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一周目のアレコレその6 ~エピローグ~

エピローグです。

 それから幾らかの年月が経った。

オーケス王国はヴィオールを王とし、新体制に移行する。

尤も、重鎮達の顔触れは大きく変わったが。

国の運営には、ホープス王国の者達が携わるようになった。

ヴィオールには新しい妃が宛がわれた。

無論、相手はホープスの令嬢だ。

政略結婚によって、縁をより強固に結んだ両国ではあるが、以前としてオーケス王国はホープス王国の属国扱いである。

ヴィオールは常に屈辱の日々を送っていた。


 愛した元妻との間に出来た子は、第一王子でありながら日陰の人生を歩んでいる。

そして、王族の義務として政略結婚した憎き国の女との子を、王位に就けるよう取り計らう始末だ。

それが屈辱でなく何と言おうか。

それでも国の存続の為、全てを飲み込んで毎日を生きる。

いつかきっと、恨みを晴らすべく。


 ヴィオールは様々な手を打っていた。

どうにかして、オーケス王国を元に戻そうと。

手始めに彼は、第二王子にして王太子となった息子を甘やかした。

常に褒め続け、息子の自尊心を満たす、優しい虐待。


 反対にヴォルス第一王子は厳しく教育した。

この国の本当の王に相応しい人物になるよう、徹底した。

周りから見れば虐待に見えるかもしれない。

だが、それこそ彼等の狙いだった。


 厳しい態度を取られるヴォルス第一王子を尻目に、甘やかされていったオーヴェ第二王子はどんどん増長して来た。

今ではヴォルスを、無能と嘲る始末だ。

王族としての教育が、実は最低限に届くかもわからない程に進捗が遅れている事に、オーヴェは気付かない。


「ふむ……素晴らしい出来だな」


ある時、ヴィオールはヴォルスの元にやって来た。


「陛下……」


 畏まるヴォルス。


「良い。楽にせよ。それと、ここでは父と呼んでくれ……愛しい息子よ」


 常に厳しい表情を崩さなかったヴィオールだが、この時は優しい笑顔で息子を見ていた。


「はい。わかりました。父上」


 普段の彼等からは想像も付かない様子だろう。

だが、これこそが彼等の本来の姿だった。


 ヴィオールは表向きはヴォルスに対して厳しい態度だが、裏ではこうして良好な父と子の関係を保っていたのだ。

彼にとって愛する息子はヴォルスであって、当然ながら彼の後を継ぐのもヴォルスと決めている。

今はそれを表に出せないだけだ。


「流石は我が息子だ。このまま直ぐにでもお前に王位を譲れそうだよ……邪魔者を一掃したならば、な」


 にこやかな笑みを浮かべながら、物騒な事を口走るヴィオール。

彼とてやられっ放しではなかった。

密かに、オーケス王国が独立するよう、水面下で動いていた。

とは言え、オーケス王国内に置ける自身の派閥だけでは難しい。

故に彼は外部から協力者を募った。

他の周辺国にも根回しをしているのである。

他国もホープス王国の台頭を警戒している為、協力関係を結ぶ事が出来た。

これはヴィオールの卓越した手腕による所が大きい。


 そんなオーケス王国の最大の支援国、それはロックス王国であった。

ロックス王国はオーケス王国がホープス王国の軍門に下る切っ掛けではあるが、あれからロックス王国で政変があった。

二度に渡る敗北によって、莫大な負債を抱えたロックス王国では、現王家が失脚し、新たな王家が起こされた。

前王家の分家筋に当たる、非戦派が主流の一派である。

ヴィオールは過去の遺恨を流す事で、密かに新ロックス王国と協力関係になったのだった。

そうやって少しずつ、確実に歩を進めていた。


 オーヴェにしても仕上がりは順調だ。

かつて周りに煽てられ、良い気になっていた自分を参考に、オーヴェも同じ様に褒めそやし煽ていたら、増長するようになった。

自分の時とは違い、教育レベルも下げていた為、暗愚な王子の誕生である。

周りの側近も、ホープス王国から来ている者達で固め、更にそれ等は気位だけは高い愚物ばかりだ。

結果的に、神輿として担ぐ事も難しい愚か者集団が出来上がった。

婚約者であるホープス王国の公爵令嬢は、非常に優秀な為、その仲も険悪と言って良い関係だ。

更に追加として、オーヴェにはハニートラップ要員としてとある男爵令嬢を宛がった。

普通の令嬢と違い、庇護欲をそそるような娘だ。

母親は平民との間に生まれた庶子だったらしい。

当初は、母親と彼女の伴侶である男爵は、ヴィオールの計画に難色を示したが、権力と計画の成功の暁には王家が全面的に支援するという事を条件に、承諾させた。


 オーヴェはアッサリと男爵令嬢に絆された。

それまで褒められ甘やかされて来た男が、自分よりも遥かに優秀な婚約者に劣等感を抱いた所で、自分を全肯定してくれる少女が現れたのだ。

簡単に靡く始末である。

ここまでは計算通りだ。


 そして準備も粗方終え、計画の実行に移る時が来た。

先ずは手始めに、オーヴェ第二王子の婚約破棄騒動だ。


「婚約を破棄する!」


 そう言って学生達の晴れの舞台を台無しにしたオーヴェ。

その後、男爵令嬢に対する虐めや不正の証拠など、ありもしない捏造でフォルン公爵令嬢を追い詰めるが、そこに来賓の一人であるヴォルス第一王子が現れ、捏造を一刀両断した。

