていない上に、ヴァーリオの喪も明けていない。

また、ヴィオールがいくら大器とは言えども、若輩であるし、立太子したばかりである。

その上戦争中だ。

ヴェイスは、今も昔も変わらず、己よりも上の存在に踏み潰されるのだった。


 その後のヴェイスは正にお飾りの王だった。

ヴィオールを中心に纏まる議会。

ヴェイスはただ、決まった事を了承し、書類に判を押すだけの存在だった。

誰も彼も、王妃ですらヴィオールの下に付き、身重なユーフィニア王太子妃に変わり、ヴィオールをサポートしている。


 父から息子に変わっただけで、ヴェイスの立ち位置は何も変わっていない。

そんな現実に、ヴェイスは打ちひしがれる。

一人、執務室で書類に判を押しながら、ヴェイスはどうしてこうなってしまったのかを考えていた。


 あれから何も起きず、ヴィオールが王位を継ぐまで王として国を治めていれば、後は穏やかに余生を過ごせていただろうか?

それ以前に、ヴァーリオを王太子から引き摺り下ろさなければ、ヴァーリオが王となり、ヴィオールがそれを補佐するという、安定した未来が待っていたかもしれない。

そもそも戦争が起きなければ、父が亡くなっていなければ、そうなっていた。


 父の面影を持つヴァーリオには苦手意識を持っていたが、よくよく考えてみれば彼こそ正に自分に似た息子だった。

弟であるヴィオールに劣るとされながらも、不貞腐れる事無く、未来の王と成るべく、懸命に努力していたヴァーリオ。

それは正にかつての自分だった。


「ああ、私はなぜ、あんな事を……ヴァーリオ……すまぬ、すまぬッ! 私が愚かだったのだ……」


 ヴィオールは自分に似ていた。

その上で父のような大器だった。

だから、ヴィオールに理想の自分を投影していた。

だから、彼を何としてでも王にしたかった。

だが、ヴィオールは見た目が自分に似ていたものの、その在り方は父と同じだった。

ヴァーリオは見た目が父に似ているだけで、その境遇はかつての自分と同じだった。


「常に比較され、自分の方が劣るという現実の辛さ……それを私が、一番良く分かっていたのに……」


 王として、父として、劣る者同士として、その気持ちを分かち合う事が出来たはずだった。

だが、ヴァーリオはもう、いない。

どれだけ悔やんでも、どうにもならない。

仮に時を遡ったとしても、やり直す事は出来ない。

それが出来るのは、記憶を持ったヴァーリオだけだ。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局は自分を哀れんでいるだけでヴァーリオに悪いことをしたとは思っていなさそうでモヤモヤしています。 しかも、新王太子もその妃も王妃も全然反省していない。 辺境伯は折れちゃってる、そもそもヴァ…
[良い点]  父王ざまぁ。  こういう、本人にとっての核となる部分に刺さる所で後悔させられると良いざまぁ感ありますね。  後世の歴史書や教科書でも祖父と孫に挟まれて名前すら暗記してもらえない扱いになる…
[良い点] やっぱり色々な視点で見るのは面白い! [一言] 三周目?が楽しみです!
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