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優しい嘘

本日2回目投下します、よろしくお願いします。

 工房に帰ると宗一郎が玄関で仁王像におうぞうと化していた。

 「おっそーい、遅い、遅い」

 「ごめん、父さんの所にいってた」

 「そうか、それは偉いぞ」

 「なに、それ、子供じゃないんだから」

 「17才は、まだガキだ」

 「ちょっと使い分け激しくない?」

 「なんでもいいじゃあないか、ちょっとこい」

 

 工房の裏には試験場がある。

 コンパウンドボウが置いてある、形状が変わっている。

 さらに横には、野球のボール?


 「試してくれ」

 コンパウンドボウを差し出す、自信たっぷりだ。

 「それでは、お手並み拝見しますか」


 矢をつがえて引く、あれ、軽い。

 (威力いりょくが落ちたら本末転倒よ、宗一郎くん)

 放つ。


 ドヒュッ   ズドンッ


 50m先の的のど真ん中に突き刺さる、初速が早くなっている。

 さらに矢が空中でたわまない。


 「驚いた!?どういう仕掛けなの、引力が軽くなったのに威力が増してる」

 「そうだろう、素材を替えたのだ、弓の表面と弦に炭素繊維を使ったのだよ」

 「これはいいわね、速射のスピードが上がるわ」


 3本続けて射る。

 約8秒、1本あたり0.3秒も短縮できた、慣れればもっと早くなるかもしれない。

 

 「すごいわ、炭素繊維」

 「違う、すごいのは俺様じゃあないか」

 「次は、これだ」

 本当に野球のボールだった、違うのは縫い目の部分に規則的な凹凸おうとつがある。

 「見てな」

 ピッチャーよろしくサイドスローで投げる。


 ピュンッ  シュルルル


20mほど先にある岩を回りこんで岩の向こう側に落ちた、えげつない確度で曲がった。

 

 「ひょっとして爆発するの!?」

 「ご明察めいさつ、盾の向こうに回り込んで爆発する、名付けて曲射手裏球!」

 フンスッ、鼻息が荒い。

 「なんでサイドスロー、オーバーで投げた方が曲がるんじゃないの」

 「50肩で手があがらん」

 

 投げてみろとボールを渡される。

 スローイングは得意だ。


 「い目の凸に指をかけて、ボールを回転させるのだ」

 「オーケィ、やってみるね」


 軽く振りかぶって腕を振り下ろす。


 バヒュッ  初速100Kmは出てる。

 投げられたボール爆弾は、まるで円を描くように岩をはるかに回り込んでいく。


 「すごい、これは使えるわ」

 「そうだろう、構想1週間、創作に3日だ」

 「恐れ入るわ、さすが変態マニア」

 「変態っていうな、勘違いされるだろ」

 「め言葉よ」

 「でも、狙ったところに落とすには練習が必要ね、今度の仕事には間に合わないわね」

 「次?もう行くのか」

 「明後日ね、護衛で隣町まで5泊6日」

 「隊長はだれだ」

 「セシルよ」

 「ん、そうか、なら良い、やつは慎重だ」

 「そうね、私もそう思う」


 「ちょっと早いけど晩飯にするか」

 「今日くらい私がやるわ」

 「ほほう、何を創ると?」

 「特性ビーフシチューでどう?」

 「いいねぇ、ご相伴しょうばんに預かるとしよう」


 お世辞にも、私の料理は美味しいとはいえない、でも毎回宗一郎は美味しいと嘘をつく。

 日常の小さな優しい嘘に、私を思ってくれる父母の愛情を感じる。

 淡いピンクのグラデーションの言葉が私をいやしてきた。


 「ありがとうね、宗一郎」

 「なにがだ」

 「なんでもないわ」

 「変な奴だな」


 工房の煙突からたなびく煙のように、つかの間の安寧あんねいが過ぎていく。


 復讐の業火がその心を満たす時まで。



 朝早く新調された装備で私は工房を後にした。

 今回の旅程では調理道具や食材がいらない分身軽だ、単独で受注するよりギャラは低くなるが危険度も低くなる。


 ユニオン(組合)に到着すると荷馬車は到着していて、サラリー組の隊長セシルと副隊長の山ちゃんがリスト表を持って準備を進めていた。


 「おはよう、セシル、山ちゃん」

 10歳以上年上の2人だが、フリーの私は2人に敬語は使わない。

 「やあ、メイ、受けてくれてありがとう、助かるわ」

 基本的にユニオンのサラリー組は盾役だ。

 革鎧装備の短槍たんそうスピア使い、セシルが右手を前にだす。

 右手で握手を交わす。

 「役不足かもしれないけど頑張るわ」

 「いやあ、メイの索敵さくてきに勝るものはないよ、なにより心強い」

 副隊長の山ちゃんは、背は小さいが剛力でならす戦斧せんぷ使いだ。

 私と同じフリーのスバルと泉はまだ来ていない、遅刻のくせは治っていないようだ。

 社会人として始業15分前は最低ラインの守り事だと私は宗一郎から言われている。

 時間にはうるさい。


 出発時間ギリギリになって2人は現れた。

 「すいませーん、寝坊しちゃって」

 「あれぇ、メイちゃんがいるじゃん」

 スバルと泉は21才、若いが曲刀を使うらしい、実力は知らない。

 ほとんど顔を合わせたこともないのにれ馴れしい。

 「どうも」

 そっけなく答えておく、あまり好きなタイプではない。


 確かに不足の事態に対して初撃の火力が足りない、特にオーガ相手では懐に飛び込まれてからでは遅い。

 

 意外と私の役割重要かもしれない。


 「旅程は片道3日、オーガの盗賊による襲撃が必発している、荷を盗まれるだけじゃなく、女もさらわれている、ユニオンの面子めんつにかけて、やられっぱなしではいられない」


 荷馬車3台の騎手3名、荷主1名、護衛5名の合計9名で商隊は朝日の方角へ出発した。


お付き合いいただいている希少な皆様、ありがとうございました。

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