結果、フォルン公爵令嬢の潔白が証明され、逆にオーヴェ達が断罪される事になった。

多くの貴族達が居る公の場でのオーヴェの犯した罪は重く、オーヴェは王太子の座を追われる事になる。

そして、ヴォルス第一王子が新たに王太子として立太子する事になった。


 流石のホープス王国も、この事には口を出せなかった。

何故なら、婚約破棄されたその場で、ヴォルスがフォルンへとプロポーズしたからだ。

実は既にヴォルスはフォルンと秘密裏に接触しており、彼女からの信頼を勝ち取っていた。

オーケス王国の第一王子と、ホープス王国の公爵令嬢が結ばれた事で、結果的には政略的に何も問題は無くなっていたので、ホープス王国は文句を付ける事が出来なかった。

漸くヴィオールは、愛しい我が息子を、次期王位継承者へと押し上げる事が出来たのだった。


 それからは、ヴィオールは各国と連携し、自国内に蔓延ったホープス王国の勢力を一掃していく。

更に本国に対しても、武力による衝突こそなかったものの、ジワリジワリと国力を削って行った。

それには、王太子妃となったフォルンの協力もあった。

彼女はホープス王国に対して愛想を尽かしていた。

国の利益の為とはいえ、長年自分を顧みないオーヴェを婚約者に据えていた、生家及び本国に対して。

意図的に無能へと育て上げたオーヴェであったが、フォルンの生家も大概であった。

将来は一国の国母となるフォルンに対し、所詮は属国の王妃に過ぎないと軽く見ていた公爵家の怠慢があったからこそ、ヴォルスは彼女の心を手に入れることが出来たのだった。

もっと公爵家がしっかりとしていれば、フォルンも全てを飲み込む事が出来たであろうに。


 また、ホープス王国に問題が起きていた。

兼ねてから対立関係にあった第一王子派と第二王子派の仲が、決定的に拗れたのだった。

それは第一王子と第二王子の、どちらかを立太子するかという問題から発生した。


 妊娠中に抱いたサイザーへの不信感は、第二王子の出産後も変わらず、王太子妃は第二王子を手ずから育てる事にした。

本来はスペアの立場である第二王子だったが、王太子妃の下で育てられ、成長して来た彼は将来の王として、第一王子と遜色ないレベルに達していた。

結果、国は第一王子派と第二王子派に分かれる事になった。

サイザーが国王になってからも、両者の溝は少しずつ広がって行った事もあって、実質は国王派と王妃派に分かれた事を意味していた。

そういったゴタゴタがあった為、ヴィオールはその隙を突けたのだった。


 ヴィオールがヴォルスの婚約者としたフォルンの生家は、王妃派に属する。

フォルン自身は国や家族に愛想を尽かしているが、そこはヴォルスが上手く誘導した。

フォルンを通し、王妃派に天秤を傾けつつ、オーケス王国の独立に動いた。


 こうして、周辺国との連携や、ホープス王国の王妃派と力を合わせる事で、オーケス王国は遂に、ホープス王国から独立する事が出来たのだった。

ホープス王国の次期王位継承者は第二王子となり、実権は王妃派が握る事になった。

国王であるサイザーは失脚した。

数々の後ろ暗い事案が白日の下に晒された結果、彼は幽閉される事になった。

第一王子も中枢から遠ざけられる事になった。


 長きに渡る屈辱を晴らし、感無量のヴィオール。

だが、彼にはやるべき事があった。

愛する妻であるユーフィニアの奪還である。

彼女の状況は既に把握している。

それでも、彼は諦めなかった。


 諸々の手続きを終え、ヴィオールは遂にユーフィニアと再会した。

既に彼の知る彼女では無くなっていたが。


「我が愛しの妻、ユーフィニアよ……迎えに来たよ。長らく待たせて、済まなかった……」


 そう言って彼女を抱き止める。

ユーフィニアは何の抵抗もしなかった。


 その後、ヴィオールはヴォルスに全てを託して退位した。

今は離宮にて、ユーフィニアと共にいる。


「美しい薔薇だろう? 君の為に精魂込めて生み出した逸品だ」


 そう言ってヴィオールは、車椅子のユーフィニアと離宮の薔薇園を散策していた。

ユーフィニアは虚ろな目でそれを眺めている。

果たして彼女の目には、美しい薔薇が映っているのだろうか?

ヴィオールはそんな彼女を優しい目で見守りながら、車椅子を押した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第二王子は戦争中もずっと安全圏でぬくぬくしてたし凄絶な最期を迎えて欲しかった。 戦場に立てない騎士の頭領なんぞは生きる価値なし。
[気になる点] 結局、第二王子の波乱万丈物語でしかない。 没落したわけでもなく、最後には殴り返して国も妻も取り戻しているわけだから、こいつらに謀殺された様なものである第一王子に比べると特に悲惨さも無い…
[一言] ユーフィニア傾国物語〜完〜 いや、ロックスが攻め込んできたこと以外全部ユーフィニアが原因だったなって… 実はロックスもだったりして
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