エピローグ:ピア
一応、ここで終わりになります。
ヴァーリオとの出会いから後、ピアは学園で勉学に励む。
一通り貴族としての礼儀作法をマスターし、それ以外にも様々な知識を学んだ。
乙女ゲームとしての設定は知っていても、この世界における常識にはまだまだ疎い所があるからだ。
良く学び、学友達とも交流するなど、ピアは青春を謳歌した。
乙女ゲームのヒロインのような振る舞いをせず、地に足を着けた学園生活を送るピア。
特に悪目立ちする事も無く、半分平民という出自を侮られる事も無い、一学生として平穏に過ごしていた。
友人にも恵まれ、その内の一人である令嬢から兄を紹介された。
彼は男爵家の三男に当たり、爵位は継げないが、西の隣国であるホープス王国に渡り、商家を営んでいるそうだ。
歳は5つ上で、優しく真面目そうな雰囲気の男だった。
勿論、原作には影も形もない人物である。
彼の営む商家はそこそこ繁盛しており、中々に裕福であった。
それが故に金遣いの荒い女性に目を付けられ、苦労したそうである。
学園で真面目に勉強し、周りからの評価も高いピアはそれを見込まれ、友人から兄を紹介されのだった。
「うーん、結構イケメンだし、お金持ちだし良い人っぽいし、すっごく良いんだけど……」
ピアの望みは前世では果たされなかった、穏やかで幸せな結婚生活だ。
そういう意味では、紹介された男は非常に優良な物件である。
問題は、自分の血縁上の父親だ。
アレがしゃしゃり出て来られると面倒になると思われた。
「……そういう訳で、あの父がどんな難題を貴方に押し付けるかと思うと、二の足を踏んでしまって……」
ピアは包み隠さず我家の事情を目の前にいる男……エレクトに告げた。
「そうですか。正直に話してくれて嬉しいです。ですが、貴女が気に病む事は無いですよ」
そう言って優しく微笑む。
超が付く程の美形ではないが、何処か安心出来る様な笑顔だった。
ピアはその姿に少しばかり心が揺れる。
「私とて男爵家の生まれですし、貴族の事は十分に理解しております。問題はありません。全て私の方で対処しましょう」
「え……それって……」
その後二人は結婚に至った。
開眼したピアの貴族令嬢としての佇まいに加え、前世の日本人的な奥ゆかしさ、乙女ゲームのヒロインとしての魅力に、エレクトの方が夢中になったからだ。
その結果、ピアの父が色々とやらかしかけた事を、エレクトは見事に抑え続ける事で、ピアの抱える面倒な事案を全て解決する、スパダリへと進化した。
ピアは今、ホープス王国で夫と共に商家を営みながら、幸せな生活を送っていた。
「どうもオーケス王国との関係が怪しい雲行きになって来たね……」
エレクトが今朝の新聞を読みながら渋面を作る。
「この国の王太子様にも困ったものだ。まさか、ユーフィニア公爵令嬢を巡ってオーケスの第二王子と張り合うなんてねぇ……」
悪役令嬢のユーフィニアだが、どうもヴァーリオの弟の第二王子だけでなく、ホープス王国の王太子とも繋がりがあったようだ。
これについては彼女に非があるのではなく、実は幼い頃に二人が出会っていた事に起因していたようだが。
転生ヒロインと攻略対象がざまぁされる物語において、悪役令嬢は真の主人公といえる。
つまり、ユーフィニア公爵令嬢こそが、この世界の真の主人公である為、色んな所にフラグが立っていたようだ。
その内人外の王とかも関わってくるのかもしれない。
「偉い方の事情なんて知らないけど、振り回されるのだけは勘弁して欲しいものね」
「まったくだね」
苦笑するエレクト。
「ま、私達は私達で何時も通りにして行きましょう」
「あ、あ、待って待って。君はあんまり無理しちゃダメ。今日は大人しくしていなさい」
「あら? 私はまだ全然平気よ?」
「見ているこっちからすると、落ち着かないのです」
そう言ってエレクトはピアの身体を優しく支えながら、椅子に座らせた。
「もー、別に病気じゃ無いんだけどなー」
「それでも、だよ。君はちょっと無理をし過ぎる所があるからね。少し退屈に思える位が丁度良いんだよ」
「はーい」
「はい。よろしい。では私は店に出て来るよ。……ちゃんと休んでなさいね?」
「もう、念を押さなくても大丈夫ですー」
「はは、じゃあ、行って来るね」
「いってらっしゃいませ、旦那様」
そう言ってエレクトは店の方に出て行った。
少し過保護な所があるが、ピアを本当に大事に思ってくれる、良い旦那であった。
ピアは腹部にそっと手を当てる。
命の鼓動をそこに感じていた。
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