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さようなら先生

作者: 高見もや

天使がいた。

天使は流転を回り、サナトリウム近くの池に落ちた。

それを京子に話すと、それは流れ星が沈んだのよ。と話してくれた。

俺はそれを聞くと無性に眠たくなり、常備薬を飲んで、彼女の胸を借りて眠った。

京子は俺の頭をなでながら、

「大丈夫だから。何も問題ないから。あなたはきっとよくなるから」と繰り返していた。


回診に回るこの病院内では2人の患者が入院している。

あくまでもサナトリウム病院であり、緩和ケアを担当しているということもあり、看取りが主な仕事だ。

さほど規模の大きな病院ではない個人経営の病院であるため、在宅と変わらない雰囲気を主としている。

私もこの病院に勤めて数年がたつが、ここのメンツは大きくは変わらない。意外と緩和ケアをしながらも、人は意外と長く生きるのだ。


キー


扉が開いた。


「京子先生」

「真田先生、おはようございます。今日も患者さんは元気ですね」


「そう・・・ですね・・・・」

「京子先生はあたりを見回す」

私はあたりの掃除をはじめ皆さんに挨拶を始めた。


「明美さん。今日も元気ですね」

「はい、今日も元気です。術後も良好で、もういつ死んでもいいくらいです」

「ダメですよ。いつまでも長生きしてもらわないと。そのためのサナトリウムなんですから」

「真田先生、いつもありがとうございます。痛みがないのは先生のおかげです。こうして2年も痛みもなくここで暮らせるなんて」

「不思議なものもあるもんだ。あっはっははっはっは」

どこかこう薄そうにしているのは園田明美さん。末期がんでここに入院してきてからかれこれ2年ここにいる。

モルヒネによる治療で緩和治療を行っており本来なら点に召されていてもおかしくないのだが、不思議と生きている。

俺の腕のおかげか?いや、そういうのは関係ない気がする。人は死ぬときには死ぬのだ。

子供が一人いると言っていったっけ?旦那さんと別れて、今は子供は旦那さんのもとにいると聞く。寂しい思いをしていないといいが。


「はい、カーテン明けますよ」

「後藤さん。大丈夫ですか?」

昔は音楽界隈でブイブイ言わせていたという後藤さんも今や緩和医療のお世話になっている。

彼女は白血病がツアーの最中に見つかり、サナトリウム行きというわけだ。

人の生死とはわからないものだ。家族や友人が見舞いに来る。恵まれた人だ。

だいたい緩和ケアにかかる人というのはもう一人きりになっていることが多い。生活保護も珍しくはない。

そんな中、多くの人に見守られながら、財産も名声もありながら緩和ケアに来る人は珍しい。


「頭痛いな」

「真田先生、体調がすぐれないようなら、頓服を飲んでください」

「すいません。京子先生。どうも心臓が弱くて」


「少し休憩してください」

「ありがとうございます」


真田は京子の胸の中ですやすやと寝息を立て始めた。その腕はまるでがりがりにやせ細ったサナトリウムの患者の腕のようだ。


夜、サナトリウムに静かな時間が流れる。真田の寝息しか聞こえない夜だ。

「真田先生、起きてください。夜ですよ」

「すいません、京子先生。患者はどうですか?ずいぶん眠っていたようで。」

「心配ありませんよ。皆さん具合良さそうにしています」


「これからどうなるのでしょう?」

「何がですか?」

「この診療所です」

「私たちと患者さん二名しかいないのに運営が続くのでしょうか」

「問題ありませんよ。」


この部屋にはギターと人形しかない。


私の名前は「真田京子」

夫はかなり長いこと、統合失調症を患ってきた。ある日、統合失調症を抱えながらも仕事をしてきたが、統合失調症の芽が爆ぜてしまった。

いつか状況がよくなることを信じて、私たちの長いロールプレイが始まった。

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