手の届くところ
20話目投下します、よろしくお願いします。
騎馬から男たちが降りてくる。
「捕ったどーッてか」
「どうだ、アールヴか?」
乱暴に銀の髪を掴み上げる。
切られた耳を見つける。
「うーん、中古だな」
「ほんとだ、耳が無えしおまけに、ほれ」
ミロクの口をこじ開ける。
「あら、舌まで取られちまってんのか」
「こんなことすんのはオーガだな」
ああっ、やっぱりだめだった。
もう、ミルレオ様に会うことは出来ないだろう。
心配して探したりするだろうか、迷惑をかけたくない。
死にたいけれど、舌を噛むことさえ出来ない自分が哀れだった。
ブウゥゥン 『動かないで!』
突然頭の中に声が響いた。
ガシュッ
「ほげっ」
ミロクに縄を掛けていたマンハンターの男の頭に矢が突き抜けていた。
即死だ、後ろ向きに倒れてそれきり動かなくなる。
「なっ、なんだ」
ゴシュツ
「がっ」
もう一人
「嘘だろ、そんな!?どっから射って……」
キョロキョロと周囲を見回すが、見えるところに射手はいない。
ドッシュ
「はうっ」
三撃三死、凄まじい射撃精度。
たっ、助かったの!?
さっき、頭の中に響いた声、同族の感じがした。
安心はできない、単にマンハンター同志の争いかもしれない。
蹄の音は1頭?一人で三人を一瞬で倒したとすると怪物だ。
現れた鹿の影が自分に落ちた時、思わず身を固くして身構えた。
「大丈夫、怖がらなくていいわ」
以外にも鹿から降りてきたのは人間の若い女性だった。
腰からナイフを抜くと投げ縄を切断する。
「ああうっ」
ありがとうと言ったつもりだが、もちろん声にはならない。
「分かっている、辛かったね」
その人は喋れないのを知っているように、哀しそうに肩を抱いてくれた。
優しさだけでなく、私よりも、さらに苛烈で哀しい感情が流れこんでくる。
言いようのない恐怖、底の見えない山頂の突端に立たされているような身の竦む恐怖。
「ああっう!!」
思わずのけ反ってしまう。
「!?」
「伝わっているの?あなたもエンパス!?」
慌ててその人は身体を離した。
「私の名前はメイ、メイ・スプリングフィールド、ごめん、少し高ぶっちゃった」
もう一度手を握ると静かに感応を始める。
「あなたは…ミロク、そうアールヴのミロクね」
「!?」
「そう、私のエンパスはちょっと強いの、少しだけ覗かかせてもらったわ」
「でも、これ以上は覗かない、安心して」
「あうう」
「うん、話したいときは手を握って」
信じられない、エンパスは知っているけれども言語として読んだり、まして伝えることが出来るなんて聞いたことがない。
感受性が強いエルフ族にエンパスは多い。
もし、もし私にも出来たならミルレオ様と話すことが可能になる。
それが出来たならもっとお役に立てる。
マンハンターに捕らわれた絶望も忘れさせる希望だった、光が差した。
この人に教えを請いたい。
「取敢えず、ここを離れましょう、まだ仲間がいるかもしれない」
二人はエルーに跨り、一緒にエチダ藩に向かう宿場町へ草原を抜けて向かった。
運命の神がイシスとヘリオスを繋ごうとしている、悪戯か、愛情か。
街の門はユニオンの身分証で抜けることができた。
街はエチダ藩からの避難民たちで混雑している。
行く当てなどない者たちが不安そうにしている、物乞いも増えている。
不幸が不幸を呼ぶ、居場所を失った者たちの中には盗賊化するものたちが少なからず現れる、家族のため、生きるために奪う側に回る。
聖人や天使も、簡単に堕ちる。
奪われたものは、さらに弱い物から奪う、原始的な弱肉強食の終わらない連鎖が始まる。
復讐の業火に身を投じている自分に、持たない人が奪うことを批難する資格はない。
ただ、自分の手の届く範囲に起こる理不尽は見過ごしたくない。
神ではない、全員が手を取り合える世界などありはしない。
オーガ、生きる価値観の違い、善悪ではなく生物として、どちらが生き残る価値があるのか試されている。
もし、そんな試練を与える神がいたなら、その神は世界など愛してはいないのだ。
ユニオンと契約している安宿をいくつか回って部屋を確保することが出来た。
驚いたことにミロクは金を結構持っていた。
どうしたものか、話をしてみるしかないがエチダ藩への旅程を曲げることはできない。
宿屋の食堂ではアールヴは目立ちすぎる、少しくどい味になるが肉を挟んだパンの店屋物を購入して部屋で食べることにする。
部屋にはベッドらしきものはあるが布団などはなく、小さな窓がある2階だ。
野宿することを考えれば上等といえる。
それに男女のトイレが建物の端と端にあるのも防犯に優れていると言える。
小さな丸テーブルを挟んで2人で食べると以外にもミロクは肉を喜んで食べた、慣れているようだ。
一通り食べ終えると、ミロクが担いでいた袋から薬草だろう乾燥した葉をお茶にして淹れてくれた、敵意は感じない。
一口含むと苦い味が口の中に広がったが、不思議と後味はすっきりしている。
身体には良さそうだ。
メイの少し渋そうな顔を見てミロクが微笑んでいる。
( お薬ですよ、飲んでください )
そう言っているのが分かる。
「訳を聞かせてもらえる?」
テーブルの上に掌をだしてミロクの目を見る。
「うう」
素直に頷くと、小さなメイの手をさらに小さなミロクの手が握り返した。
さっきのように感情を送りつけないようにスーパーエンパシーを抑制して、相手の気持ちだけを読み取る。
メイは声に出して質問をしていく。
「あなたはアールヴのミロク、あなたの目的は、何処へ行こうとしていたの?」
⦅エチダ藩 ミルレオ様 蟻獅子ミルレオ様 助けたい⦆
「!蟻獅子ミルレオ 知っているの」
⦅恩人 助けたい⦆
「蟻獅子ミルレオもエチダ藩に向かっているのね」
⦅オーガ狩り⦆
「アエリア王子の酔狂に割って入るつもりなのね」
⦅人でなくなる 助けたい⦆
「あなたとミルレオの関係は?教えてもらえる、恋人なの」
⦅否 私 昔 奴隷 助けてもらった 恩人⦆
「でも、今は一緒にいるのね」
⦅はい⦆
「なるほど、狂戦士を人間に繋ぎとめていたのはあなたなのね」
「オーケィ、私もエチダ藩の戦いに割って入るのが目的、探してあげる、あなたの恩人を」
⦅嬉しい⦆
「あなたにとって大事な人なのね、蟻獅子さんは」
⦅大事 あの人 心 別な人⦆
「そうなの、以外と人間臭いのね」
⦅心 真ん中 その人 既 死⦆
⦅ミルレオ 魔人 会えなくなる⦆
「そう、あなたも切ないわね」
⦅助けたい⦆
「きっとあなたがいれば蟻獅子は人でいることができるわ」
⦅嬉しい⦆
蟻獅子ミルレオ 奴隷だったアールヴのミロクを助けたのだわ、狂人じゃない、話が出来れば共闘できるかもしれない。
オーガ狩りの目的が同じなら巻き込むことにもならない。
少なくとも敵にはならないで済む。
メイよりもはるかに年上、アールヴ種であるミロクは特に幼く見えるが40才くらいだろう。
イシスよりは年下だ。
きっとミロクの思いはミルレオに対する愛であり恋なのだろう、ミルレオのことを話す彼女からは敬愛の温かい気持ちが伝わってくる。
彼女の気持ちを助けてあげよう、私の手が十分届くのだから。
読了ありがとうございました。